さて、この基音cを中心にした際に現れる、3倍音gと-3倍音fの二つの対称性を用いたのが一般的なダイアトニックスケール(長音階)です。
Cu5 (+) Gu5 (+) Fu5
機能和声論においてはfの和音はサブドミナントと呼ばれていますが、これはgが上方のドミナントと呼ばれるのに対してサブドミナントは下方のドミナントと呼ぶべき位置にあることがわかります。
そのような意味でg音とf音は、基音cの場合、対称的な位置付けにある、異なる世界の同一位置にある音、と考えることができます。これを増四度環に基づいて図示します。

上図ではcを基点としてgとfが上下に並んでいます。この図を見れば、その音集合がcが中心または何らかの起点であり、gとfがそれに追従するように対称的に存在している、ということが汲み取れると思います。この反応をc,f,gに展開します。

これを「反応領域の形態模写」と呼びます。
これは自然的存在を西洋庭園や西洋建築などにみられる統一性の美や対称性の美によって構築するを良し、とする美的感覚を用いるわけです(最終的には、このバランスの取れた美も日本人的に幽玄に崩していくことで無常化、野生化しても良いでしょう)。
これらのパターン、対称、反復といった形象の認知は「脳が悦ぶ」とされています。パターンを見つけたことだけで意欲や動機が生まれます。
ここで抽出された和音はCsus4 Fsus4 Gsus4です。和声単位の表記に改めると、Cul3、Ful3、Gul3です。
この音群を音階的に並べてみると、
c d f g b♭(Gマイナーペンタトニックの転回形)
となります。
機能和声論は基音cに対するgとfを整数比で基音と近親関係になる音に三和音を重ねました。

上記したように、下方は持たず、四度領域も持たないという図式です。そしてこれらの構成音を分解し音階にしてそれらをこの三つの和音の上で旋律として連鎖させました。
ではこれを先の増四度環的な正負の領域的に解釈するとどうなるでしょうか。

まずcの協和音gがあり、gに対する負の領域からfを反応させてみます。そしてこれらの三音に上方五度領域を反応させます。

C∇ c,e,g, g,b,d f,a,c
G∇ g,b,d, c,e,g
F∇ f,a,c, c,e,g
さらにこのg音とf音に同様の領域を反応させると、それぞれにcegが現れます。
これでG∇の上でc,e,gが用いられ、F∇の上でc,e,gという音が用いられるようになります。
ここでG∇にd,f#,a、F∇にb♭,d,fという音集合が現れています。例えばここでG∇でd,f#,aを用いてしまうと、機能和声的には、一時的な逸脱を引き起こしてしまいます。これを起こさないようにするのが反応領域という人工的に与える反応のベクトルの制約です。機能和声論は音階集合という制約を与えることで、自由な反応領域を巧みに束縛していました。
つまりこのモデルでいうところのgにおけるD∇と、fにおけるB♭∇は二次的には用いることができますが、機能和声においては一時転調の役割を果たしてしまうため、除外されていた、と理解することもできます。
C∇ F∇ B♭∇ C∇
や
C∇ D∇ G∇ C∇
や、これらを混ぜた、
C∇ F∇ D∇ G∇、
C∇ D∇ B♭∇ C∇
というコード進行は、一時的な転調進行としてよく用いられますが、機能和声論では二次的な利用として除外することで調性の絶対性を誇示してきました。しかし、このような進行は決して「転調」ではなく、あくまでCメジャーキーに最も近い部外者の利用である、という理解もできるわけです。その根拠の一つとして、この領域の形態模写という方法です。
このように反応領域の形態を工夫することで、様々な和音の親和の状況が見えてきます。
主要三和音が三つの和音でなく、以下のような五つの和音であれば、どんな音楽理論が作られるでしょうか。
C∇ F∇ G∇ D∇ B♭∇
C∇=トニック
F∇=サブドミナント
G∇=ドミナント
D∇=プレドミナント
B♭∇=プレサブドミナント
等の名称を仮に作ったら、新しい音楽理論が生まれる可能性さえあるでしょう。
実際の作曲では「機能」を考えることはあまりありません(機能はフーゴー・リーマンらが定めた分析のための道具)。本書では学習で刷り込まれた機能の垣根を取り払う例を書いてゆきますので、同様なアプローチでみなさんの中に刷り込まれた感覚について考え、解放できるならしてみてください。
それでは今度はC∇の構成音から和音の発展を考えてみましょう。

これはc,e,gに対して正負の領域の対称性を作ったものです。これもまた、ダイアトニックスケールの主和音となる構成が現れます。
今度は、主要三和音はメジャートライアドになりました。
更に上下の和音にも同じ構造を広げてみます。

このときも同様です。基音cを尊重し、基音との呼応を重視したうえで、副次的に現れるD∇やB♭∇も使用ができるようになります。
次はCu5に、より特化して領域の発生を考えたものです。

ここから現れるスケールは、c d e g g# b(特定不明な六音音階)です。
次のモデルを見てください。

これは各上方五度領域の領域確定音(第六倍音)の下方五度領域を合わせて表したモデルです。これでAm、Em、Dmが対応的に反応領域として確立できることはこれまでも解説してきました。これらの表記によって、短三和音は主要三和音に内包されるイメージを作ることができます。
しかし、これらの短三和音が逆転し、主要和音となって表現される場合があります。それが短調(正確にはエオリアン)です。
ダイアトニックコードを作る際の初期段階において除外されやすいBdimという和音がここに現れないというのも興味深いです。

もちろんこのように、性格音の下方領域を反応させると、F#m7(♭5)、Bm7(♭5)、C#m7(♭5)などが現れるのも興味深いです。これらの和音は、よくジャズでは登場します。
C#m7(♭5)→CM7
や
Am6の転回形=F#m7(♭5)
などです。これらは偶然ですが、音関係をさまざまに関係づける好例であると思います。
例えば、C#m7(♭5)→CM7におけるC#m7(♭5)をGのbの下方に位置する集合と考えると、b→g→cの基音移動が確認できます。

最終的にgからcへの長調的拡張のベクトルとなります。つまり、
C#m7(♭5)→Cは調向階段モデルにおいては、長調的進行と言えるわけです。
もちろん基本的進行をFM7(#11)→Cとするならば、fの#11thのbからC#m7(♭5)を作ったとしたら、同じC#m7(♭5)→Cでもベクトルが逆向きになりますので、短調的拡張となります。あまり重要なことでもありませんが、そのように体系化できる、という点が私には興味深く思えます。