音楽教室運営奮闘記

音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

150,米津玄師「馬と鹿」;不協和と崩れ、IIb感が与える昇華力とか

2019夏休みのお勉強記事です。

またクセのある新曲!!

flamingoでまとわりつく輩を振り切って土俵を更地にした後、あらためて2019名刺代わりのようなルーツ的音楽性をぶっこんできた曲。玄人向け?とも感じました。

 

ここでは個人的に面白いと思ったところを切り取ります。

下記記事がこの曲の価値を表現しているわけではありません。

誤解を恐れず申し上げれば、下記の内容はあなたが楽器を練習し、自分なりに弾いてみなければ得られないことについて書いてしまったかもしれません。

 

しかしながら、ノウハウ(楽器を覚えるorDAWで打ち込む技術)は世上に揃っていますので、後はそこに飛び込むか飛び込まないか、という選択だけの問題です。

 

まずはコードを起こしてみましょう。

"馬と鹿" 

~アナライズ用コード~

<A>

 Cm  Ab | Bb  Eb    /D | Cm  F7/A |Bb  Eb |

 Cm  Ab | Bb  Eb   /D | Cm7(13) F7/A  Bb | Eb  |

 <B>

Ab  Eb | G  Cm7 | Db  Eb | Fm    |

Db  Ab | G(#9)  Cm7 | Ab  Bb|Eb    |Eb7  |

<サビ>

Ab Bb | Cm F | Dm7(b5) G7 | Cm7 C7 |

Ab Bb | Cm F | Ab Bb | Cm7 Eb |

Ab Bb Cm  Gm | Ab Bb Cm Eb | Ab Bb Cm Gm |2/4 Ab Bb|

4/4 Eb | Eb |2/4 N.C.(Eb G7 ) |

<間奏>

Ab Bb Cm Gm| Ab Bb Cm Eb| Ab Bb Cm Gm| F#aug/G(またはF#dim/G)G7 Cm  |

<A>

Cm  Ab | Bb  Eb    /D | Cm  F7/A |Bb  Eb |

Cm  Ab | Bb  Eb /D | Cm7(13) F7/A  Bb | Eb  |

 <B>

Ab  Eb | G7M7  Cm7 | Db  Eb | Fmadd9 Fm  Fm7  |

Db  Ab | G7(#9)  Cm7 | Ab  Bb|Eb    |Eb7  |

 

<サビ>

Ab Bb | Cm F | Dm7(b5) G7 | Cm7 C7 |

Ab Bb | Cm F | Ab Bb | Cm7 Eb |

Ab Bb Cm  G | Ab Bb Cm Eb | Ab Bb Cm G | Ab Bb  Eb|

<間奏>

Ab Bb Cm Gm| Ab Bb Cm Eb| Ab Bb Cm Gm| F#aug/G(またはF#dim/G)G7 Cm |

<C>このCパートはコードで作られていないので各位が響く和音を探す必要があります。コードネームを当て込んで考えない方が良いです(それをやるとチープになります)。いびつに鳴り響くコードを自分で探してください。

D#m A#m B  F# | Fm G#dim7 Cm D7 |

Gm Cm F Gdim7 | Dm7(b5) G7  Cm |

D#m A#m B  F# |Fm G7 Cm Gm |

Ab Bb Cm Gm |Ab Bb Eb  |Eb     | B/D#    |Eb  |2/4Eb    |

 <サビ>

Ab Bb | Cm F | Dm7(b5) G7 | Cm7 C7 |

Ab Bb | Cm F | Ab Bb | Cm7 Eb |

Ab Bb Cm  Gm | Ab Bb Cm Eb | Ab Bb Cm Gm | Ab Bb  Eb|

Ab Bb Cm  G | Ab Bb Cm Eb | Ab Bb Cm Gm| Ab Bb  Eb|2/4Eb  |

B/D# C#/D# | B/D#  |

注)赤字の音は旋律音として鳴っている音のコーダル解釈です。

   

 

 

人間性がゆらゆら揺れる前半、野性味たっぷりの後半、という大河のような流れがあります。

 

Aメロ

同曲のようにコードを活用するには、理屈や方法論ではなく「コードの連結感」を身につけておく必要があります(というか、最初から身につけている=準備は出来ているのですが、時に教育がそれを忘却させてしまう時があります。講師次第。)

 

Aメロでは、

Cm  Ab | Bb  Eb  /D | Cm  F7/A |Bb  Eb |

「麻酔も」の「も」で「あれ??」っていう意外性が来ますよね。この崩れ感に萌える人もいるでしょう。

これはドリアンのIV7であるF7です。Lemonでもflamingoでも出てきた異国感のII7と言ってもいいです(Ebメジャーキーと解釈したらIIです)。氏が良く使う定番コードです。今回はこれまでよりも少し甘い感じですね。

