参考
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cogpsy/2012/0/2012_132/_pdf
今日はこちらを読んでいきましょう。
和音進行が情動喚起、について考える2012年の論文です。
"本研究では,和音進行による情動喚起のメカニズム解明を目的とし, fMRIによる脳機能計測とSD法を用いた印象評価実験を行った."
とあります。不定調性論はこのメカニズムを解明せず、それが起きることに注目し、それが一人一人全く違うレベルで起きており、それを活用するためのトレーニングにここが邁進することを音楽学習の中心におく、と考えています。
しかし、もしメカニズムが解明されており、そこから得られるものがあれば、これは便利ですよね。英語の最新論文等は読み解けないので、私は趣味として、関連論文を自分なりに勉強するに止まります。ご了承ください。
さて、知らない言葉が並んでいます。
fMRIとは、「脳が機能しているときの活動部位の血流の変化などを画像化する方法」
だそうです。
SD法とは、
これは比較的有名でしょうか。どうでしょう。基準がないと調べられないですもんね。拙論の場合、同じ赤でも、その日の気分によって、前日に起きたことによって、性別、年齢によって全く同じものはない、と考え、自分が発信するものについては、とにかく自分の尺度でまずは作り、それらを社会関係の中で、クライアントに言われた通りに修正する、という作業を行う、ことで自分が納得した上で修正していく、という現実的な精神状況を保たないと、尺度がズレることで、自身に自信が持てなくなります。
最初からあなたの最高を一切認めようとしない人とは仕事をしない、という意味です。
現実的にはこれが難しいので、不定調性論では、互いの尺度を尊重できるように自身の感性の独自性を認める訓練も行います。
同じような問題点が下記にも書かれています。面倒な方は「5.まとめ」だけでも読んでみてください。統計調査の問題点はいつもつきまといます。確信がないと人は安心しないんですね。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jje/45/5/45_5_263/_pdf
そして芸術は安心できないところで戦う仕事です。
本当に好きなことを見つけないとやっていられません。
<経過>
実験1.脳機能計測
音楽経験無し、非絶対音感の大学生11名に対して行われた実験です。実験内容は、
・MIDIによるピアノ音の使用。テンポ120
・長三和音(Major),短三和音(minor),増三和音(augment),減三和音 (diminished)
・根音をC,A,E♭,F♯の4つから転回形を含め, 4(和音種)×4(根音)×3(転回形)の計48種類
・2種類の和音からなる和音進行(chord 1(三連符)に続いて chord 2(二分音符)に進行)
・chord 1とchord 2 の和音種が異なるパターンをタスク刺激
・同じ和音種のパターンを コントロール刺激
(和音進行の具体例は、当記事下部の別リンクからみられます。)
結果をまとめると、
・長三和音を含む刺激に対してのみ左眼窩前頭皮質(BA47) での賦活が見られた.
・特に長三和音と増三和音ないし減三和音で構成された進行では、右眼窩前頭皮質でも強い活動が確認された.
眼窩前頭皮質とは、それぞれの目の上の裏あたりの脳の部分ですね。
なんで目の裏なんでしょうね??メジャーコードっていうのは、最も親しみ深い和音ですから、なんらかの反応が出てもおかしくないですね。
また機能和声を聞かない他民族とかにやってみてもらいたいです。
(左 BA 47 は,音楽のみならず映像などによって得られる情動の体験や知覚によっても賦活するとされている 部 位 で あ る(Phillips, Drevets,Rauch, & Lane, 2003)。当記事下記の別論文参照)
合わせて増和音や減和音はちょと変わっている不協和な感じも与えるので、これもやはりなんらかの感じを抱くのもわかります。
でも短三和音だって、それなりに反応しそうですけどね!
また音楽経験者だと、こうした感覚は麻痺している部分もあるので、演奏者と聞き手がいかに相互理解を施せるかが鍵ですし、聞き手がそれを期待している時、ある程度乱れたものでも人は快を感じる、ことになります。
4:33という曲を鑑賞します、って言ってそれを知っている人が持つ期待と知らない人が持つ期待では違うでしょう。
だから初見の曲を相手に聞かせる際には、題名、ジャケット写真、批評家のレビュー、などが、例えば「新しいレコード」を買った時などは、事前情報がないぶん、ジャケット買いや、"先輩がいいって言ってたんで買った"みたいな期待による音楽購買が進むのではないかと感じます。
題名大事。
期待させる題名と、それが一致して行けば快を感じるのでしょう
実験2.印象評価実験
音楽経験無し・非絶対音感 の大学生20名対象
・根音がFからなるF,Fm, Fdim,Faug,Fsus4,D♭,Dm,Ddim,B♭,B♭m,Bdimの計11 種類を使用。121通りの和音進行。
・評価尺度
「不安定な-安定した」
「明るい-暗い」
「複雑な-単純な」
「自然な -不自然な」
「かたい-やわらかい」
「違和感なし-違和感あり」
「悲しい-嬉しい」
「ゆるんだ-緊張した」
「継続感がある-終結感がある」の9つの感性語対に対し,それぞれ 6 段階で評価。
・評価はchord 2に対して行う。
難しいので、結論だけ箇条書きしてみましょう。
・Majorを含む進行に対してのみ左眼窩前頭皮質(BA47)での賦活が見られた。
・minorとTension(増和音、減和音)による進行では賦活が確認できなかったことからも,Majorのもつ特異性が示された。
・心理実験において、chord 2の印象を回答してもらったのにも関 わらず,chord1の種類によって,印象が大きく変わることが確認できた。
