音楽教室運営奮闘記

音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

M-Bankスティービー・ワンダー楽曲(コード進行)研究レポート公開シリーズ3★★★

スティービー・ワンダーの和声構造

~非視覚的クオリアを活用した作曲技法~

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アルバム1;「The Jazz Soul Of Little Stevie Wonder」(1962) 
※記念すべき作品であるが、和声のバリエーションに特化した本レポートでは解説を割愛する。同アルバムの内容はビートルズ分析時にほぼ示せている内容で解説が可能である。

 

アルバム2;「Tribute To Uncle Ray」〜レイ・チャールズに捧ぐ〜(1962)  
事例1;(I'm Afraid) The Masquerade Is Over(CDタイム 0:22-)

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E♭ |G7 |Cm |B♭m7 (E♭7/B♭) |
A♭ |C7 |F7 |B♭7 |
E♭ |E♭7 |A♭ |A♭m|
E♭ |C7 |Fm7 |B♭ 7 |
E♭ |A♭m |E♭ |E♭ |〜
=degree=  key=E♭
I |III7 |VIm |Vm7 (I7/V) |
IV |VI7 |II7 |V7 |
I | I 7 |IV |IVm|
I |VI7 |IIm7 |V 7 |
I |IVm | I | I |〜
Herbert MagidsonとAllie Wrubelの作品である。ブルージーな要素が満載の進行感とメロディである。11歳のスティービーの声も若く幼いが、その表現力は巧みである。特に不可思議な進行ではないが、7thコードの進行感をこうしたシンプルな曲でマスター出来れば、ブルース的楽曲の進行における7thコードの役割や意味合い、表現している世界感が把握できるのではないだろうか。


ここでは、III7、VI7、II7など、ブルージー楽曲で出現する7thコードがすべて現われている。この進行をベースにして即興の練習をしても良いほどである。またスティービーの歌い回しも美しく、ブルーノートの使い回しを、ヴィブラートをそのまま各位の楽器で真似してみて頂きたい。これらの7thコード感をスティービーもこうした作品で学び、より奇抜に、より巧みに使っていくことになる。


ブルース楽曲はもともと調性とコードの概念がないため、こうした浮遊するコードの表情を機能とは関係なく使用できる。抽象性が高くなるため調的外コードが入ってきても、「それなりの解釈を促すことができる」からだ。

 

これは黒人の音楽の歴史が、旋律だけの労働歌より始まり、キリスト教布教による教会音楽との無理やりの融合、そして黒人霊歌の成立の歴史に関係している。また五度音楽を基本とした西洋音楽に対して、四度の音程をより重視する民族音楽的アプローチが融合し合い、五度の三和音=長三和音、四度の三和音=7th-omit3(不定調性論第五章参照)などの価値観の融合がブルース7thコードの作成に関わっていると考える。彼らにとっては、"正統"な和声学の理屈よりも霊歌の中に見られる和音、教会で演奏された不思議な7th和音のほうが何より”正統”なものであったのではないだろうか。

これは、いかに音楽が「正統」を創り出しても、それ以外の方法でまた魅力的なものが作れる、ということを示している。不定調性論をどんなに研ぎ澄ませても、もっと素晴らしいものが今後出てくる、ということである。あなたが「これが最高」と思って信奉してももっと良いものがまた出てくる、それが「野生」であると思う。


この和音感覚を身につけるためには、自由に7thコードを繋ぎ合わせて、16小節のコーラスを作ってみる、というようなセッションを繰り返してみるとよいだろう。

例)
|:C7 |D7 |F7 |A♭7 |
C7 |D7 |F7 |A♭7 |
B7 |B♭7 |A7 |A♭7 |
G7 |F7 |E♭7 |D♭7 :|

こうした進行感で、メロディを乗せたり、アドリブをしたりすることで、自身の和音感覚を鍛えていく。これらがなんのキーかとか、何スケールが使用できるか、とかを考えず、まずはゆっくり楽器で弾きながら、鼻歌でメロディを乗せ、イメージを作り、それを喚起するような歌詞を載せてみる。試して頂きたい。

 

