音楽教室運営奮闘記

音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

M-Bankスティービー・ワンダー楽曲(コード進行)研究レポート公開シリーズ14★★★

スティービー・ワンダーの和声構造

~非視覚的クオリアを活用した作曲技法~

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アルバム16;「Talking Book(1972)

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事例57You Are the Sunshine of My Life (CDタイム 0:14-)

Aメロ

B    |E   |D#m7  |G#7(♭9)  |

C#m7  |C#m7/F# |B   |C#m7/F# |×2

Bメロ

B  |E E/F# |B  |E/F#  |

B  |E E/F#  |A#m7(♭5) |D#7 |

G# M7 |C#  |G#m7 |G#m7 |

C#7  |C#7  |C#m7/F# |F#7 |〜

=degree=

Aメロ Key=B

I    |IV   |IIIm7  |VI7(♭9)  |

IIm7  |IIm7/V |I   |IIm7/V |×2

Bメロ

I  |IV IV/V |I  |IV/V  |

I  |IV IV/V  |VIIm7(♭5) |III7 |

VI M7 |II  |VIm7 |VIm7 |

II7  |II7  |IIm7/V |V7 |〜

BメロでVIM7が現れるが、これはG#メジャーキーへの平行長調への転調ともいえるだろう。これが一旦C#に流れ、元のキーのVIm7であるG#m7となる。ここからスティービー得意のII7に流れ、主調主和音に回帰する。これまで実験してきた和音の空気感をしっかりつかんで、よりハートフルな曲の中で活用が可能になった、という印象を持つ。

盲目のスティービーにとっての太陽は、愛と暖かさの象徴であり、光が何を映し出してくれるか、ではなく、光によってもたらされた結果の事物、事象の素晴らしさを通じて太陽という存在を把握している。なかなか晴眼者には遠回りな手法だが、真理が表現されている、と考えることもできる。

自らのオリジナルに、自身の感性が早くから反映されているとしたら、この段階で使用されている、クリシェ進行、上昇転調、無軌道な転調という手法についても、それが利便性によって多用する、ということではなく、独自性によって活用されている、と考えたほうがこちらは得られるものが豊富になる。

もし彼が単純に「ただ鍵盤で把握しやすいからクリシェを使うのさ」と発言したとしても、である。

 

事例58You And I (CDタイム 2:11-) 

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Aメロ

F#  B  |Bm7 |F#  B |Bm7  |

A#sus4 A#7(#9) |D#M7 |F#M7 C7 |

Fm7 Fm7(♭5) |G#m7/C#  C#7 |×2

Bメロ

G#m7  |G#m7(♭5)  |F#  |D#7(♭9) |

G#7  |G#m7/C#  |F#  | C#m7 F#7 |

エンディング

B  |Bm7  |F# |D#7 |

G#7 |C#7  |

DM7  |AM7 |EM7  G#m7/C# |F#  ||

=degree=

Aメロ  key=F#

I  IV  |IVm7 |I  IV|IVm7  |

IIIsus4 III7(#9) |VIM7 |IM7 IV#7 |

VIIm7 VIIm7(♭5)  |IIm7/V  V7 |×2

Bメロ

IIm7  |IIm7(♭5)  |I  |VI7(♭9) |

II7  |IIm7/V  |I  | Vm7 I7 |

エンディング

IV  |IVm7  |I |VI7 |

II7 |V7  |

VI♭M7  |III♭M7 |VII♭M7  IIm7/V |I  ||

エンディング部分に注目すると、後のoverjoyedを思わせるエンディングでもあり、ダイナミックに締めくくられている。

こうした曲調はポピュラーミュージック性とブラックミュージックの伝統の宝刀とも言える節回しに普遍的芸術性を感じる。

少しずつスティービーの音楽が、ノリの良いものから、こうした落ち着いた音楽に移行していくことを指摘する人もあるが、ユーミンもそうであるが、長く音楽活動をしていくと、そうした天賦の才能を持つ人だけに訪れる変化の傾向があると思う。またこうしてすべての楽曲を眺めていくと、それは変化というより、進化であり、ノリの良い音楽が持つ要素がしっかりこうしたバラードの中にも折り込まれていることがわかるのではないだろうか。