余談ですが、このコードは「ギタリストの手癖コード」でもあります。キーをCにすると、

f:id:terraxart:20190813023117p:plain

C    |G/B    |

という進行は、一見分数コードが出て来て知的にみえますが、パワーコードからだと一音動かすだけです(上図の黒囲みから赤囲みへ、六弦が一音左にずれるだけ)。

押さえ方を覚えると、他の作曲時にササっと動かしてこの響きを用いてメロディが浮かんでくる場合があります。この理屈覚える前から、この指の動きを覚えている人もいるでしょう。同曲ではこの動きをしていないのですが、押さえ方も簡単なので、この響き感を覚えて、使える、と思ったら、理屈関係なく、ランダムに使ってみて試してみてください。初心者の方は使い安いコードが一つ増えます。

ギターでは「指一本動かすと出来るコード進行」が他にもあります。

 

その響きが好きで、カッコイイと思っていれば、それを作曲時に繰り出すことで、和音の流れからインスピレーションを受け、作曲はできてしまいます。

天性で作曲できる人が音楽理論を探求しない理由は、別に曲が出来てしまうから別にやらない、ということと、めちゃくちゃ忙しいということと、自分のやり方が間違っていると知るのが怖いので理論的追及をしない、などです。

しかしこれでは学問と天才的才能が剥離するだけです。

だから個人のインスピレーションを「音楽制作で最も大事」としたあり方が教育の現場でも方法論として別途確立されていれば良いと考えます。拙論もその類です。

(参考)不定調性論の学習内容インデックス

 

他記事でも書いていますが、コードを10個覚えたら、それをただ感じるままに並べてコード進行を作り、曲を感覚のままに作ってみましょう。そこからが訓練です。

感受性は作らないと鍛えられません。

これが誰に学ぶ事もなく生まれ持ってサクッとできる人は天才です。

 

Bメロ

ここでは、IIb感が独特の昇華感を演出しています。

Ab  Eb | G  Cm7 | Db  Eb | Fm    |

Db  Ab | G(#9)  Cm7 | Ab  Bb|Eb    |Eb7  |

まず「エオリアンの特性進行」を確認しましょう。

Ab--Bb--Cm

とか

これが移調された

Db--Eb--F

等で解釈される流れが出てきます。この理屈は知らなくても、音楽やる人はこの進行はよく聞いたことがあるはずです。この「よく聞いたことがある」という感覚が分かる人はコードからの作曲が出来ます。

:Ab |Bb  |Cm  |Cm   :|

というのを弾いて「は?これがなに?」という人にコード作曲は難しいです。

(でもメロディとか歌詞からも曲は作れるので、自分のやり方を鍛えてみてください)

これが「エオリアンの特性進行」なのですが、そんなこと知らなくてもコードの押さえ方を知っていれば弾いて歌うことができます。このコード進行を繰り返し弾くだけで、なんか感じて、いくらでもメロディが出てくる貴方。早く作曲しましょう。下記で音源が聴けます。聴いて感じて何か歌ってみてください。できますか?

rechord.cc

 

例えばこれを無造作に連鎖させます。

Ab Bb |Cm  |Db Eb |Fm  |
Gb Ab|Bbm   |B Db|Ebm  |

(音源はこちら→「馬と鹿」ブログ記事参考2 | rechord 

音楽理論的にこれがなんだ??とか分からなくてもこのようにシークエンスをつなげて、メロディを自在に作れる人がいます。

この進行に「意味」「クオリア」「共感覚的知覚」を感じるからです。それが「動機」となり、自然と口をついてメロディが出ます。ここまで、理屈ではないです。

不定調性的コード進行は「知ってるコード進行の無造作な連続(未関連な脈絡の連鎖)」です。

よく使われるコード進行の断片A |よく使われるコード進行の断片B |

よく使われるコード進行の断片C |よく使われるコード進行の断片D |

この感覚そのものを理屈よりも重視して鍛え上げてください。そうすれば自分らしさと向き合えます。それができた後、音楽理論を学びたければ学べばいいんです。

活躍している人の多くが多忙ゆえ、音楽理論的なことは皆さん断片的にしか知らない人がほとんどです。逆に感性を頼りにしますので、本当はそのくらいがちょうどいいようです(プロデュ―サーとか編曲やる人はちょっとそれでは大変かも)。学校はそれではビジネスが成り立ちませんので何でもかんでも詰め込みますが、果たして本当にその人の将来を考えて詰めこんでいるのか、と言うと疑問です。あなたの周りで音楽知識が完璧でヒットも飛ばして第一線にいるというアーティスト、どのくらいいますか?

