Schubert - Ave Maria - YouTube
「ウォルター・スコットの名高い叙事詩『湖上の美人』(『湖上の麗人』、The Lady of the Lake)の、アダム・シュトルク(Adam Storck)によるドイツ語訳に曲付けされたもの」なのだそう。
参考;http://ja.wikipedia.org/wiki/エレンの歌第3番
この曲、もちろん機能和声曲ですよね。だからガッツリアナライズできるし、当時の音楽を知ってる人なら、1から100まで全て分析してしまうのではないか、と思います。
ここではもし、現代の音楽を勉強するあなたが最初にこの曲に出逢って、それを美しいと思うなら、いったいどうすればいいんだろう、ということを考えてみます。
<イントロ>
Bb - - Bb7|Eb/Bb Ebm7(b5)/Bb Bb - |
<A>
Bb Gm6 Bb/F F7 |Gm - Cm F7 |Bb - Bbaug Gm/Bb |Em7(b5)/A A7 F#dim7 - |
Gm Gm6 F/A G7/D |F/C C7 F - |F7 - Bb/F - |F7 - Gm - |
F D Cm - |Cm/Eb Gdim7 F F7 |Bb Gm6 Bb/F - |Bb - - Bb7 |
Eb/Bb Ebdim/Bb Bb - |
<A'>
Bb Gm6 Bb/F F7 |Gm - Cm F7 |Bb - Bbaug Gm/Bb |Em7(b5)/A A7 F#dim7 - |
Gm Gm6 F/A G7/D |F/C C7 F - |F7 - Bb/F - |F7 - Gm - |
F D Cm - |Cm/Eb Gdim7 F F7 |Bb Gm6 Bb/F - |Bb - - Bb7 |
Eb/Bb Ebdim/Bb Bb - |
<エンディング>
Bb - - - |Bb6 ||
わずか30小節の至高の名曲。
参考楽譜です。
キーはBbメジャー、すなわち変ロ長調ですね。
<イントロ>
I - - I7 |
IV/I IVm7(b5)/I I - |
<A><A'>(くりかえし)
I VIm6 I/V V7 |VIm - IIm V7 |I - Iaug VIm/I |
IV#m7(b5)/VII VII7 V#dim7 - |
VIm VIm6 V/VII VI7/D |V/II II7 V - |V7 - I/V - |
V7 - VIm - |
V III IIm - |IIm/IV VIdim7 V V7 |
I IV#m7(b5)/VI I/V - |I - - I7 |IV/I IVdim/I I - |
<エンディング>
I - - - |I6 ||
例;I IV#m7(b5)/VI I/V - |
となっているのは、一拍目がI、二拍目がIV#m7(b5)/VI、三拍目と四拍目がI/Vですよ、という意味です。「-」の記号をここでは、「前のコードと同じ」という意味で用いています。
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■イントロについて
すぐI7→IV、すなわちセカンダリードミナントが出ます。いきなりの動的要素。
続くEbm7(b5)/Bbが美しい。Em7(b5)には、Bb音はありません。
これはBbmM7(#5)という和音です。
とても甘美な響きです。
結果的にBb音とA音がM7thでぶつかる所が粋ではないですか。ちょっと例を出してみましょう。
Dm7 G7 |CM7 |→シューベルト変形→Dm7(b5)/A G7/Ab |CM7/G |
CM7(9)/GとかCaddd9/Gでも良いですね。
このイントロはBbのベースの上で、思念が揺らめくような、想いの揺らめきを表現しているようですね。
宗教曲ではない、という要素がこのイントロからも感じられます。
こんな卑猥な響きは宗教曲にあってはならないのでは?と一瞬に感じてしまいすね。
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■A,A’セクションについて
<A><A'>
Bb Gm6 Bb/F F7 |
6thが効いています。
このGm6の6thのE音は次のf音に流れます。
「機能」で連鎖させようとするのではなく、声部の流れがあるのみです。
それを簡素化して、誰でも使えるようにしたのが、ポピュラーミュージックのコード進行という考え方といえます。コード進行を使うのは、ちょうど電子レンジで調理するような感じ。
音楽を楽しみたい人はそれでもOKです。でも学習時は一度ぜひ声部の流れを勉強してみて下さい。
またBb/Fの部分もBbにしてしまうのがポピュラーコードですが、これもBbとBb/Fでは大違いです。
Gm - Cm F7 |Bb - Bbaug Gm/Bb |Em7(b5)/A A7 F#dim7 - |
augの不安定な和音で「疑問」をつくり、この疑問に苛まれるように、Em7(b5)/Aが現れます。
このEm7(b5)/Aですが、このコードをAから発想すると、
A7sus4(b9)
です。これがA7に流れます。ただのsus4解決です。
ジャズ系の方ですと、Em7(b5)-A7のII-Vのほうが分かりやすいでしょう。
またこのA7がDm7に流れるのではなく、F#dim7に流れます。この和音は、言ってみればD7(b9)に相当し、次のGmに流れます。
Gm Gm6 F/A G7/D |F/C C7 F - |F7 - Bb/F - |F7 - Gm - |
つまり、Em7(b5)-A7-D7-Gmという流れですね(簡素化すると)。
sus4のb9thテンションは使えます。
例;Dm7(b5) G7sus4(b9) | Cm7 |
なんて弾いてみてください。
またG7はいわゆるVI7です。分散和音的に、メロディがG△を追います。ここは力強いVI7になっています。
例;
C Am |Dm G |C
よりも
C A |Dm G |C
のほうが明るく、最後のCに向かう感じがポジティブと言うか積極的に感じられませんか?
