音楽教室運営奮闘記

音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

M-Bankスティービー・ワンダー楽曲(コード進行)研究レポート公開シリーズ7★★★

スティービー・ワンダーの和声構造

~非視覚的クオリアを活用した作曲技法~

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アルバム8;「I Was Made to Love Her」〜愛する娘に〜(1967)

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事例19I Was Made to Love Her (CDタイム 0:14-)

F  |F  |B♭m  E♭7 |D♭ E♭ |F |F   |

=degree=

I  |I  |IVm  VII♭7 |VI♭ VII♭ |I  |I   |

この曲も上記進行が繰り返される楽曲である。クレジットにスティービーの名前がある。IVm-VII♭7への進行がとてもスリリングである。

平行短調の和音が組み合された進行であり、ビートルズ的進行でもあり、またスティービーらしい進行、ということも出来よう。

これらのメジャーコードの連鎖が持つ高揚感をスティービーは繰り返しに足る進行、と捉えていたのだろうか、それとも何度繰り返しても新しいメロディが出てくる魅力的な進行、とでも捉えていただろうか。

もちろん何度繰り返されてもメロディ一つ出てこない、という方もおられよう。

逆にこれだけあったら、いくらでもソロを回すことが出来るという人は、自身の楽曲でも、より構成された高揚感を持つ楽曲、それを支えるアレンジを持った楽曲を作ってみてはいかがだろうか。

自分が高揚するパターンは意外と少ないかもしれない。しかしそれはあなたのクオリアの"ツボ"かもしれない。まずはそれをたくさん押して押して押しまくって、自分の創作性をまき散らす時期が必要なのではないか。

 

事例20 I'd Cry (CDタイム 0:18-)

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Aメロ

D♭ |D♭ |A♭/C | A♭/C |

A♭m/B |A♭m/B |G♭ E♭ |A♭7〜

-degree= key=D♭

I   | I   |V/VII  |V/VII  |

Vm/VII♭ |Vm/VII♭ |IV II |V7〜

この曲にもスティービーがクレジットされている。Aメロ部分をピックアップした。スティービーの楽曲にその後よく見られるクリシェ的なバリエーションが使用されている。

I→V→Vmの変化はコード進行のパターンとしてもポピュラーだし、汎用性が高い。

こうしたクリシェは微細に構成音を変化させることで現われる進行感に感応できるか、というところであるので、不定調性論で考えていくとシンプルに応用できる。同曲の例を一つ拡大してみよう。

例)

C  |G/B  |Gm/B♭|F/A |Fm/A♭ |E♭/G |E♭m/G♭|D♭/F G |

これが出来たら、あとはメロディの構成である。

 

留意頂きたいのは、本来はメロディの流れの中にある音楽的なクオリアを重視しながら、コード展開を考えて頂きたいところである。

そうしないと、こうした進行はいくらでもバリエーションがあるので、しっくりこないままメロディを乗せてしまうと、説得力のあるメロディにならない(コード進行にメロディが流されてしまう)。ゆえに、歌のテーマを決めたら、その情感や、感情の流れに沿い、どこでベースラインを上げるか、どこで転調するか、どこで元に戻すか、などを同時に考えながらメロディを作る必要があり、そうした思考の流れを同時進行させながら曲を作る、という意味においても大変難しい作業が要求されていることが分かる(コード進行がクリエイティビティを刺激してくれるが、流されてしまい自分らしいメロディが作れなくなってしまう)。

このレポートではこのクリシェ進行がスティービーに意味するところを探らねばならない。

 

事例21 Everybody Needs Somebody (CDタイム 0:08-)

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F/G  |F/G  |G   |G  |

F/G  |F/G  |G   |G  |

Cm  |F  |B♭ |B♭ |

=degree= Key=G

VII♭/I  |VII♭/I  |I   |I  |

VII♭/I  |VII♭/I  |I   |I  |

IVm  |VII♭  |III♭ |III♭ |

冒頭VII♭を分数にした和音が特徴的だ。この和音から楽曲に入ると、きわめて途中感がある。しかし、この途中感が、いってみれば目の前を颯爽と通り過ぎていくスポーツカーのような、海岸で目の前を水着の美女が横切るような、ある種の"自分ではない颯爽感"がある。そういう感じを捉え、楽曲の表現に活かすための訓練をして頂きたい。