(繰り返しますが、編曲家、演奏家、プロデュ―サーなどは知っているに越したことないです。)

勉強しなくてよいのではなく、感受性がもともと豊かであったか、それを活かす術を発見したかで通常カリキュラムが必要ないことを悟ったか。まあこの辺は学校が取り組む課題です。

 

   

 

本題です。先ほどの

Ab Bb |Cm  |Db Eb |Fm  |
Gb Ab|Bbm   |B Db|Ebm  |

を聞いたとき、転調感とは違う何かを感じませんでした?

Ab Bb |Cm  |Db Eb |Fm  |Gb Ab|Bbm   |B Db|Ebm  |

この赤くしたところで転調しているのですが、その「転調感」が凄く印象的な感覚を引き起こします。ここでは昇華感、と書きましたが、CmからDbに進むとグイッと引き上げられるような、胸を張るような、ちょっと空が抜けるような、レベルが一つ上がるような感じを得ませんか?

この進行には名前がありませんが、次のような進行にすると分かりやすいです。

C Dm |Em |F G |Am |Bb |G7 |

(音源はこちら→「馬と鹿」ブログ記事参考2 | rechord -

ここで下線を引いた進行が同曲で出てくる進行感の根源とも言えます。

Em-Fは普通にIIIm-IVでAm-Bbは同種短調CmのVIIbの旋法変換型モーダルインターチェンジです。

そこからG7のドミナントに短三度さがる、みたいなものを見て、あ、中心軸システムだ!と思っても別にとやかく言いません。それはちょっと違いますが、考え方は別にそれでも問題ありません。ここに理論間の齟齬があるので、その介添えとして不定調性論の12音連関表を用いて頂けると幸いです。説明が簡単になります。側面領域基音です。

この半音上昇感にある種の飛翔感とか浮遊感、浄化感などを感じる人は、同曲の半音上へのシークエンスの連続も受け入れられるでしょう。

Ab Bb |Cm  |Db Eb |Fm  |
Gb Ab|Bbm   |B Db|Ebm  |

この事例は同じコード進行の形を接続させた不定調性進行です。先ほど書いた

く使われるコード進行の断片A |よく使われるコード進行の断片B |

よく使われるコード進行の断片C |よく使われるコード進行の断片D |

です。それぞれは独立していても接続部分がある種のエモーショナルで満ちている場合、複雑な転調も可能です。これが把握できるようになると、P.メセニーのようなコード進行も理解できるようになります。

このI→IIb感が「馬と鹿」では巧みに利用されています。氏は何を昇華したのか。歌詞もヒントになるかもしれませんが歌詞はあくまで氏のクオリアの端末にすぎないので先のコード進行の印象感同様、聴き手が解釈しなければなりません。

 

