音楽教育活動奮闘記

不定調性論からの展開~音楽思考の玩具箱

<不定調性論教材紹介46>機能進行の曖昧さを考えよう

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一つ一つ見ていきましょう。

例えば、次の進行です。

CM7  ⦙G  ⦙Am7   ⦙F   ⦙Em7   ⦙Am7   ⦙Dm7   ⦙G7  ⦙CM7   ⦙

典型的なポピュラーミュージックのコード進行です。

これを従来のコード機能で置き換えて表記してみると、下記のようになります。

T Tm  SD

T Tm SD  T

T=トニック

SD=サブドミナント

D=ドミナント

Tm=トニックマイナー

曲の最初がトニックで始まり、最後がD Tという王道的に解決しています。Tmとは次に現れる、マイナーキーでのトニックを表し、「トニックマイナー」とされます。Cがトニックのとき、Am7は平行短調のトニックだからです。機能別の進行慣習を下記に列挙しました。

 

Tから進むことのできる機能 Tm D

SDから進むことのできる機能 T D

Dから進むことのできる機能 Tm T

Tmから進むことのできる機能 SD

 

機能を打ち消す、解放するという目的において、全ての機能への進行が可能かどうかの確認を行っていきます。これが可能であれば、機能の特別性や進行の絶対性に対する自身の義務意識が薄まります。

 

次のコード進行を見て下さい。

先ほどの機能列挙に追加してみます。

Tから進む機能 Tm D  新たにSD

※CM7がサブドミナントの代理コードであるDm7に進行しています。以下も同様に新たな機能のコードに進行していくものを列挙しています。

SDから進む機能 T D  新たにTm(Dm7→Am7)

Dから進む機能 Tm T  新たにSD(G→F)

Tmから進む機能 SD  新たにD(Am7→G)

 

それではさらに下記の進行例もご覧ください。

CM7 Em7 F CM7
Am7 Dm7 F G CM7
 
T T SD T
Tm SD SD D T

 

Tから進む機能 Tm D SD 新たにT Tm(CM7→Am7)

SDから進む機能 T D Tm 新たにSD(Dm7→F)

Dから進む機能 Tm T SD 

Tmから進む機能 SD D

 

少しずつ全ての機能のコードタイプが全ての機能のコードタイプに連鎖していることが分かってくるでしょう。つまり曲の最初と最後のCM7をセンターコードとした場合、その他は全てアラウンドコードとして括られていきます。あらゆるコードはどんなコードへも進行できる、という意識の土台ができたことになります。

 

ドミナントによる終止、VIIm7(♭5)等は後述します。

 

またキーがCメジャーのとき、Am7は平行短調のトニックですが、Am7が現れたらAm7をトニックとした機能解釈をすべきではないか?という意見もありましょうが、それこそコード解釈が異なる、ということを意味します。

 

Am7 G ~

とつながったとき、G∇は果たして次にどこへ進まなければならないのでしょうか。もし慣習的な進行を矯正される商業音楽的価値観から解放された時、和音の流れはそれでも決められているのでしょうか。

1  Am7 G∇ FM7

2  Am7  G∇ Gm7 C7  FM7

3  Am7  G∇ CM7

4  Am7  G∇ Dm7(♭5)  G7  CM7

このようにバリエーションがあるとき、一般には1と2の進行のG∇はサブドミナントマイナー、3と4の場合はドミナントという扱いですが、それぞれ間にII-Vが入ってくる等が起きると、そのつながりのクオリア(心象)はまったく異なってきます。

 

CM7  Em7   F   CM7
Am7  Dm7  F   G   CM7

この進行におけるAm7では、その前のCM7でいったん区切りがつけられ、次のAm7では別段落になった印象のような感覚を持たないでしょうか。このとき、大きく土台が動かされたように感じ、その時つながったコード進行(4小節めの頭のコードにつながる進行)は、他の部分と違い、段落が変わったような印象を覚えます。


CM7  Em7   F  CM7
E♭M7  Dm7   F   G   CM7

というように極端にコードを変えても、なんとなく奇抜な感じを受けるだけで、曲の進行としては成立してしまいそうです。

それでは、CM7→E♭M7はなんという名前の進行でしょうか?

またE♭M7→Dm7は何進行でしょうか?

