flamingoまででまとわりついてきたメディア陣営を振り切るように更地にした玄人向け楽曲。
個人的に面白いと思ったところだけ切り取ります。
「馬と鹿」箇条書きまとめ
・人間性がゆらゆら揺れる前半、野性味たっぷりの後半
・得意の異国感コードII7を今回も使ってる!
・例によって意図的な不協和音=不協ではなく"野性味"〜米津ブランド安定。
・近代音楽の響きなエンディング。to be continued感。
お時間ある方はぜひ下記も読解ください。
"馬と鹿"コード還元概略
<A>
Cm Ab | Bb Eb /D | Cm F7/A |Bb Eb |
Cm Ab | Bb Eb /D | Cm7(13) F7/A Bb | Eb |
<B>
Ab Eb | G Cm7 | Db Eb | Fm |
Db Ab | G(#9) Cm7 | Ab Bb|Eb |Eb7 |
<サビ>
Ab Bb | Cm F | Dm7(b5) G7 | Cm7 C7 |
Ab Bb | Cm F | Ab Bb | Cm7 Eb |
Ab Bb Cm Gm | Ab Bb Cm Eb | Ab Bb Cm Gm |2/4 Ab Bb|
4/4 Eb | Eb |2/4 N.C.(Eb G7 ) |
<間奏>
Ab Bb Cm Gm| Ab Bb Cm Eb| Ab Bb Cm Gm| F#aug/G(またはF#dim/G)G7 Cm |
<A>
Cm Ab | Bb Eb /D | Cm F7/A |Bb Eb |
Cm Ab | Bb Eb /D | Cm7(13) F7/A Bb | Eb |
<B>
Ab Eb | G7M7 Cm7 | Db Eb | Fmadd9 Fm Fm7 |
Db Ab | G7(#9) Cm7 | Ab Bb|Eb |Eb7 |
<サビ>
Ab Bb | Cm F | Dm7(b5) G7 | Cm7 C7 |
Ab Bb | Cm F | Ab Bb | Cm7 Eb |
Ab Bb Cm G | Ab Bb Cm Eb | Ab Bb Cm G | Ab Bb Eb|
<間奏>
Ab Bb Cm Gm| Ab Bb Cm Eb| Ab Bb Cm Gm| F#aug/G(またはF#dim/G)G7 Cm |
<C>このCパートはコードで作られていないので弾き語りしたいなら各位が響く和音を探す必要があります。コードネームで考えない方が良いです(それをやると響きがチープになります)。
D#m A#m B F# | Fm G#dim7 Cm D7 |
Gm Cm F Gdim7 | Dm7(b5) G7 Cm |
D#m A#m B F# |Fm G7 Cm Gm |
Ab Bb Cm Gm |Ab Bb Eb |Eb | B/D# |Eb |2/4Eb |
<サビ>
Ab Bb | Cm F | Dm7(b5) G7 | Cm7 C7 |
Ab Bb | Cm F | Ab Bb | Cm7 Eb |
Ab Bb Cm Gm | Ab Bb Cm Eb | Ab Bb Cm Gm | Ab Bb Eb|
Ab Bb Cm G | Ab Bb Cm Eb | Ab Bb Cm Gm| Ab Bb Eb|2/4Eb |
B/D# C#/D# | B/D# |
注)赤字の音は旋律音として鳴っている音を和音に加えて解釈してます。
人間性がゆらゆら揺れる前半。
野性味たっぷりの後半。
という大河のような流れがあります。
Aメロ
Cm Ab | Bb Eb /D | Cm F7/A |Bb Eb |
「麻酔も」の「も」で「あれ??」っていう意外性を感じませんでした?