アヴォイドノートの利用について

<B>

Ab  Eb | G  Cm7 | Db  Eb | Fm    |

Db  Ab | G(#9)  Cm7 | Ab  Bb|Eb    |Eb7  |

~~~~~~~~~~~~

 <B>

Ab  Eb | G7M7  Cm7 | Db  Eb | Fmadd9 Fm  Fm7  |

Db  Ab | G7(#9)  Cm7 | Ab  Bb|Eb    |Eb7  |

本曲にも、二つのBセクションにおいて意図的な不協和音が使われています。G7という属和音が崩れながらもぎりぎりの役割を果たしています。

1コーラス目のG7(#9)はまあいいです。ジャズのコードですし、ジミヘンコードですし。このG7においてm3rdの音がメロディで出てきます。これもまた擦れるような切ない音です。

それが2コーラス目ではさらに擦れて痛みすら覚えるコードになってきます。

たとえばG7M7は当ブログではチック・コリアが使用した、的に紹介したかもしれません。

同曲では、やはりメロディでブルーノート又はレッドノート(独自論用語です)的にGの上でM7が響きます。これはキーの上ではb5thのただのブルーノートです(G7上のM7はドミナントの機能を阻害するので、アウトとされているだけで、別に自然の摂理に反しているわけではないので、同曲のように、使えるとあなたが信じるならぜひ使ってください=不定調性論)。

「噛み締めた砂(す)の味」

の「な」ですね。傷口に刺さってくるような音です。

   

メロディの流れで自然と出てきた音でしょうが、こういう音はスケールの勉強をし過ぎる一時期使えなくなるタイプの音です。理論ではこれを「Avoid note」と言います。

(注;これは私のコード解釈がGだから使えないという解釈になる、という考え方もあります。実は別のコード解釈が可能で、全然アヴォイドではなかった、という状態も理論では作れるので困ったものです。)

アヴォイドは八分音符以上で用いると危険です、とされます。あくまで理論としてです。同曲は八分音符です。上手に「の味」に流れています。M7→m7への流れがとてもブルージーです。このブログでもアヴォイドをどう流すか?どう表現するか、については時々書いています。縦の和音だけで見て考えないで横の流れも考えてその旋律の成立具合を自分のバランス感覚で判断してみましょう。

 

同曲では後ろの和音が薄いのでこのスパイシーな音が孤独に浮き立って擦れて響きます。

 

こういう判断を知識がある状態で自在に行うには、先の述べた、自分の印象感の正当性がはっきり自覚できていないと難しいです。

また困ったことに自信があるときは自信をもって自分の判断を信じられますが、自信を失うと途端に分からなくなります。アーティストの浮き沈みが激しいのはそのためで、音楽教育ではどう焼て自分が信じられなかった時に自分を立て直すかを教えるべきなんです。アーティストの寿命を安定させるためにも。

 

コードの上でどんな音が使えるかではなく、「コードスケールをそもそも考えない」ことで自由になれます。

むしろ自分に自信があるときは、「どうやってこの音使ったらうまく響くか」と考えてクリエイトします。訓練である程度育つ場合もあります。

 

たとえば、

CM7(b9)

という和音があるとき「響かない」と感じず、最初からどうやったら綺麗に響くかを考えます。

アヴォイドは和音を転回すれば別のコードにできて回避できるのでどうにでもなるのですが、ここではそういうことを言いたいのではありません。展開したら結局理論に取り込まれるだけです。

「その和音はあなたにとってどういう意味を訴えてくる和音か」を考えてみる癖をつけるわけです。たとえばこのb9thが乗った感じを聴いて「濁った聖水」とか「表面的だけの納得」とか。変な日本語表現でも良いので「意味」を創り出します。

この直観を具体的に感じられるまで訓練です。出来る人、できない人いるのでおそらくその人の教育経験によります。

 

AM7(b9)|Bm7(b5)|EM7(#13)|AM7(9)|

こういう進行で何かメロディが浮かぶ人は不定調性論的感覚をお持ちです。

上の進行の音源はこちら→変な進行(「馬と鹿」参考) | rechord -

注;EM7(#13)はE7M7と同義です。上記音源サービスでこの和音を表現するために便宜上用いました。

 

Cメロ

今回の曲の間奏部分、Cメロはベースとなる旋律にまとわりつかせるように音を重ねていったようなイメージを受けました。コードというよりも旋律の連鎖で出来ている流れのようです。絶対にコードで考えないでください。

ベース音は最大公約数的に選ばれているようであり、シークエンスの横の連鎖で成り立っています。対位法的な作り方(作り方のみ)ですよね。縦に割って考えず、野性味で音の束にしていく感じ。

もちろん、氏のチームにはきっと彼らなりの方向性ややり方があったと思います。

 

間奏

Ab Bb Cm Gm| Ab Bb Cm Eb| Ab Bb Cm Gm| F#aug/G(またはF#dim/G)G7 Cm |

間奏最後の一瞬のF#aug/G的な表記は、コードを弾いているわけではないので表記は想定です。上記同様例えていうなら"蟲が魂の上をうごめくようなリフ"になってます。または「ミストーンをする主人公」のワンシーンを切り取ったかのような感じ。

危うい感じがちょっと前衛的で、和音が束になり肥大してにじみ出るようなエンディングの雰囲気を予兆してるような「崩れ」が効果的です。

ああ、こういうやり方があるんだ。。。なんてすごく勉強になってしまいました。

学校的ですみません。

 

これは、Lemon-flamingoまでに出来上がったノイズ混入"技法"が進化した形であることは間違いないのですが、この方法についてはジャズの歴史で極めた人がすでにいます。たまたまブログ記事を作っているので紹介しますがオーネット・コールマンです。ギリギリの不協和で混沌にさせない美意識を保つことのできる方法論を求めた人です。

不協和の美の探索は神秘的ですが、追求しすぎると「振り返ると誰もいない」状態になります。 

 

・意味のないはずのものが訴えてくる意味

・矛盾しないと見えてこない答え

・混乱状態じゃないと生まれない秩序

この辺りの構築が目標になっているのかなぁ??なんて勝手に考えたりしています。

この辺を普通のポップスでやったらどうなるんだろう、なんてことを期待しながら、米津ワールド独自の音楽解放戦線を応援したいです。

エンディングの混沌は、ギラギラとした欲望と同時に澄んだ憂いみたいなものを感じます。

 

まさに、to be continued...だよ、って"囁かれているような不思議な轟音"です。

news.yahoo.co.jp

 

==コーヒーブレイク〜M-Bankロビーの話題==

意味を考えないで読むと意味が分かるよ。。的な。

 

【メーカー特典あり】 馬と鹿 (映像盤(初回限定)) (CD+DVD(紙ジャケ)) (内容未定特典付)