事例2;Come Back Baby (CDタイム0:04-) 

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A♭7 |A♭7/G♭ |D♭ |Ddim7 D♭ |A♭7 | F7 |B♭7 |E♭7 | A♭7 |D♭ |A♭7 |E♭7 |
=degree= key=A♭ブルース
I7 |I7/VII♭ |IV |IV#dim7 IV |I7 | VI7 |II7 |V7 | I7 |IV |I7 |V7 |


レイ・チャールズの作品によるブルースである。歌のブルースセンスはまさに天才児そのそれである。まだ11歳である。

このブルース形式も多用される形式性に富んでいる。IV#dim7→IVへの揺れからの帰着感は誠にブルージーである。この歌の張りとメロディの構成は、和声に依らずに旋律だけでストーリーを組み立てられるスティービーのその後の作品にも活かされていく。
つまり難解な進行でもコードの変化感に頼るのではなく、メロディそのものがそのコード連鎖を生み出しているような流れを作りだす才能である。これを「音楽的なクオリアによる旋律的指向性」と本レポートでは呼び、展開していこうと思う。つまりコードなどなくても、リズムと旋律だけで起承転結が作られている、という事である。

これもまたブラックミュージックの旋律依存性の高さ、リズムが高揚していく過程の中で、まるで解決という概念の無い、
“起承転起承転起承転起承転起承転”
と展開しながら節目を自然と設けるような形式と考えることが出来る。

ユーミンレポートでは完全に和声進行にのみ着目してもある程度の形式解説になったが、スティービーの音楽は、和声など使わなくてもリズムとメロディとリフによって「進行感」を楽曲が持つ。スティービーが自分のメロディで“ストーリーを作り、起承転結をメロディで作っている”がゆえに、変態的なコード進行でも起承転結がはっきり見える、という表現技術を持っていることが分かるだろう。


機能和声論は、この進行さえ使っていればおのずと曲が出来る、説明できる、というオートメーション化を一番の売りとしてきたために、逆にそれに頼る性質を学習者に与えてしまっている点も否めない。
だから機能和声初学者はコード機能に頼ってストーリー性を作ってしまう音楽性では、どうしても似通ったストーリーを作らざるを得ない、というジレンマに陥ってしまうのではないだろうか。
機能に頼らず音楽を作る、という意味については、本レポートで紹介するスティービーの楽曲のメロディ、リズム、リフ(バッキングを含む)を良く観察して同系統の曲を作ってみるトレーニングを積むと、和声の機能からだいぶ解放されるのではないだろうか。

 

例えば、メロディがc-c-c—d-d-d—e-e-e—d-d-d—とある場合に、乗せるコードを、
CM7 |Ddim7 |D♭m7 |G7 |


としてみよう。このとき、この和声の流れを「起承転結」と捉える発想の転換をしなければならない。こういう感覚は70-80年代のフュージョンや、新主流派のジャズなどを学校で学ぶことによってある程度は身に付けられる。

ストーリー感が作れれば、あとは楽器・歌での表現である。

そしてさらに和声がない状態で、16ビートを基調にしてc-c-c—d-d-d—e-e-e—d-d-d—というメロディのみを約束にして延々アンサンブルやセッションをしてみれば、個々人の頭の中に和声の機能の残像がみえたり、その呼吸によって様々な力性が楽曲の流れを作っていくことが分かると思う。

単純にE7一発のセッションで、様々なリフ、ソロを出していく、というところからトライ頂きたい。

   

事例3;Mary Ann (CDタイム 0:42-)

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G7 |G7 |G7 |G7 |
C7 |C7 |G7 |G7 |
D7 |C7 |G7 |G7 |
=degree= Key=Gブルース
I7 |I7 |I7 |I7 |
IV7 |IV7 |I7 |I7 |
V7 |IV7 |I7 |I7 |
こちらもレイ・チャールズの作品である。オーソドックスなブルース進行でV7がIに帰着しないタイプのブルースの特徴的進行例、またコーラスの最後からIに戻る際もVを挟まず、Iのままブレイクを作り戻る→ブレイクそのものが「ドミナント性」を体現している例である。これも機能に頼らない一つの方法なのではないだろうか。同様に盲目のスティービーにとってもこうした"目に見えないけど明らかに区別でき、メンバー間と共有できる時間的な差異=時間による音楽の機能感"による楽曲展開は理解しやすかっただろうと感じる。ブレイクは目が見えなくても、音楽の知識がなくてもハッとするからだ。