これに萌える人もいるでしょう。
これは「ドリアンのIV7」であるF7です。
Lemonでもflamingoでも出てきた「異国感のするII7」です。
氏が良く使う定番コードです。今回は少し甘い感じ。
余談ですが、このコードは「ギタリストの手癖コード」でもあります。キーをCにすると、
C |G/B |
という進行は、一見分数コードが出て来て知的にみえますが、パワーコードからだと一音動かすだけです(上図の黒囲みから赤囲みへ、六弦が一音左にずれるだけ)。同曲ではこの動きをしていないのですが、押さえ方も簡単なので、この響き感を覚えて、使える、と思ったら、理屈関係なく、ランダムに使ってみて試してみてください。ギターでは「指一本動かすと出来るコード進行」が他にもあります。
天性で作曲できる人が音楽理論を"敢えて"探求しない理由は、"ミステリー"や"神秘さ"がなくなってしまうと思っていたり、勉強して自分のやり方が間違っていると知るのが怖いので理論的追及をしない、などです。
これは音楽教室やってるとわかります。それは音楽理論という学問自体の限界だと思っています。これでは学問と天才的才能が剥離するだけです。
だから「個人のインスピレーションが音楽制作で最も大事」とできる方法論が他にあれば良い、と考えて私も研究会発表やブログなどを通して完成のための音楽方法論として不定調性論をまとめています。このスタイルで天才の観点を肯定できるようになります。
Bメロ
ここでは、IIb感が独特の「昇華感」に感じます。
Ab Eb | G Cm7 | Db Eb | Fm |
Db Ab | G(#9) Cm7 | Ab Bb|Eb |Eb7 |
まずyoutube 0:24です。「まだ 味わうさ」のところです。
Ab--Bb--Cm
と
Db--Eb--F
が出てきます。「エオリアンの特性進行」です。
理屈は知らなくても、この進行は聞いたことがあるはずです。
:Ab |Bb |Cm |Cm :|
音楽やる人でこれを弾いて「は?これがなに?」という人にコード作曲は難しいです。
(でもメロディとか歌詞からも曲は作れるから!自分のやり方を鍛えてみてください)
これが「エオリアンの特性進行」なのですが、そんなこと知らなくてもコードの押さえ方を知っていれば弾いて歌うことができます。
下記で音源が聴けます。聴いて感じて何か歌ってみてください。
(参考)
例えばこれを無造作に連鎖させます。
Ab Bb |Cm |Db Eb |Fm |
Gb Ab|Bbm |B Db|Ebm |
(音源はこちら→「馬と鹿」ブログ記事2 | rechord )
音楽理論的にこれがなんだ??とか分からなくてもこのようにシークエンスをつなげて、メロディを自在に作れる人がいます。
この進行に「意味」「クオリア」「共感覚的知覚」を感じるからです。それが「動機」となり、自然と口をついてメロディが出ます。ここまで、理屈ではありません。
よく使われるコード進行の断片1 |よく使われるコード進行の断片2 |
よく使われるコード進行の断片3 |よく使われるコード進行の断片4 |
この感覚そのものを鍛え上げてください。自分らしさと向き合えます。そのあと音楽理論を学びたければ学べばいいんです。
(編曲家、演奏家、プロデュ―サーなどは音楽理論を知っているに越したことないです。)
本題です。先ほどの
Ab Bb |Cm |Db Eb |Fm |
Gb Ab|Bbm |B Db|Ebm |
を聞いたとき、転調感とは違う何かを感じませんでした?
Ab Bb |Cm |Db Eb |Fm |Gb Ab|Bbm |B Db|Ebm |
Db="冷めきれない心で"の頭
この赤くしたところで転調しているのですが、その「転調感」が凄く印象的な感覚を引き起こします。先に「昇華感」と書きましたが、CmからDbに進むとグイッと引き上げられるような、胸を張るような、ちょっと空が抜けるような、レベルが一つ上がるような感じを得ませんか?
この半音上昇感にある種の飛翔感とか浮遊感、浄化感などを感じる人は、音楽的素養があります。
これが把握できるようになると、P.メセニーのようなコード進行も理解できるようになります。
(参考)
この進行には名前がありませんが、次のような進行にすると分かりやすいです。
C Dm |Em |F G |Am |Bb |G7 |
(音源はこちら→「馬と鹿」ブログ記事参考2 | rechord -)
ここで下線を引いた進行が同曲で出てくる進行感の根源とも言えます。
Em-Fは普通にIIIm-IVでAm-Bbは同主短調CmのVIIbの旋法変換型モーダルインターチェンジです。
そこからG7のドミナントに短三度さがる、みたいなものを見て、あ、中心軸システムだ!と思っても別にとやかく言いません。それはちょっと違いますが、考え方は別にそれでも問題ありません。ここに理論間の齟齬があるので、その介添えとして不定調性論の12音連関表を用いて頂けると幸いです。説明が簡単になります。側面領域基音です。
このI→IIb感が「馬と鹿」では巧みに利用されています。氏は何を昇華したのか。歌詞もヒントになるかもしれませんが歌詞はあくまで氏のクオリアの端末にすぎないので先のコード進行の印象感同様、聴き手が一時的解釈を積み重ねていかなければなりません。