またIVmに流れる感じを用いて、そのままII-VでB♭への転調感につなげているのも工夫であろう。このB♭はA♭/B♭的で、フローティングドミナントのイメージもある。

メロディもE♭の音が出てくるので、Cmの部分からE♭キーに流れている感じもある。この事例のように、キー分析、機能分析を行うことも可能であるが、その一方で、こうした分析結果とは違う、音楽そのものが持っている動向を意味あるものとして活用する感覚も音楽制作に活用して頂きたい。

 

事例22 Respect (CDタイム 0:48-) 

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Aメロ

G  |F  |G  |F  |G  |F  |C  |F  |C  |F  |

間奏

F#m  |F#m  |B  |B  |F#m  |F#m  |G  |G  |

Aメロ

G  |F  |G  |F  |G  |F  |C  |F  |C  |F  |〜

 

オーティス・レディングの作品である。一風脈絡のない流れがとてもスリリングである。こうした楽曲を既存理論で解説すると、どのような体になるのであろう。できない、ことはないだろうが、なぜこのような転調にしたか、ということを考える場合、どうしても分析者の主観と伝統技法の先例が提出されてしまい、いまいち納得が出来ない事が多い。これはビートルズのコード展開を機能分析した時にも起きる。

"絶対ジョンはそんなこと考えていないだろう"感

がでてしまう。素人でもそれが分かってしまう。それでは一般分析学は失敗だ。

一般論に当てはまらない何かがあるのがロックの特徴である。カート・コバーンの苦悩を「一般論」に当てはめて何故ニルヴァーナの音楽が理解できるだろうか。

だから学習時の一時期は、一般論と、不定調性的な個人的立場を理解しようとする試みが両立されなければならない。

 

完全に分析者の主観だけで考える発想をもう一つ用意したのが不定調性論の立ち位置である。

 

この間奏のF#mはエリック・クラプトンの名曲“Layla”には影響を及ぼしただろうか。

 

またAメロをCメジャーキーと考えると、V-IVを繰り返す感じが前曲に似ている。そして間奏最後もF#m→GはフリジアンのIm→II♭の進行感に似ている。そしてそれがなだれ込むようにAメロへの回帰につながっている。ドミナントの機能感が余りないセクションであり、ドミナント進行に慣れてしまった私には新鮮であった。

F→F#mは音色の変化としては、三度音を共通にした変化感の大きい変化である。一音を軸に下部がせり上がるような展開は、波乗りをしている時に地面である海面が急に盛り上がってくるような感覚を覚えた。非機能進行と云うこともできるが、a音を伸ばしたままそのまま続けられる進行でもある。盲目のスティービーにとって「上下する」という動きはどのような感覚なのだろう。この音楽で「せり上がる」ような感覚を彼は何らかの自己の経験と照合して感じているのではないだろうか。エレベーターに乗った時に感じる重力の感じは、視力のない人にとってどのような意味をもつものなのだろう。

   

事例23 Baby Don't You Do It

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曲全体を通してB♭一発の楽曲である。これも音楽的なクオリアによる旋律的指向性の活用曲と言える。コードの変化がなくても、旋律の変化に文章的な起承転結を設けることで、セクションを積み重ねていく作り方である。

モータウンチームの作品でマーヴィン・ゲイの歌唱やThe Whoなどのカバーも有名な作品である。

 

事例24 I Pity The Fool

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Fブルース(6/8ブルース)

F7   |F7 G♭7(9) |F7 |F7 |

B♭7   |B♭7  |F7  |F7 G♭7(9)  |〜

レイ・チャールズによるスローブルースである。

ブルースはいかに通常のブルースにその曲だけの変化をつけるかが非常に大切である。この曲では、II♭7が効果的に挿入されている。半音上のコードは、揺り戻し効果、木枯らしに擦れる感じ、サビ臭いにおいなどを感じる、など様々なクオリアを個人に惹き起こす。あまりにプライベートなクオリアを引き起こし、あまりに自然なので無視されてしまう。