 

(CDタイム1:24-)
曲に変化をつけるため、シャッフルビートになっている。コード進行は変わらない。ブルース音楽のリズムに対する変化は実に程よいエキサイティングを提供してくれる。これはコード進行が同じであるがゆえに、変化をつける手段がリズム主体となった、という単純な理由かもしれない、和声の進行を異なるリズムで一曲内に対比する事により、同じ機能を別の機能のように感じさせる効果があることも、現代において活用できるのではないだろうか。また2:28-にみるようなブレイクもまた、まさに奇抜なドミナントコードが挟まれたのと同じ効果があるように思えてくるだろう。

 

事例4;Sunset (CDタイム0:11-) 

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F5 E♭5 E5 |F5 E♭5 E5 |F5 E♭5 E5 |F5 E♭5 E5 |
F5 E♭5 E5 |F5 E♭5 E5 |F5 E♭5 E5 |F5 E♭5 E5 |
※ここまでのメロディ音にF7の7th音、3rd音などが音価を持っているため、F5はF7に該当すると解釈できる。
B♭m /A ♭ /A |B♭m /E♭ /E |F5 E♭5 E5 |F5 E♭5 E5 |C |B♭ |
=degree= key=F
I5 VII♭5 VII5 |I5 VII♭5 VII5 |I5 VII♭5 VII5 |I5 VII♭5 VII5 |
I5 VII♭5 VII5 |I5 VII♭5 VII5 |I5 VII♭5 VII5 |I5 VII♭5 VII5 |
IVm /III♭ /III |IVm /III♭ /III ||I5 VII♭5 VII5 |I5 VII♭5 VII5 |
この曲はスティービーもクレジットされている。

ブルース的進行の中でIVmが変化を与えている。
※F5ではM3rd音と、m3rd音がメロディに共存している。この辺りは不定調性論の第五章でも述べている通り、ブルースは四度音程を軸にしている、と考えられるので、五度領域部分の三度にあまり重きを置く必要がない、という特性がある(これは不定調性論の論法なので、歴史的な事実ではない)。

しかし五音音階を基調に音楽を考えようとすると、五度ではなく四度を主体にしなければならない。こうして三度の浮遊性と七音音階との差によって現われるブルーノートの存在が明らかになるのである。

 

事例5;My Baby's Gone (CDタイム 0:17-)

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E♭ |A♭ |E♭ |A♭ |E♭ |A♭m |E♭ |B♭ | 〜
=degree= Key=E♭
I |IV |I |IV |I |IVm |I |V | 〜


Berry Gordy, Jr.の楽曲。

I-IVの交換から、変化をつけるためにIVmを使用、長調感と短調感が即座に入り交じっている。これは先の曲と同様に、三度の交換性が容易であるため、長調と短調の二極が余りなく、これらはほぼ同等に存在するイメージではないだろうか(アフリカ音楽ではこの手の合致はあたりまえ;参考

『アフリカ音楽の正体』から不定調性論第六章への展開★★★ - 音楽教室運営奮闘記

)。

 

これもブルースの三度に対する広義な解釈の発展した姿と考えてみてはどうだろう。
ここで考えて頂きたいのは、盲目のスティービーにとって、短調と長調の劇的な変化の雰囲気がいったいどのような存在であり、概念としてとらえられていったのだろうか、ということである。よく光と陰りというが、彼は光が認知できない(どの程度光源がみえるのかは不明)。

そうなるとイメージや感情的な喜怒哀楽にこの二つの概念を落とし込むことになる。

この辺りの謎解きが本レポートの目的でもある。この段階ではまだよく分からない、という結論で先に進めたいと思う。

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==コーヒーブレイク〜M-Bankロビーの話題== 

スティービーのハーモニカ・・。かっこええ。。

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