音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

<コラム>制作メモ;"Lemon"の冒頭で考えるハイブリッドコードの使い方と展開

参考

www.terrax.site

<どう考えるか>

まず動画をご覧ください。コード表記や間違いがあったらお詫びします。

調をイ短調/ハ長調にしてあります。

www.youtube.com

まず0:00-は原曲のコード付けです。

これがいちばん。

で、もしあなたが、より前衛的な表現、または、この「Lemon」の世界観に強烈な自己性を感じて「もっと自分のものにしたい」というような強い所有欲を感じた場合、原曲の和音の流れを生かしながら、響きを12音に拡張できる技の一つが、アッパーストラクチャートライアドです。もちろんより簡単な代理コードや関連コード、不定調性的なコードを使って表現してもいいのですが、それだとコード進行が似通った別のコード進行になり、「そのコード進行だったら、メロディLemonじゃなくてもよくね?」となったりするので要注意です。

 

そこで、動画の、

(2)0:30からが自分なりに下記ページからハイブリッドコードとアッパーストラクチャーマルティプルハーモニー(上部複和音)的な方法論を引っ張り込んでみて無理くり作った和音付けです。

www.terrax.site

www.terrax.site

こういう響きの感じが、いかにもアッパーストラクチャーの響きです。

ちょっと色彩感が変わり、なんか歯が浮くような、鼻につくような。

もちろん、このままだとメロディはめちゃくちゃ調的なのになんでコードだけこんな浮いてんだよ、って怒られるやつです。

これだけでアレンジ終わり、だったら原曲のほうがいいに決まっています。ここからがアレンジの本番です。

 

(2)の段階はあくまで「設計譜」です。 

(普段は作りながらアレンジも同時にやっていくので、こうやって下書きを作ってアレンジするのは最初の一時期だけです)

 

で、まずここで一つの思考のハードルがあります。

・このような別和音をつけながら、完成形はなんとなく既にイメージできている

ことが結構大事です。これがもしないなら、アッパーストラクチャーはまだやめておいた方が良いかと。

 

例えば、美味しい高級カレーを作ろう!ってなって、街に出たときには既にどのスーパーのどの食材、どのお店のスパイス、どの八百屋の野菜を買えば高級になるかだいたいわかって行動を始めます。

まったく高級カレーを作ったことがないのに、果たしてレシピを正確に的確に考えることができるでしょうか。

つまり、この手のアレンジはそういう風にしてみたい、という普段からの想いと、結構なアレンジの慣れが必要です。あと音楽的な歪んだ欲求とか、難解にしたい性癖とか。もともと変わった和声観の持ち主とか。

 

もしあなたが「もっと調的組織から離れたジャズの先端のハーモニーを自分の表現に取り入れたい、それが自分が目指すものに近いからだ」と思っているのであれば、ぜひ勉強してみてください。

 

で、この(2)を受けて、

0:55からそれに基づいて、自分の感性でアレンジしたものが最後に流れます。

 =====

■まずしっくりくるようテンポを3下げました(テンポを変えたがるww)

■原曲の寂しさみたいなものをちょっとアルペジオのスタッカート気味にすることで、どことない不可思議感として出した(リズムを変な風にしたがるww)。

■それに合わせてメロディも音を区切り、休符の空間にふっと浮かぶ闇、みたいなものを表現した。一部符割りも変えた(友人が減るようなことをわざとやるww)

■最後に口語的なメロディを入れたくて、ピッチをダウンさせる音を1音入れた。和音も同主転調している。(肝心なところを不協和にする。)

■これがぼくにとってのlemonの和声だ・・(しらんがなww)

まあ、コンプレックスの塊みたいな表現欲求と言えなくもありません笑。

控えめに言って。

...好こ。

 

曲を見た瞬間、もう妄想のように曲の感じによって生まれる自分だけの表現や風景感、感情が浮かんでしまうときに、こうしたギリギリの調的ハーモニーを用いて「俺は伝統の上に乗っているから正統だ!感」を演出することができるわけです。一応代理コード的にギリギリ当たっていますし。

 

で、不定調性論はこの先にある方法論です。

皆があくせく勉強をしている脇で、スリーコードをサイコロを振りながら展開を決めて行ってヒットチャートの上位に乗ってしまうのはなぜか、を紐解くわけです。しかも根拠も理屈もないが自信だけは世界一、みたいなROCKの魂で。

 どっちがあなたの音楽性かを先生とよく考えてください。

=====

ジャズのエンディグコードとしてのアッパーストラクチャー、冒頭の和音としてのアッパーストラクチャー、という伝統的な和音もあります(II△/IとかVII△/Iとか)。

カッコイイ用語感やハイセンスなアイディアだけが先行して、極めれば楽曲全体に満遍なく用いることのできる洗練された技なんじゃないか、というイメージがあるかもしれませんが、けっこう局所的且つマイナーな武器です。そしてちょっと分かりづらいし不協和だし使い過ぎると慣れてしまい飽きます。

 

勉強法としては、ジャズの先生(編曲の先生)に一年ほどついて、編曲の全体を学んだ後、自分の音楽表現にいつ取り入れるか、考えると良いでしょう。

または、スタンダードジャズの曲を自分なりにアッパーストラクチャーでアレンジできるならしてみればわかります。出来上がった後には、ほとんどアッパーストラクチャーだと分かる状態はほとんど個々の楽器のアレンジを進めることによって消え去っているでしょう。

=====

 

おまけはラストのCdim7、トニックディミニッシュに触れておきましょう。

 ブルース、ゴスペルから来た「苦難の沈黙」コードです。

 ちょっと例がないので似たような雰囲気を。。

下記のレイ・チャールズのGeorgia on my mindのラスト(10:24-)のように(下記リンクで、曲の最後の方に飛びます)

Ray Charles - Full Concert - "1981" - YouTube

グー――!!!ッと熱い曲の最後に、クールに曲を収束させていく効果があります。

 "希望?希望っていうけど、そんなに熱くなってもしょうがないぜ。クールに行こうぜ"

と言わんばかりの彼らの民族の歴史を象徴するようなエンディングを創り出します。

ここでのコードはおそらくI7(#9)ですが・・。似たような雰囲気なので。

なんだか"暗い夜明け"みたいな雰囲気になりますよね。

 

日本人の文化にはなじみのないエンディングのトニックコードですが、ブルースをずっと聞いているとグッとくるようになります。和音にも民族性ってありますよね。

自分の中にない和音だからすごく遠い感じがして魅力的です。