"こんなこと感じたって、別にどうということはない"

などと感じてしまう。しかしあなたが楽曲を聴き、感じたことは一大事だ。

空気の振動にあなたは意味を感じているからだ。そうした感覚への理解が、あなたの人生で何を大事にするかをきっと鍛えてくれる。

 

レイ・チャールズにとっての和音のイメージがどのようなものであったかはここで述べることはできないが、同曲を聴くと、大きなスイングによる体の揺れを感じ、彼の音楽でのパフォーマンスのタイミングの取り方を彷彿とさせる和音のように感じた。スティービーはチャールズの音楽が理解しやすかったのではないだろうか。実に意識の歯車がきっちりハマったような印象を受ける。

これでもかと打ち付けられるII♭は彼らにしかわからない「動きの概念」を持っているのではないだろうか?

 

事例25 Every Time I See You, I Go Wild! (CDタイム 0:16-)

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E♭m |F/E♭ |E/E♭ |E♭m |×4

A♭m |B♭/A♭ |E♭m E♭m/D♭ |A♭/C |

Bm  |Bm  |B |B♭7 |

Cm7(♭5) |F7  |EM7 |E♭m(または三度抜きのM7(9)かadd9的なメジャーさがある) |

Cm7(♭5) |F7  |EM7 |E♭m(または三度抜きのM7(9)かadd9的なメジャーさがある) |

=degree= Key=E♭m

Im |II/I |II♭/I |Im |×4

IVm |V/IV |Im Im/VII♭ |IV/VI |

VI♭m  |VI♭m  |VI♭ |V7 |

VIm7(♭5) |II7  |II♭M7 |Im(?)|

VIm7(♭5) |II7  |II♭M7 |Im(?)|

スティービーのクレジットがある。これらの和声は誰の発案であろうか。

スティービーのクリシェ進行(ここでは厳密なクリシェとは異なる)の活用の歴史は長い。彼にとってこれらの進行はどのようなイメージを与えているのだろうか。音楽的には非常に用いやすいし、私もイメージが湧きやすい進行形態であると思う。また逆にクリシェラインは、「ああまたそれか」という文字通り常套句的なイメージもあるため、制作上の安易さが出ないとも言えない。

この曲では、

E♭m |F/E♭ |E/E♭ |E♭m |

A♭m |B♭/A♭ |E♭m E♭m/D♭ |A♭/C |

Bm  |Bm  |B |B♭7 |

Cm7(♭5) |F7  |EM7 |E♭m |

この四つの進行を組み合わせている。てんこもりであるが、それぞれが異なる緊張感を放って連結している。クリシェ(常套句)はそれぞれの印象が強いため、二つ以上組み合わせれば組み合わせるほど、イメージが散漫になる危険もあるが、同質の緊張が保たれている。

問題は、なぜこれほどまでにクリシェを多用するのだろうか、先の「安易とされるような処方」を彼は用いてくるのだろうか。この使用感も先のIIbに通じる、彼等だけが理解できる「和音の動的イメージ」があるように思える。

だから、スティービーがクリシェを使っているから、クリシェを使う、という発想は、目が見えるのに盲導犬と一緒に歩くようなものだ。

大切なのは、彼らが感じているクリシェ感を理解しな限り、つまり盲導犬を連れるなら目をつむらない限りその感覚は分からない、という意味であり、それは一日かそこら目をつむっても理解できるはずがない。

だから彼のコード進行の特徴を活用する、というより、彼の音楽が作ってくる雰囲気で、自分が絶対に作れな感覚感を掴んだうえで活用しないと、表面的な利用になってしまうだろう。

 

このレポートなりの答えを出していくつもりである。

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==コーヒーブレイク〜M-Bankロビーの話題== 

スティービーと共に過ごした三浦氏の著書。。ぜひ再販してほしいなぁ。。

f:id:terraxart:20190403163204p:plainM-Bankにあるよ!

 スティービー・ワンダー我が半生の記録―冷たい鏡の中に生きて (1976年)