そしてなにより、スティービーのノリの良さはもちろん、過去の楽曲も今埋もれることなく健在であり、むしろ以前にまして理解が進んでいるのではないだろうか。

 

事例59Tuesday Heartbreak (CDタイム 0:10-)

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Aメロ

E♭ |Fm7 |Gm7 |A♭m7 D♭7 |

Gm7 G♭7 |Fm7  B♭7 |E♭ |E♭ |×2

=degree=

Aメロ  key=E♭

I |IIm7 |IIIm7 |IVm7 VII♭7 |

IIIm7 III♭7 |IIm7  V7 |I |I |×2

シンプルな順次進行を用い、IVm7のII-Vを用いて転回する流れを用いている。この危なげな変化感が、私もそろそろ自然に感じるようになってきた。スティービーを分析する前は、作曲の選択肢に入っていなかったように思えるものが、やはり偉大なロックスターがこうして音楽の面白さを伝えてくれることで、表現できる可能性を感じさせてくれる。

 

事例60You've Got it Bad Girl (CDタイム 0:25-)

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Aメロ

F#m7   G#m7 |Am7   |Am7 Bm7 Am7 / Gm7 Am7 Gm7 |F#m7  |

Am7    |E7sus4/A  |Am    | E7sus4/A  |

F#m   G#m |Am   |Am Bm Am / Gm Am Gm |F#m  |

Am    | E7sus4/A  |Am    |A♭7  |

Bメロ

C#m7  |F#7(♭9)  |Bm7  |E7  |

C#m7  |F#7(♭9)  |Bm7  |

F#m7/  G#m7 |Am7  | F#m7/  G#m7 |Am7  | F#m7/  G#m7 |Am7  |

Am7  G#m7/A |F#m7 |F#m7  |

実験的な作品性を感じる。見ての通りm7によって全体のバランスがとられている。センターコードF#m7を起点に流れを作るような方法になるためdegreeでは表記しない。この辺りの作品から、degreeによって表現されることが難しい曲想が増えてくる。新しい響きにどのくらい自分の音楽性が乗るのか、ということにまるで挑戦しているような楽曲が増えてくる。

 

事例61Superstition 

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Intro(CDタイム 0:10-)

(使用音)e♭-d♭-a♭-b♭-g♭/e♭(E♭u4)

Aメロ(0:30-)

E♭u4

A'メロ(0:50-)

E♭m7

Bメロ(1:09-)

B♭u4 Bla3 |B♭u4 Ala3 |A♭u4 |A♭7(またはB♭7(♭13)) |

(市販楽譜上のBメロ和音)

(B♭7 B7(♭5) |B♭7 A7(♭) |A♭7 |)

間奏

E♭u4(13) |E♭u4(13) |E♭u4(13) |E♭u4(13) |

~Aメロ~A' メロ~Bメロ~間奏-Bメロ後半~Intro

~Aメロ~A'メロ~Bメロ~間奏

間奏2(3:41-)

E♭m7(9) E♭m7 |E♭m7(9) E♭u4 |

~間奏パターン~A'メロ~間奏2~fade out

同曲は音楽的クオリアによる旋律指向性という考え方によって作られる代表曲と言えるだろう。 

調性的にはE♭マイナーと位置付けられるが、旋律のリフが様々なパターンを作ることによって展開を構成している。和声によって展開を作るのではなく、旋律パターンのリピートが繰り返す雰囲気をそれぞれ堆積することで、同じE♭マイナーに還元される流れがそれぞれのリフに彩られた雰囲気となってセクションを作っているスティービーの代表曲である。機能和声論では、C△を彩るには、

CM7

CM7(9)

CM7(9,#11,♭13)

といったテンション表記でその和音の色彩感が豊かであることを示している。

しかし同曲のリフは、テンションとして表記するほどの重要性は帯びていない。基本はあくまでもE♭u4(下記に解説)という単純三和音である。

リフミュージックの代表的楽曲と言えよう。

 