・和音進行の結果として得られる印象は,単一の和音によって得られる印象とは異なることが分かった。
・全ての 因子においてMajorで終わる進行は他の進行よりも得点が高かった. 脳活動においてもMajor が得意な活動を示していることから、Majorで終わる進行では他の和音種よりも強い印象を喚起する可能性が示された。
とのことです。ほぼ引用です。
ビートルズのコード進行などもメジャーコードの特異的な利用が目立ちます。なんらかの使い勝手の良さを感じていたのだと思います。
またユーミンならM7、スティービー・ワンダーならm7で特殊な進行を創出している、というようなこともこのブログでは書いてきましたね。
誰だって「ビートルズとは同じにはしたくない」とかって思えば、メジャーコード以外に行くしかないし、そこで自分を作り上げられる力こそが天才ゆえの創造力ではないかとも感じます。
こちらにより詳しい内容が記されていました。
こちらには
"また,和音進行そのものではないが,和音進行に関係する音楽情動モデルが Huron(2006)によって構築されている。Huron(2006)は,音楽によって引き起こされる情動に,期待のメカニズムが強く関わっていると主張している。この主張に従った場合,和音進行についても「和音進行前」に生じる次の和音に対する想像や緊張などの
期待と,「和音進行後」に生じる事前の期待との比較やそれに対する評価といった一連の流れが,期待のメカニズムとしてモデル化可能であろう。"
という記述があります。
"期待を裏切る"進行が良くも悪くも刺激的であることがわかりますね。
また、
"音楽的文法が乱された場合,つまり期待の裏切りによって(BA47が)賦活することが報告されている(Koelsch et al., 2005; Levitin & Menon, 2005)。また,不快な画像を見た場合や(Wright, He,Shapira, Goodman, & Liu, 2004),強く情動を揺さぶられた記憶と関連している音楽を聴いた場合(Janata, 2009),喜びあるいは悲しみを喚起する
音楽を聴いた 場 合(Flores-Gutiérrez, Díaz,Barrios, Favila-Humara, Guevara, del Río-Portilla,et al., 2007)といった情動の体験や知覚によっても,左BA47が賦活するとされている(Phillips et al., 2003)。"
とあります。左目の裏、何かありそうですね。
また、
"Hektner ら (Hektner, Schmidt, &Csikszentmihalyi, 2007)や Juslin ら(Juslin,Liljeström, Västfjäll, Barradas, & Silva, 2008)による先行研究においても,音楽情動においては負の情動よりも正の情動が優位であることが示されているが,これは本心理実験によって得られたMaj. に比べ min. および Ten. の和音性が類似しているという結果とも整合性がある。"
とあります。正の情動、とは快ですね。悲しい歌が「悲しみへの共感」ではなく、「他者を哀れんで、自分はハッピー」みたいな感情が奥底にあるから、短調の曲も好まれる、というのはわかります。テレビであなた自身の不幸体験をリアルドラマで見せられたら辛いけど、他人のならみられるのはなぜですか??笑。
それによりただの和音連鎖実験で短三和音にあまり反応しない、というのもわかります笑。そこに自分が満たされる他人の不幸とか、具体的な悲しみの要素がないので、生命反応が特に危険を察知しないから・・なのでしょうか。
これ、自分の感覚で言っていますので、皆さんは皆さんの音楽的感覚で述べてください。
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和音が様々な感情を想起させる、という前提は、不定調性論でも前提になっています。
それを一歩進めて、音楽家は、音楽を作る前から「音楽的脈絡」を期待して、イメージし、まだ具体的に聞こえてこない音を具体化することのできる能力を持つ人たちです。
これは、たくさんの音楽を聴き、それらと自分の情動を日頃から絡めているから、日常の情動と、音楽的感覚が翻訳関係にあるような生活を送っているからだ、とも言えます。
音楽家に対する実験なら、次のようなものはいかがでしょうか。
まずそれぞれが楽器を持ってもらって、またはピアノの前に座ってもらって、次のように指示を出します。
設問1。まず、あなたの楽器で二つの和音を用いて「不安定な」と思える和音進行を弾いてください。
でしょう。先ほどの9つの因子を和音を聞く前に自分で想定して弾けるのが音楽家です。続いて、「安定した」「明るい」「暗い」・・・と言葉から感じる印象を和音にします。
このときどんな和音タイプが出てくるかを調べるわけです。似てくるかもしれませんね。
次に
設問2。続いてあなたの楽器で同様に二つの和音を用いて「不安定な」と思える感情を6段階にして、一番程度の低い和音進行を弾いてください。
難しいですね。
どんどん自分の価値観が入り込んできてしまいます。
音楽において、感情はある意味タブーです。強制されて感じるものではありません。つい湧いてくることがとても快感です。モーツァルトなどはいつも感情を超えた感動を与えてくれます。バッハも似たような感情を与えてくれます。長調だろうが短調だろうが、小さな人間的感情を超えた感動に翻訳されます。
不定調性論では、「安定した」とか「不安定な」とか決まった形の感情ではなく、例えば、「昼下がり、誰もいない公園でブランコに座ったときの安堵感」とか「夕闇の中いつもより明るいうちに会社を出られた時の爽快感」とか、"自分にしかわからない表現感覚をちゃんと感じてそれを音楽のネタにしよう"というような発想です。
パラメーターのない話ですが、こうした一般論文と上手に組み合わせていくことで、また違った不定調性論が見えてくるのではないか、と思っています。