コードはどこからどこへでも進むことができる、という結論をどこかで設定されなければ、きりがありません。

 

 

マイナーキーの場合も同様に書いてみます。

新たな機能がここに追加されます。

 

Tm トニックマイナー・・・iとiii♭(マイナーを規定する音)を持つ和音

SDm サブドミナントマイナー・・・サブドミナントと同様にivを持ち、vi♭を持つ和音。逆にivとviを持てばサブドミナントと考えることが出来る。

dm ドミナントマイナー・・・v度上に作られた、トライトーンを持たない和音、またはvii♭とivを持つ和音。ドミナントに比べると収束性が弱いため、進行の強度はサブドミナントと同程度のため、サブドミナントマイナーとして定義される和音が多い。

(参考;メーザーハウス「THEORY STEP I~XII」 佐藤允彦 著)

 

これらの機能を元に和音を作ると、次の表のようになります。トニック音をcまたはaとして規定してみます。

機能和声を学習する最初の段階で覚えるコード群としてメジャーダイアトニックコードを「level 1-Major」とし、マイナーダイアトニックコードを「level 1‐Minor」とします。(“level”については後述)

ある程度作曲を経験したことのある人なら誰でも、これらの和音の響きと流れ、そして慣習的なコード進行を知っているでしょう。先ほどメジャーダイアトニックで行った際の平行調であるAマイナーのダイアトニックコードも書き出しました。

Im7・・・トニックマイナー

IIm7(♭5)・・・サブドミナントマイナー

III♭M7・・・トニックマイナー

IVm7・・・サブドミナントマイナー

Vm7・・・ドミナントマイナー、V7とは異なり、Iに強い声部進行を作れないことから、その機能も一段弱まる。

VI♭M7・・・サブドミナントマイナー

VII♭7・・・サブドミナントマイナー

なお、ドミナントマイナーはDmと区別してdmまたは[Dm]、サブドミナントマイナーはSDmと表記するものとします。これらを参考に先の二番目のコード進行の機能を新たに書き出してみます。

このコード進行ですが、最後のG∇は果たしてAマイナーに属するサブドミナントマイナーでしょうか、それともCM7に解決するドミナントでしょうか。

これはピヴォットコード=pivot chord(二つのキーで共有されている和音=転調の際の橋渡しする(蝶番=pivot)コードとして用いられる)と考えられるコードです。しかし機能がどのようなものであれ、肝心なのはその進行が持つ雰囲気が、どのような音楽的表現を有しているかを学習者が自分の一時解釈で咀嚼できるか、ということです。

この場合、Am7→G→Fという流れでマイナーキーの憂いを感じますからGにまた戻ったときAm7への進行を予感させます。しかし楽曲はCに戻ります。このG7がどのような機能を持つか、ではなく、どのような表現をその人に与えるかを考え、使用法を一つ一つ自分の中で確立していってください。

次のコード進行を見てください。

このコード進行はいま提示したダイアトニックコードを組み合わせて作成しました。このコード進行のキーはCメジャーでしょうか、Cマイナーでしょうか、そしてそれぞれ機能はしっかり果たされているでしょうか。

 

ここで改めて一般的な和声の機能の約束事を復習しましょう。

 

トニックコード・・・調を規定し、どのコードへも進行が出来る、ドミナントおよびサブドミナントとされるコードから帰着すると、時に強い終止感、収束感を感じる。

サブドミナントコード・・・トニックに向かって、緩やかな収束を行う、続くコードは主に、ドミナント、サブドミナントが連続する、トニックに向かう場合は「サブドミナント終止」とされる。

ドミナント・・・トニックに向かう、強い進行感、終止欲求、収束欲求を持つ。基本サブドミナントには向かわない。またドミナントが連続することもまれである。

 

これらの解説は皆さんがなんとなく承知している、初期学習時の和声進行の定義です。ここまで様々なコード進行を見ていただきましたが、皆さんはまだ今でもこの定義に従っていると思いますか?