解釈の自由が残されている音楽はなんども聴きたくなります。
アヴォイドノートの利用について
<B>
Ab Eb | G Cm7 | Db Eb | Fm |
Db Ab | G(#9) Cm7 | Ab Bb|Eb |Eb7 |
"ひとつひとつなくした果てに"の「なくした」の「た」0:38ごろ。
~~~~~~~~~~~~
<B>
Ab Eb | G7M7 Cm7 | Db Eb | Fmadd9 Fm Fm7 |
G7(#9)="噛み締めた砂の味"の"す「な」"(2:01ぐらい)
Db Ab | G7(#9) Cm7 | Ab Bb|Eb |Eb7 |
"尋ねる言葉"の「る」、2:10ごろ。
二つのBセクションにおいて意図的な不協和音が使われています。
1コーラス目のG7(#9)はジャズのコードですし、ジミヘンコードですしよく知られたコードです。m3rdの音がメロディで出てきます。擦れるような切ない音です。
それが2コーラス目ではさらに擦れて痛みすら覚えるコードになってきます。
たとえばG7M7は当ブログではチック・コリアが使用した、的に紹介したかもしれません。
同曲では、やはりメロディでブルーノート又はレッドノート(独自用語です)的にGの上でM7が響きます。
「噛み締めた砂(すな)の味」
の「な」。傷口に刺さってくるような音です。
メロディの流れで自然と出てきた音でしょうが、こういう音はスケールの勉強をし過ぎると一時期使えなくなるタイプの音です。理論ではこれを「Avoid note」と言います。
(注;これは私のコード解釈がGだから使えないという解釈になる、という考え方もあります。別のコード解釈が可能で、全然アヴォイドではなかった、ということにもなります。)
同曲ではこの音が上手に「の味」に流れています。M7→m7への流れがとてもブルージーです。
同曲では後ろの和音が薄いのでこのスパイシーな音が孤独に浮き立って擦れて響きます。アレンジのバランスの妙とも言えます。
理論を学習して「コードスケール」を覚えると、こういうフレーズは作りづらくなります。理屈では違和感があるからです。しかしそれでは表現力の自由度を萎縮させます。そこで「自分に自信があるときは、"どうやってこの音使ったらうまく響くか"と考えてクリエイト」できる方が健全です。
うまく響かない音を「理論で間違ってるから」と言わず"どうやってこの音使ったらうまく響くか"を考えてみてください。世界が広がります。
「その音があなたにどういう意味を訴えてくるか」を感じる癖をつけるわけです。
この直観を具体的に感じられるまでは訓練です。
AM7(b9)|Bm7(b5)|EM7(#13)|AM7(9)|
こういう進行で何かメロディが浮かぶ人は不定調性論的感覚をお持ちです。
上の進行の音源はこちら→変な進行(「馬と鹿」) | rechord -
注;EM7(#13)はE7M7と同義です。上記音源サービスでこの和音を表現するために便宜上用いました。
Cメロ
Cメロは旋律にまとわりつかせるように音を重ねていったようなイメージを受けました。コードというよりも旋律の連鎖で出来ている節のようです。
ここはコードネームで考えないでください。
たての和音的に考えず、横の流れ(旋律的バランス)で感じ取って行くように。
もちろん、氏のチームにはきっと彼らなりの方向性やコンセプトがあると思います。
間奏-ending
Ab Bb Cm Gm| Ab Bb Cm Eb| Ab Bb Cm Gm| F#aug/G(またはF#dim/G)G7 Cm |
間奏最後の一瞬のF#aug/G的な表記は、元曲でコードを弾いているわけではないので表記は想定です。"蟲が魂の上をうごめくようなリフ"になってます。
または「ミストーンをする主人公」のワンシーンを切り取ったかのような感じ。
危うい感じがちょっと前衛的で、エンディングの雰囲気を予兆してるような「崩れ」が効果的です。
これは、Lemon-flamingoまでに出来上がったノイズ混入"技法"が進化した形であることは間違いないのですが、この方法についてはジャズの歴史で極めた人がすでにいます。たまたまブログ記事を作っているので紹介しますがオーネット・コールマンです。ギリギリの不協和で混沌にさせない美意識を保つことのできる方法論を求めた人です。
不協和の美の探索は神秘的ですが、追求しすぎると「振り返ると誰もいない」状態になります。
・意味のないはずのものが訴えてくる意味
・矛盾しないと見えてこない答え
・混乱状態じゃないと生まれない秩序
この辺りの構築が氏の目標になっているのかな??なんて感じたりしています。
この辺を普通のポップスでやったらどうなるんだろう、なんてことを期待しながら、米津ワールド独自の音楽解放戦線を応援したいです。
エンディングの混沌は、ギラギラとした欲望と同時に澄んだ憂いみたいなものを感じます=こういう感じ方を創造するのが不定調性論的な音楽分析の方法です。
少し退廃した近代音楽の匂いをさせつつ、まさに、"to be continued...だよ"、って囁かれているような不思議な轟音です。
==コーヒーブレイク〜M-Bankロビーの話題==
意味を考えないで読むと意味が分かるよ。。的な。
【メーカー特典あり】 馬と鹿 (映像盤(初回限定)) (CD+DVD(紙ジャケ)) (内容未定特典付)