音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

不定調性論と音の距離感の話

で考えますね。

 

つい時間が空いてしまって、目に留まったツイートに反応してしまいました。

いろんな「感覚の混じった話だな」と感じました。

独自解釈を含みますので気楽に読んでください。

 

音程の距離感と数理的な親和感の違い

音程における「距離」という概念をどこまで拡張するか、ですね。

音程の距離だけで言うと、

cに対して一番遠いのは1オクターブ高いcです。

しかし問題の意図は、みなさんの回答を見る限り違うと思います。

みなさんはきっと「協和度」というニュアンスをこの「距離」に感じていると思います。故にDesをお選びになる方もおられるのでしょう。半音上の音は不協和になる音として有名です。

 

 

協和度とは、単純な整数比で表される音、とされますので

音程 - Wikipedia

問題のCを1cとすると

1c:2c=1:2

2c:2g=2:3ですから、

gは明らかにcに親和が強いなぁ、って感覚を持っていると思います。

 

そうなると先の候補からgは外され、

答えはd♭かb、f#になる、と思います。

 

同じように振動数比で言えば、

c:b=8:15

c:d♭=8:17

c:f#=8:11

となり、この数値順で言えば、問題の距離感は

c-g-f#-b-d♭

となり、d♭が問題の答え、となります。

ちなみにこれは解釈がそれぞれあり、上記は自然倍音列の発生音から導き出しています。他の比率表記もやろうと思えば可能なんです。

これがこの問題を複雑にしているんですね。

 

でもd♭って半音上だし、「一番近い」という感じもすらしますよね。

 

ジャズ理論による不協和感覚と感覚と慣習から 

d♭というのは♭9thです。

G7(b9)  Cm7

における♭9は美しいです。

f#は#11thです。

CM7  FM7(#11)  CM7 

という感じで現れる#11thも綺麗です。

bはM7です。

CM7が美しいと思える人にとってbがcに対して不協和だ、と感じる慣習 はないでしょう。

そういう意味でもd♭が一番不協和と言っていいかな、なんて思います。

回答でf#が多いのは、cとf#が「悪魔の音程」「トライトーン」を組んでいるから、というイメージが強い、という点と、音程の距離的にもd♭やbは半音ですから「距離」という点では近いです。

その点f#は距離も増四度と遠いし、トライトーンという不協和イメージがあり、その合算でf#という答えが多かったのかな、と感じました。

 

そして、ここからが不定調性論。

f:id:terraxart:20180927101406j:plain

自然倍音の含有度で考える

ではここで視点を変えてみましょう。

基音cの自然倍音を八倍音まで挙げると、

1c,2c,2g,3c,3e,3g,3b♭,4c

です(左数字は同じオクターブを示します)。

同様にg,d♭,bも調べてみましょう。

 

gの第八倍音までの自然倍音

1g,2g,2d,3g,3b,3d,3f,4g

 

d♭の第八倍音までの自然倍音

1d♭,2d♭,2a♭,3d♭,3f,3a♭,3b,4d♭

 

f#の第八倍音までの自然倍音

1f#,2f#,2c#,3f#,3a#,3c#,3e,4f#

 

bの第八倍音までの自然倍音

1b,2b,2f#,3b,3d#,3f#,3a,4b

です。

 

出現音を列挙すると、

g=g,b,d,f

d♭=d♭,f,a♭,b

b=b,d#,f#,a

f#=f#,b,c#,e

です。

 

今回の四音との相関関係を見てみましょう。

c=c,e,g,b♭

g=g,b,d,f

d♭=d♭,f,a♭,b

b=b,d#,f#,a

f#=f#,b,c#,e

です。出現順に見ますと、

c=1個 

g=1個

d♭=2個(c#も含む)

f#=2個

b=4個

bの含有度が高いです。

で、cが唯一持つgがbを持っている点に注目しましょう。

そしてそのbをその他の音が持っているとなると、bのcへの関連性が心理的に上がってきますね。

実際これらの数的に言えば、gが一番少ない、cがない、とかツッコミどころが満載です。これには訳があります。

そう、いわゆる下方倍音=基音を発生する数理、が考慮されていないからですね。

この倍音の含有量でいうとここではf#はd♭と同数です。

 

