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M-Bankユーミン楽曲(コード進行・歌詞)研究レポート公開シリーズ14~ユーミンの名作詞

日本人の心の情景を変えたシンガーソングライター(改訂版)

―研究レポート;ユーミン楽曲の和声分析と音楽的クオリアが紡ぐ作曲の手法―

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7歌詞の音楽的風景 その5

ユーミン楽曲はこちらから

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アルバム『THE DANCING SUN』より

<Sign of The Time>

「赤いブレーキランプ 横顔照らしたとき 私たち心が ちがってるのがわかった」

「ラジオから流れる ヒット曲聴きながら 私たち未来が ちがってるのがわかった おしえて Baby もう遅いの

おこれないのは 答 知っているから」

「いくつもの標識 警告してた Sign of the Time 私たち知らずに 走って来てしまった」

 

<Good-bye friend>

「淋しくて 淋しくて 君のこと想うよ 離れても 胸の奥の 友達でいさせて

君を失くした 光の中に 指をかざした 眩しくて見えない堤防

なぜこんなにも とり残されて どのざわめきも鏡の向うへと消えてく」

 

<Bye bye boy> 

「いつまでも ついてく つもりだった なのに つらい噂だけが 私 意地悪にさせた」

「信じ合うって誓ったのに もう忘れて すぐ忘れて でも忘れられない あのときの二人」

「いつだってそう 最高だったのに 今日だけを生きていたのに もう帰ろう すぐ帰ろう でも帰れなかった

あのときに二人」

   

<Hello, my friend>

「Hello, my friend 君に恋した夏があったね みじかくて 気まぐれな夏だった

Destiny 君はとっくに知っていたよね 戻れない安らぎもあることを」

「悲しくて 悲しくて 帰り道探した もう二度と会えなくても 友達と呼ばせて」

「僕が生き急ぐときには そっとたしなめておくれよ」

「淋しくて 淋しくて 君のこと想うよ 離れても 胸の奥の 友達でいさせて」

F#m7 F#m7/B |C#m7 C#m7/B |F#m7 F#m7/B |C#m7 C#m7/B |

F#m7 F#m7/B |D#m7 G#7 C#m7 |F#m7 F#m7/B |Esus4 E |〜

=degree=

(key=E)IIm7 IIm7/V |VIm7 VIm7/V |IIm7 IIm7/V |VIm7 VIm7/V |

IIm7 IIm7/V |VIIm7 III7 VIm7 |IIm7 IIm7/V |Isus4 I |〜

※「たしなめておくれよ」というところだけを捉えれば、ユーミン「しかって欲しい」系のメッセージ曲といえる。

作詞スタイルの新しい展開に入ってからの一曲としても位置付けて良いと思う。魔術的な表現が少し影を潜め、形を変え、温度感がより優しくなって綴られていく。

フジテレビ系月9ドラマ『君といた夏』(1994)主題歌。ドラマのイメージから独立し、ユーミンのスタンダードナンバーとして様々な機会に聴く曲であろう。作詞スタイルもデビュー当初から進化していく過程をファンの各位も発表作品からそれぞれの感じ方で捉えていると思うが、80-90年代の作品はそれまでにも増して日常の風景や気持ちを映像的に表現することで、初期に目立って見られる“心を吸い取られるような魔術的な表現技巧”から、“寄り添うように優しく切ない表現”を持つ歌詞が極められていくように感じた。

「悲しくて 悲しくて 帰り道探した」という歌詞は沢山の意味と風景を持つ言葉であろう。メロディは「悲しくて」も「帰り道」も「探した」も同じような音形で現れることで同じ意味を表現しているように感じさせる。同部分の「淋しくて 淋しくて 君のことを想うよ」も同様である。同部分の和声は分数コードによって7thコードでは出せない淡い色合いで連続し、長調と短調の中間の切なさがジブリアニメのパステルカラーのシーンのように紡がれていく。こうして表現されたユーミンの曲は切なさを強いず、悲しみに埋もれず、少し未来を見るような心の情景となり、聴き手のポジティブなイメージや「想い」の中にそっと留まり続けているのではないだろうか。2013年紫綬褒章受賞時「(抜粋)今回の受賞の向こう側には、今までわたしの歌を愛してくれた人たちがいます。1曲1曲にこの人たちの”想い”がつまっています。これからもこの”想い”を胸に、歌っていきたいと思います。」というコメントの中の「想い」は、まさに歌詞とメロディと和声が紡ぐ心の郷愁の風景ではないだろうか。

 

<RIVER>

「あんなに二人は そばにいたはずなのに いつのまにか 壊れたボートを またひとり漕いでた」

 

<春よ、来い>

「淡き光立つ 俄雨 いとし面影の沈丁花 溢るる涙の蕾から ひとつ ひとつ香り始める」

「君に預けし 我が心は 今でも返事を待っています どれほど月日が流れても ずっと ずっと待っています」

「春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき 夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く」