トニックについてはどのコードへも進行可能ですから、これは定義していないのと同じです。この和音は曲の最初や最後にあって、強力な句読点となる和音です。

 

サブドミナントの説明も、基本的にどんな和音に進むことも可能といって良いでしょう。ドミナントについて、サブドミナントに向かわない、という規定がありますが、先にも挙げたとおり、以下のようなコード進行がこの規定を打ち破ります。

進行例2は先にも提示したブルース的な進行です。

ドミナント機能G∇がサブドミナント機能F∇に進行しています。これはブルースの慣習的進行とも言えます。進行例3はビ・バップ的な感覚です。同じくサブドミナントマイナーといえるコードに進行した後でトニックに終止しています。これはいかにもCM7の前に挿入されたトゥ・ファイブのような印象を受けます。このような挿入進行がビ・バップの特徴的コード進行でもあります。進行例4も同じくサブドミナントマイナーに進行しています。これは解決を遅延させるような挿入コードの印象を受けます。前のG7はまだ活きていて、その印象をA♭M7が補っているかのようです。

 

このようにセンターコードに対してアラウンドコードが様々に挿入され、バリエーション豊かな驚きと新鮮さを追求できる時代となりました。

 

ここまでセンターコードとしてトニックの存在だけは保護してきました。次の進行例を見てください。

このコード進行では、最後にII♭M7という和音で終止しています。文章で言えば疑問を投げかけるような、思わせぶりな終止といえます。II♭M7は機能和声論ではサブドミナントマイナー機能を持つIVmの代理コードとされています。

これは特殊な例といえるかもしれませんが、トニックはどこへ行っても良い、という性格が、終止後の感覚も左右できる、という性質を利用した曲の終止といえるでしょう。

この進行ではE♭M7に転調しています。

これは特に極端な進行です。

II→Vの転調感を利用してG7で終止し、7thコードのブルース感を利用し、このG7にブルージーな印象を与えています。この進行ではキーが確定しませんので厳密にはこのG7はCM7に対するドミナントコードではありませんが、ここではキーそのものが宙に浮いてしまっていることを確認してください。

これらは極端な例ですが、センターコードの移動は「転調」という概念で扱われます。しかし最後の進行例のようにどこからどんな転調感があるかを示すことが、現代ではそこまで音楽の内意を示すと行為に代替されるとは思えません。

 

トニック、サブドミナント、ドミナントという「和音の機能感」は、いつのまにか、伝統和声法における機能感や進行感の残像となり、現代においては、その感覚も維持しながら、自由にあらゆる機能のコードに連結することができる「進行感」を作る手助けをしている、というのがここでの結論です。「機能感」ではなく、あなた自身がそれをどう捉えているか、という個人の「音楽的なクオリア」の話になるべきだったのです。それに親しめるものは商業音楽に進み、親しめないものは先端の自己芸術性を目指すしかありません。 

 

作曲経験者の創造性を養うために、まずこれらのコードのあらゆる進行感による印象を覚え、判別、意義の自覚ができるようにならなければなりません(自分なりに、で結構です)。その素材としてこれまで挙げてきたように段階的に、使用コードを広げ、基本的な連結の慣習に親しんでみると良いでしょう。

 

次のようにlevel1のコード群をまとめます。これをlevel2のコード集合とします。

これらはトーナルセンターであるcをもとにメジャーダイアトニックコードとマイナーダイアトニックコードをまとめたものです。これが大枠でのc中心の一連のダイアトニックコードであるといえます。

CM7  EbM7   AbM7   Bb7

例えばこのようにM7のコードタイプを中心に用いたコード進行を作ることができます。この場合、コード進行を見た限りではキーはCメジャーからCマイナーに移行しているような印象を受けますが、実際メロディを作ってみると、「メジャーである」とか「マイナーである」という印象よりも、「ああ、聴いたことがある」というM7の連鎖独特のクオリアを感じる人もあるのではないでしょうか(接してきた音楽により、この感覚もまた人それぞれです)。

 

このようにコード進行の上からは純粋なキーの秩序は消え失せますが、メロディはなぜかシンプルなフレーズで均整をとることができるでしょう。

 

このように調の定まらない、またはあえて理論的な調を定めない、調設定を無視して制作するコード進行を本書では「不定調性進行」と呼びます。

 

こうした進行感の肥大が進むと、

和音α→和音β

テンポ68→テンポ128

4/4拍子→9/4拍子

出来事α→出来事β

といった時系列への変化も全て「進行感」「展開感」を感じることができます。

 

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