====

自然倍音を指標にするなら、次の関係を考えなければなりません。基音をcとしたとき、

cが発生する音

cを発生する音

の二つです。

cを発生する音には次のようなものがあります。

 

第二倍音にcを持つ音=c

第三倍音にcを持つ音=f

第四倍音にcを持つ音=c

第五倍音にcを持つ音=a♭

第六倍音にcを持つ音=f

第七倍音にcを持つ音=d

第ハ倍音にcを持つ音=c

 

です。これを下方倍音列とも言います。

七倍音は近似だ、とするかもしれません。でも純正律に比べたら第三倍音だって近似値です。どこまでを近似の範囲にするかを個人が勝手に決めてしまっているんです。近似についての話はこの記事でクリアーになると思います。

www.terrax.site

また拙論では第九倍音以降を用いません。和音を作る際の基音決定のしやすさからそう自分が"勝手に"決めたからです(9倍音以上は上方領域と下方領域で音が重複するため)。このように自分で用いる音の範囲を決めることができる、という考え方が「音の反応領域の設定」という発想としました。

これは無意識にも絡むことです。たとえばカレーが嫌いな人は、昼食にカレーを食べる、という選択肢は発生しません。ブルースが嫌いな人は、依頼された編曲において「ちょっとR&Bにしよう」という選択はしません。

 

しかしR&Bもカレーも現実には存在し、好きな人がたくさんいます。

分かっていても人は自分の判断を信じるようにできています(洗脳されていない場合)。ゆえに、既存の方法論に従う自由と、自分論を展開する自由が存在してしまう、となります。

 

この下方倍音も八倍音まで考慮すると、基音cのとき次のような関係図が生まれます。

これが数理親和音モデルです。

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基音cが上方に作るイメージである上方倍音c,e,g,b♭はcの上部に着きます。

またcを発生する音はその並びの下方に配置し、cを発生する過程で現れる残りの上方倍音も八倍音まで考慮します。右の図はそれをディグリーで一般化したものです。

不定調性論ではこれを一音が作り出す関係性を最大限に拡張したもの、とします。この中には長三和音はもちろん、一般的なポピュラーブルーノートにも該当する、e♭、f#、b♭が出てくるので、「ブルーノート論」も展開しやすいので、機能和声論が取り扱いきれていないブルースを、機能和声論の延長線上で扱うことができます。

 

まずこれらどの音を「近い」とするか、ということで「個人の反応領域」が決まります。

この図を見て、gが近い、f#が遠い、などなど。

でもこの図の中に現れていない音があります。

そう、d♭とbです。

 

ゆえに不定調性論においては、cから遠い音をg,d♭,f#,bから選べ、となれば、bとd♭は数理的に遠い(親和度が低い)、と考えるわけです。

 

====

じゃあd♭とbはどちらがcに近いのか、ということを最後に考えてみましょう。

ポイントはf#の存在です。

f#という音は、

f#=f#,b,c#,e

cが数理親和音モデルの中に含まれていない音を自然倍音に真っ先に含みます。

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cとf#は振動数比が1:√2です。直角三角形的な美意識を有しています。

「悪魔の音程」という刷り込みが悪影響なのかもしれませんね。

しかしこの和音は「不協和の極限が作る美しさ」とも言えます。

 

cが出現させないc#とbをf#は上方倍音で真っ先に作ります。

そしてcが最も親和を見せるfとgをf#は持ちません。

 

不定調性論では、この関係を表裏の関係とするために「増四度環」というモデルを作りました。cに対称的な存在はf#である、とするわけです。

  

そうなりますとg,f#,b,d♭でf#は基音cの裏面、という位置づけになります。

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あとはd♭とbではどちらがcから遠いのか、ということになりますが、 

歴史的にはbは導音ですから馴染みがあるぶん、最も遠いのはd♭なのかな、というイメージにもなります。

これはイメージなので、数理的にはd♭、音楽理論的にはf#、というイメージがあるから最初のツイートの通り「正解のない漠然とした問い」という問いかけに自分はピンときたのかもしれませんね。

ありがとうございました。

参考

www.terrax.site