上記のE♭u4とは不定調性論による和音表記であり、その構成音は、三度のない7thコードである。つまり、

E♭u4=e♭、b♭、d♭

である。e♭をセンタートーンとした場合の三度が明確でない雰囲気をそのセクションが持っていることを表現している。従来の表記であれば、E♭7omit3という表記になろうが、これではE♭7を前提としてしまうため、アレンジの際にE♭m7という選択肢はいわば、楽譜の意図と異なる別のアレンジとなり、同様にE♭m7omit3としても同様な解釈が発生してしまうため、はじめから3度の存在しない和音形態を不定調性論は持っているのである。

A'メロ

今度はm3rdが鳴るため、E♭m7と表記した。これも同様にE♭u4(♭3)などと表記しても良い。ブルースの場合は、m3rdと三度が定められてもM3rdが混入してくる場合もあるためm7コードである、と限定しないほうが良い。実際に原曲のこの部分ではm3rd音がM3rd音にチョーキングされたような音感を持っている。場合によってはE♭7(#9)という表記ものほうが、説得力があるかも知れない。

 

そして和声的要素と、低音の動き、そして横へのリフの流れが持つ雰囲気が混然一体となっているのがBメロである。この曲のBメロは、単純そうで、いったい何のコードが使われているのか判断しづらいのではないだろうか。といって、E♭7の曲だ、と思って演奏していると、このBメロの扱いに困るはずである。

 

B♭u4 Bla3 |B♭u4 Ala3 |A♭u4 |A♭7(またはB♭7(♭13)) |

(市販楽譜では、B♭7 C♭7(♭5)|B♭7 A7(♭5) |A♭7  |となっていて、こちらの方が彼の考え方にも沿っているコード割り振りとなっているが、ここでは異なるアプローチによる彼の潜在的コード感について考えていく。)

 

のB♭u4 は先の和音と同様に三度を持たない7thコードである。またBla3というのは不定調性論で水平領域和声単位と呼ばれているコードで、構成音は、

 

Bla3=b,f,g#

 

であり、これはこの前の部分で鳴るB♭u4のベース音であるB♭が単純に半音上がって演奏され、結果的に縦割りした時の和声的解釈がBdim7のような構成になっている、というだけであり、それを不定調性論的に表現したに過ぎない。

機能和声的に考えればたしかにBdim7のような感じに聴こえなくもない。しかしそうした解釈の限定はアレンジの限定にもつながってしまうため、単純に構成音が変化した状態を表記しているのである。これをB♭7/Bと考えても良いし、B7(♭5)と考えることもできるだろうからだ。

ここではベースがうねるようにB♭のまわりを動き、最後にA♭に落ち着き、ブレイクではベースが明確には打たれない、このA♭7のところはベース音が存在しないため、調性音楽的にはB♭7(♭13)とかB♭7(#9)のような空間に感じられるだろう。これはこの曲を演じる個々人が決めれば良い空間であり、通常ドミナントが来る空間である。こうしたスポットは「ハーモナイズポイント(不定調性論)」というが、明らかにドミナントの雰囲気があるものの、明確に打ち出されていない(ベースが鳴っていない、テンションが混じっている、機能感の融合したコードが鳴っている等)場合がある。これはありきたりなドミナントコードを配置しない手法の一つである。

なお、市販楽譜のコードも下記に括弧つきで併記した。これをみると、7thコードの平行連鎖の中うねるような♭5thの使用がいかにもスティービーコード(ツアー中に先輩ミュージシャンから学んだ、というような表記が参考図書にあった、または大学在学中に学んだはずであろうが…)であり、これらの響きの感じを私が上記のように解釈している、ということになる。

 

リフによる明確な展開の違いを作り出している同曲は、E♭7を基調にしたブルージーな楽曲、とされるであろう。

 

しかしそれだけでは、このまるで色彩が変わるようなE♭u4の姿を正確には捉えられていないのである。ドライブするグルーブの堆積を肌で感じるためには、このE♭u4の変化に対する音楽的なクオリアを明確に持てる必要がある。

これらのイメージが進めば、「裏側を突き上げるような和音」「S時カーブを急速に滑っていくようなリフ」という感覚で音楽を捉え、その感じたように演奏することが、結果的にスティービー・ワンダーとは違うあなた自身の同曲が完成するわけである。それが良いか悪いか、そういうことはあまり関係がないと私は思う。