※この曲もまたドラマの主題歌となり、茶の間の空気感を染み込ませた曲となっているように思う。参考文献の引用などでもあるが、いくつものフォークロアの匂いのする楽曲になっており、日本人独特の「懐かしさ」への反応センサーを刺激させる曲である。「新しい懐かしさのスタンダードの一つ」だと思う。ピアノリフもその導入としてクオリアを刺激する。このピアノリフは、この曲の冒頭の「淡き光」の前に並んだ“音言葉”である。淡き光がどのように見えるか、春の予感がどのようになっているかを言葉以外の何かでまず聞く者の前に提示するのである。そして歌詞とメロディが始まるのだ。ゆえに歌詞だけを読んでもあの淡い色合いを感じ取りきれないのである。

春は、やってくる前に少しずつサインを送り、やがてやってくるのだ、という象徴的なユーミンの視点が私は好きだ。クリエイターの「もののあはれ」に対する視点の真髄を見ているようだし、いわれてみれば春の素晴らしさは、その「待ちこがれる季節」であるところだ、と気づかされる。この曲も歌詞全文の意味やメッセージを捉える作業の他に、一つ一つの単語の語感、持っている単独の意味を、光や色彩、感情のニュアンスの断片の連鎖と捉えて、ただ聴いてみていただきたい。ユーミン音楽がずっと持ち続けてきた、「言葉の音楽性」「和声の言語感」のようなものが反映されているように読み取れる。一行目の、

「淡き光」「光立つ」「俄雨」「いとし面影」「沈丁花」「溢るる涙」「涙の蕾」「ひとつひとつ」「香り始める」

という語それぞれの意味を想像してほしい。これらの言葉が耳に入ってくる感じと、そこから得られる絵面の変化、場面展開をコード進行の連鎖、和声の色彩感も変化と一緒に捉えてみてほしい。ユーミン楽曲の特徴や、風景、歌詞が持っている意味が各位それぞれの形となってとらえられるのではないだろうか。これらの言葉が、和声の一つ一つの空気感を「翻訳」しており、その文章だけを捉えても意味が浅くなり、その一文だけ読んでいてもだめで、結局その音楽と一緒に感じ取ることで、実寸代の意味が毎回聴く度に新しい形で訪れるのだ。音楽ならではの「聴いて楽しむ文学」「歌って楽しむストーリー」なのであろう。これがユーミン音楽が「ただのポップス」と言い切りたくなくなる感じである。

メロディそのものが歌詞が載る前から、どのくらい“音語感”、つまりメロディが持つ意思のようなものを構築できるか、ではないだろうか。作品は作者のものだが、それが聴き手のものになる(共感を呼ぶ)ためにもやはり繊細な音語感を持つ旋律を作る技術を目指す方があるのではないだろうか。

音楽の聴く楽しみ、歌う楽しみの意味について40年以上取り組んてきたアーティストの音楽の価値を個々人の一時的解釈で良いので、先ずしっかり根付かせて、各位なりに継承し、発展させて頂きたい。


アルバム『KATHMANDU』より 

<命の花>

「燃える太陽さえ 燃やすほど 狂おしいこの想いを 抱いて 泣いている 恋はゆらめく灼熱の花

心を焼き尽くすまで けっして 枯れはしない」

「熱いキスは 秘密のエントランス 二度とは戻れない」

「恋は嵐の中で咲く花 踏みにじられてゆくほど 紅く紅く ひらく」

「見つめる目は 哀しい天使の罠 さよならのはじまり 首に胸に涙の粒を撒いて ネプチューンの夢を見るの」

 

<輪舞曲(ロンド)>

「おどけてほほを寄せれば 背中に置かれた手のひら あなたの知らぬ傷跡も 雪解けに咲くクロッカス」

※クロッカスの花言葉に「愛したことを後悔する」がある。

「私を愛したことを 後悔はしていないかしら あなたと紡ぐ年月が たったひとつのタピストリィ」

「歓びとは 溶けて落ちる 哀しみの上にゆれる炎」

 

<Midnight Scarecrow>

「今 孤独の中の君へ 失くしたくない君へ 用もなく 電話かけよう

もし うるさかったら言って 明日にしてと切って でもね 気にしないから」

「君の知らない駅から 君の住む街を通る バスが出るよ 最後の 言えない想いを乗せるように」

「踊る案山子(かかし)みたいな 影とたわむれる 見慣れた帰り道 ひとりぼっち」

「人は何も持たずに生まれ 何も持たずに 去ってゆくの それでも愛と出会うの

君の荒野を渡って 冬の雲を吹き流す 風になるよ しばらく 受話器をそのままあてていて」

 

<Walk on, Walk on by>

「口にしたら 打ち消したら 本当になる 過ぎた恋は未完成のシナリオだから」

「うでをくんで Passin'by むこうも二人 あなたなど あなたなど もう忘れているみたい」

「台詞もないうちに通り過ぎてく 面影はひと幕のエキストラにしておいて」

「新作のロマンスは私だけに微笑んで ゆっくりと ゆっくりと 私だけに微笑んで」

 

<Weaver of Love~ORIHIME>

「コムラサキなら七月の 暮れたばかりの空の色 今は遠くへ行ったひと わずかに茜残し

あれはゆかたの行列が 山の小径を見え隠れ 蛍のような提灯を 星へと運んでゆく

私は橋の袂で あなたへと届くように ひっそりと ああ ひっそりと 心の機を織るの」

「哀しい夢をすすぐには 笹にせせらぐ川上の 汲めばちぎれるつめたさに いくつも舟を浮かべ」

 

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