この記事も独自解釈を含みますのでご留意ください。
もちろん和音は一つ一つすべて異なるのですが、
・動的欲求の強い和音
と
・動的欲求の弱い和音
と分けることで、あとはどのように和音を連鎖しても、調や機能を関係無く連鎖して音楽を作ることができる、というところに結びつきます。
拙論では、 和音には二種類しかない、という分類方法があります。
それは増4度を含むか含まないかの違い
での分類です。
この分類について先達は探していたらP.ヒンデミットの「作曲の手引」に、そうした分類の萌芽が見られました。
もちろん扱いは全く別のものですが、興味深いです。
二種類の和音
① C△
は増4度関係を持ちません。
でも
② G7
は、構成音のbとf音が増4度関係になります。
①のような増4度を持たない和音を「静和音」
②のように増4度を内部に持つ和音を「動和音」と呼びます。
動和音=動性を持つ和音
静和音=弱い動性を持つ和音
この「動性」とは、いわつる西欧文化における「ドミナント7thの慣習感覚」からきています。
G7⇨C
においてG7は動和音です。この時G7はCに向かうことで平均律文化圏の人は「帰着感」を感じます。この時の"結びついた感"を「動性による帰着感」と表現します。
これは平均律文化圏が持ち得た増四度に対する感覚と言えます。
"刷り込み"です。決してドミナントがトニックに結びつかなければならない、という意味ではありません。最初はそうだったかもしれませんが、現代では、
G7→Am7だって、G7→AbM7だって、G7→DbM7だって可能です。
ドミナントはトニックに向かう和音では無く、どこか劇的な展開を作ろうとする和音、ぐらいに砕けてきました。この現代におけるドミナントの"意義"を「動性」という言葉に集約させます。
科学的な何かがそうさせているのではなく、増四度という、不協和に対して我々がこれまでの音楽感覚で刷り込まれた感覚を拡大解釈していくわけです。
この動和音は「ざわつくコード」と平たく言ってもいいでしょう。
F7⇨C7(Cブルース)
また、ブルースでIV7⇨I7という進行の時、F7もC7に進むことでも同様にC7ならではのブルース独特の"濁り感""ざらつき感"、西洋和声にはない未解決解決感とも呼べる感覚を持ちます。
この落ち着かない感じも"動性である"とするわけです。
またC△には増四度はありません。これは静和音です。しかし同時に静和音には短三度を持つものがあります。短三度は増四度の半分です。
この増四度を含まない和音が持つ動性を「弱い動性」とします。
これも私が決めたことですので、どのように定義するかは個人個人異なると思います。
G7→C△は
動和音から静和音に進行した、と表現します。
G7→Dbも同様に「動和音から静和音に進行した」と表現できます。
これで調や機能に関係無く、進行感だけを表現できます。不定調性的楽曲には非常に便利です。
また同時にこれを逆手に取るとCsus4には短三度も増四度がないので「動性はない」となってしまいます。これは方法論の構造が生み出す新しい論理です。
Csus4は、必ずしも3度がぶら下がった不安定な和音ではない、と考えることもできるわけです。
このような考え方から、sus4は解決させなくて良い、という考え方も作れます。
Csus4→C
は慣習的進行です。
Csus4-Dsus4はsus4が持つ静性を生かした連鎖、ということができます。機能和声論だとCsus4-Dsus4は非機能的、と言わざるを得ません。音楽的には美しい響きの連鎖を持っているのに「非機能」と言ってしまうのはもったいない、と思います。
CmM7は静和音ですね。
CmM7(6)は動和音ですね。
c,c#,d,d#,eというクラスターは静和音です。
c,d,e,f#という和音は動和音です。
ダイアトニックコードは、
IM7 IIm7 IIIm7 IVM7 V7 VIm7 VIIm7(b5)
ですが、これらを分類すると、
IM7 IIm7 IIIm7 IVM7 VIm7が静和音、
V7 VIIm7(b5)が動和音です。
たとえば
Dm7 |G7 |CM7 |
において、
Dm7(b9)|G7 |CM7 |
とする行為は、「Dm7を動和音化した」と表現します。こんな和音「存在しない」というのが西欧機能和声の上では常識ですが、そういうことを取り払った方法論を作っておきたかったのです。
動和音になれば、機能和声論的な「他へ動きやすい動性が追加される」と考え、より進行がアクティブになる、と考えます。不協和でありえない進行、と言わなくて済むわけです。
また
Dm7|G7(b9) |CM7 |
であれば、G7はすでに動和音ですから、「G7を動和音の性質を強化した」と表現します(第二種動和音化)。
また、和音がC△であるとき、その上でメロディにf#を長い音価で使えば、"その空間は動和音化された"、ということもできます。
動きを持つ、ザワザワする、落ち着かない和音と捉えるというのも、動性の性質である、とイメージを広げます。
また一人部屋でギターのCコードを弾いたとき、隣の部屋から悲鳴が聞こえて、それがf#であれば、その空間は動和音化したということもできます。現代音楽的な価値観にも対応できます。
周波数さえ特定できれば、この分類により必ずどんな音響空間もどちらかに位置付けができます。
今回のお話は以上です。
下記はより専門的な話です。
(余談)cとf#の話
cとf#は増四度ですが、これを
表面領域基音=c
裏面領域基音=f#
とします。これは1:√2という関係性や、増四度環などの構造からこの関係性を結びつけました。
一つの音から見て増四度以外の音はすべて二種類あります。
cの完全五度上はg、完全五度下はf、などです。それに対して表裏一体、一対の音の増四度という音を特別視するわけです。
G7をg,b,d+fと考えるとき、fはbの裏面領域の音です。同様に増四度を与えればいいのですから、G=c#、b=f、d=a♭を加えると、
G7(b9,#11)
という和音の完成です。このように元の三和音G△のすべての構成音の裏領域の音をすべて出現させた和音を「完全動和音」とします。
このように調やスケールにかかわりなく全く別の属和音的存在を作り出すこともできます。
またこれらは12平均律だけでなく、微分音にも当てはまります。
不定調性論における1音はピッチクラスですので、
<24平均律表>
この図の通り、例えば、cとf#の増4度関係は、
(bとcの中点)254.1775≦c>269.2918(cとc#の中点)
(fとf#の中点)359.4613≦f#<380.8360(f#とgの中点)
という不等式で示せますので、微分音でも適用できます。
4:33の"演奏時"にも空調ノイズが増四度を含めば、その小節空間は動和音化したと言えます。何もなければ静和音の状態です。
音集合だけでなく、パーカッシブな音也、怪しい金属音エフェクトが入れば、音響の中に増四度が含まれる確率が高まります。その音集合は、「動和音化したようなざわめいた感じになっている」とうと表現することもできます。
ドミナントコードの動きやすさから発展した考え方です。
以前、二元論的な話について、厳密な意味で二極化された論理展開は難しいのでは?というお話を書かせていただきました。
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