和声とリフとグルーヴの渾然一体となった重厚さがスティービーミュージックの極致である。

 これらの音楽的自由を表現するために、不定調性論は、方法論構築の初期段階からブルースの持つ独自性を機能和声に入れ込むための工夫を施した。

 

事例62Blame It On The Sun (CDタイム 0:13-) 

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Aメロ

A♭ E♭ |F  |Cm7 G/B |Cm7  |

Fm7  | B♭m7 |B♭m7/E♭  |E♭7 |

A♭ E♭ |F  |Cm7 G/B |Cm7  |

Fm7  | B♭m7 |B♭m7/E♭  |E♭7 |

Bメロ

B♭m7  Fm7 |B♭m7  Fm7 |Dm7(♭5) G7 |Cm7 |×2〜

=degree=

Aメロ key=A♭

I V |VI  |IIIm7 VII/III♭ |IIIm7  |

VIm7  | IIm7 |IIm7/V  |V7 |

I V |VI  |IIIm7 VII/III♭ |IIIm7  |

VIm7  | IIm7 |IIm7/V  |V7 |

Bメロ

IIm7 VIm7 |IIm7  VIm7 |IV#m7(♭5) VII7 |IIIm7 |×2〜

AメロでいきなりVI△に流れる転調を見せる。この転調感もスティービーならではの変化である。この景色感の変化は、私などからするとダイナミック過ぎる変化で、先程まで勇壮な山並みだった風景が、いきなり海のど真ん中に移ってしまったような激しい展開を感じる。現実的にはあり得ない風景を作りだしている。海外の白い壁、石畳の街並みが、いきなり東京の街並みに変化したような、視覚的には一瞬不自然な感覚である。これについてはユーミンレポートでも言及した。現実にはありえないような景色感を演出する事で楽曲の印象が強烈になる、音楽はそれができるから素晴らしいのである。

ユーミン楽曲の持つイメージは視覚的で幻想的ではあるが、目に見える風景だった。しかしスティービーの風景は、とても想像できるものではない何かもっと違う画である。不自然さを感じない事で、ある種の必然性を作ることに先入観がない、というようなイメージと言えば良いだろうか。

このあたりの「非視覚的イメージ」の音像化が、先に示した上昇転調、無軌道な転調と関係があるように感じた。目で見ない風景、非視覚的風景、形を持たない形状が配置された世界においては、上下の差も左右の差も、大小の差もあまり重要ではなく、変化したことの程度そのものが判断基準であり、その程度の差はどれほど大きくても「劇的」というだけで「これは無謀だ」という価値観が入りこまないのではないだろうか。

 

事例63Lookin' For Another Pure Love (CDタイム-0:18-)

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Aメロ

EM7 |EM7 |EM7 |EM7 |

G6 |G6 |C/D |C/D |

GM7 |GM7 |Gm7 |Gm7 |

CM7 |CM7 |

EM7 |EM7 |EM7 |EM7 |

G6 |G6 |C/D |C/D |

GM7 |GM7 |CM7 |A/B |A/B |

Bメロ

B7(13) |B7(13) |B7(13) |B7(13) |

G6  |A6 |EM7 |EM7 |

B7(13) |B7(13) |B7(13) |B7(13) |

G6  |A6 |EM7 |EM7 |

この曲もdegreeで表現が難しい不定調性進行の楽曲になっている。全体的に手元で音楽が完結するような静かな小さな雰囲気を持っている。M7の全体感、というイメージも持った。

EM7がセンターコードになっているようにも思えるが、ここではメロディが音楽的クオリアによる旋律指向性を持っているようだ。EM7はいわば背景程度でメロディを支えているという感はない。同一コードの連続による雰囲気の作り方が絶妙である。

特にAメロのEM7の部分は、メロディ音が、EメジャースケールのM7th音から始まるロクリアンの印象も分析者に与えるメロディ構造となっている。1コードの上で、旋法を用いてコード感を消し去るような作風はこのアルバムは特に顕著であった。これらの作風が次のアルバムのスティービー作品につながったのではないだろうか。

コード機能に囚われず、または調性の連続性に囚われず、という意味では、この楽曲の雰囲気を真似てみてまずは自作を作ってみるとよいだろう。

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