「カントリーロード」なんてダサいリズムでダサいメロディの退屈な歌....
なぜか子供の頃にそのように感じていました。
同曲の誕生と経緯
「カントリーロード」
原題は
"Take Me Home, Country Roads"
1971年4月12日にアメリカのカントリーシンガー、ジョン・デンバーのシングルとして誕生。
John Denver - Take Me Home, Country Roads (Audio) - YouTube
歌詞にも出てくる、ウエストバージニアの4番目の州歌。
作者は三人いて。下記の記事を読ませて頂きました。
この曲を書くのにインスピレーションを与えた、というメリーランド州(バージニア州の北)の道、メリーランドルート117という道もあるそうです。ウエストバージニアには作者はそれまで行ったことがなかった、というのがなかなか面白いです。
最後に参加した作家であるデンバーは、飛行機好きで、後年53歳で自身が操縦する飛行機で墜落し亡くなりました。あまりに劇的すぎる最期です。
数々の賞を受賞して、今もアメリカを代表する歌手の一人として、この歌とともに歌い継がれています。どことなく日本のフォークシンガーにいそうな顔形ですよね。だから骨格から出てくる声が、なんとも親しみがわきます。
公式サイトに、後年のライブが載っています。
グッときます。
自分がどんどん年齢を重ねて、冴えなくなっても、この曲はどんどん輝いてゆきます。
受講生の中でもシニアの方は、
「とても調子がよい曲だ」
とみなさんも好んで演奏します。
そういう話を十何年も聞いてくると、自分の「嫌嫌フィルター」がある日外れるんですね。年齢と共に捉え方が変わるものって確かにあります。
「故郷へ連れて行ってくれ」
ほんとこれ。
あれほど離れたかった故郷に、いつしか帰りたくなる。
人の身勝手さそのものを無言で受け入れてくれる家族や故郷の暖かさに勝る愛があるでしょうか。。
そういうのも歳を重ねるとわかってしまう。
子供の頃にいやでいやでも、大人になって大切だと思える存在があります。
この歌はそういう長い年月の心の動きを体現する歌で、だからこそ最初は気恥ずかしく、長く生きれば生きるほど、この曲の良さがわかってしまうのでしょう。
あれほど離れたかったのに、人はいつしか、
"故郷の道よ 僕を家まで連れてって"
そう歌う身勝手さよ。
デンバーも麻薬や自身のDVを綴った、『Take me home』という自伝があります。
どうにもならない愛への飢え。
スタジオジブリ「耳をすませば」との関連
ジブリの名作「耳をすませば」の中で、雫が「コンクリートロード」という替え歌を作って友達と笑う姿も、この曲をダサいと思った自分たちの過去と重なって、全部が懐かしい感じにさせてくれます。こう云う効果を生み出すからジブリ映画はすごいのだと信じています。
「人が大人に成長する前の姿」を内と外で描いてくれます。
映画「耳をすませば」では、ストーリーの背景に、どっしりと居座る高低差の激しい美しい故郷の町がそこにあります。多摩市は近所だったので、ロードバイクのトレーニングでよく行きました。
登場人物は、その町をなんとか飛び出そうとします。
「耳をすませば」での「カントリーロード」の歌詞は、若者が故郷に感じる苛立ちや、逃避感を映し出します。原曲とは真逆です。
若い時は、故郷のありがたみとか、家族のありがたみをちゃんと理解できる人はそんなに多くないと思います。
歌詞も、若者そのもの。
ストーリーも若者が感謝すべき故郷をさくっと飛び越えていくあたりが、なんとも切なく感じます。
petitlyrics.com
デンバー版の歌詞は、大人になって、夢を叶えたり、挫折したり、思い通りにいかなかったり、家族に助けられたりしてから眺めるようになる故郷の風景を歌っています。
デンバー版とジブリ版のコード進行の関係
メロディにも仕掛けがあると感じます。
A E
Country roads, take me home
故郷の道よ 僕を家まで連れてって
F#m D
To the place I belong,
僕がいたあの場所へ
A E
West Virginia, mountain mamma,
ウェストバージニア 母なる山
D A
Take me home, country roads
僕を家まで連れてって 故郷の道よ
とあります。最後はアーメン終止。
D→A
で
IV→I
です。
楽器が弾ける人はこの後半を、
A D
West Virginia, mountain mamma,
E A
Take me home, country roads
として歌ってみてください。これでも歌えると思います。
でもE→Aがなんだか人の傲慢な感じを覚えます。
「黙って俺を連れ帰ればいいのだ」的な。
ドミナントモーション(E⇨A)は、産業革命に生まれたいわば人工物の象徴、これを用いると急にお金が見えたり、計算高さが見えたり、自信や傲慢が見えたり、社会の美化された競争が見えてしまう印象があります。
で、さらに
A E
Country roads, take me home
故郷の道よ 僕を家まで連れてって
F#m D
To the place I belong,
僕がいたあの場所へ
A E(6)
West Virginia, mountain mamma,
ウェストバージニア 母なる山
個人的に感じるのは、「I belong」の上がるところです。
これは音楽家の感性の性感帯(一人一人違うのであなたはあなたの場所をみつけて)。
切実に願う思いを歌い上げるところです。
グッと盛り上がり、気持ちが入る部分です。
この思いが子供の頃はわからなかった。
「別に戻りたいなんて思わねーし」みたいに思っていた頃に戻りたい。
(メロディの最高音がサビに来る、というのは作曲テクニックですが、テクニック以上に、そうしたメロディー構成が感情に訴える効果が出やすいからだと思います。)
散々これまで故郷を蔑んできた分、こういう歌にある種の憧れ=帰巣本能?を刺激され、ざわざわします。
メロディも"mamma"のところで6thに行きます。E6がF#m11(9)のマイナーコードの匂いも含んで淡く切なくなります。「mamma」。
故郷=家族=ママ(母なるの意として)
っていうのは世界共通。
サビの最後にもう一度、乞い願うように「連れていって欲しい」としめます。
ここがアーメン終止なのが、彼の国らしい祈りの終止。ブルースと聖歌で育った土地だからドミナントモーションの伝統はないのでこれが普通なんですけど。
「敬虔な」の印象は、歳をとると心地よさです。
で、一転、「耳をすませば」のコードは、すごいことになってます。
(原曲のキーに移調して、さらに還元して書きます。)
A D
カントリーロード この道
F#m GM7
ずっと 行けば
D G
あの街に 続いてる
F#m E A
気がする カントリーロード
今あんだけ批判したE→Aが笑。
(開き直って)だから、これは野望に満ちた"コンクリートロード"なんです。
特にGがやばい。VIIbです。ビートルズかよ、っていう"野心に満ちた響き"です。
原曲の「素朴さ」「誠実さ」「素直さ」「愛」とは違う、コンクリートな野望に満ちたコード進行です。
でも、これで初めて登場人物の意思とぴったり符合するわけですから、これは潜在意識に訴える革新的なアレンジ、と答えることもできます。
気になった方は映画のラストの音源を聴いてみてください。
カントリー・ロード / 本名陽子 ギターコード/ウクレレコード/ピアノコード
上記のサイトは、より細かく採譜されてます。
それからこの曲は、
a,b,c#,e,f#
という五音音階でできています。みんな大好き、五音音階(ペンタトニック)。
懐かしさを感じさせる最強の音階です。
日本の民謡もこの音階を使います。
まとめ
できることなら、子供の頃からもう一度やり直したいって思わない大人がいるでしょうか。
言い尽くせない万感を、一瞬にして心の奥に突き刺してくる音楽の偉大さ。
音楽は人が作った最強の無限再生エネルギー。