AmがAに変わることで起こる印象の違いですね。
この曲のG7もそうしたメッセージを感じます。
歌詞については、下記のサイトを参考にさせて頂きました。
これによれば、
soll mein Gebet zu dir hinwehen.
乙女が祈りを憐れと聞かせたまえ
という「願望」が前に出ます。そういう意味でのVI7なのでしょうか。祈りが願望に、願望が欲望に、という切なる人の飽くなき願い、みたいなやはり宗教歌とは少し違う、俗っぽい人の願望のような匂いを感じますね。
またF/C-C7-FのF/Cは、C6sus4omit5と考えれば、C7にsus4解決しているようです。弾いて頂くと分かりますが、F/CのaはC7のb♭に、fはC7のeに反行解決します。
これがとても強い流れを有しています。
F D Cm - |Cm/Eb Gdim7 F F7 |~(Bb)
そしてF-D-Cm。そのあと主題に戻るBbまで、紆余曲折を経るようになかなかBbに解決しません。又ここの歌詞が、
o Mutter, hör ein bittend Kind!
悩めるこの心君にねぎまつる
となっていて、たしかに悩んで、苦悶して、ようやく主和音にもどる、という感じがあります。
ここでのGdim7はC7(b9)です。ですからここは、
F D Cm - |Cm C7 F F7 |~(Bb)
とじりじりと主和音Bbに向かっていきます。
だからこそ、次の主和音Bbが来た時に、やったーーーー!という解決感があるのかもしれません。これぞ「解決感」ですね。
コード進行では作られていないクラシックならではの表現ではないでしょうか?もちろん、
例;F | D |Cm |Cm |Cm |C7 | F |F7 |~(Bb)
というように曲を作れば、ポップスでだって使えると思います。かなり引っ張ってるなぁ、という感じです。
Bb Gm6 Bb/F - |Bb - - Bb7 |Eb/Bb Ebdim/Bb Bb - |
そしてアヴェ・マリア!と歌われます。
この戻ってきた余韻がなんとも言えません。さまよってさまよって疲弊した心の中の最後の安らぎを求める感じが出ていますね。煩悩丸出しの美しさ。
冒頭と違う所は、FのあとにGmに行かず、主和音Bbに向かう所です。迷いではなく、安らぎに向かってますね。
またA'に流れて、少し優しく、安らぎを感じながら歌われます。AとA'は展開はまったく同じですが、まったく違う感情が歌われています。
何でそんなことが可能なのでしょうか?
それは音楽の印象は、常に変化するからです。
だから同じ和音で、異なる心情を抽象表現できるわけです。
<エンディング>
Bb - - - |Bb6 ||
このエンディングの6thの和音は、クラシックではおなじみですが、ポップス的に考えたとき、この和音はm7thコードの展開でもあります。だから、明るくもなく、暗くもない和音の代表選手です。
最後の和音を軽すぎず、重すぎず、明るすぎず、暗すぎない和音で静謐に締めることの出来る響きだと思います。
最後に、小節の区分けですが、文章の段落として下記のようにすると、しっくり来ます。
<イントロ>
Bb - - Bb7|Eb/Bb Ebm7(b5)/Bb Bb - |
<A><A'>
Bb Gm6 Bb/F F7 |Gm -
Cm F7 |Bb -
Bbaug Gm/Bb |Em7(b5)/A A7
F#dim7 - |Gm Gm6
F/A G7/D |F/C C7 F - |
F7 - Bb/F - |F7 - Gm - |
F D Cm - |Cm/Eb Gdim7 F F7 |
Bb Gm6 Bb/F - |Bb - - Bb7 |
Eb/Bb Ebdim/Bb Bb - |
<エンディング>
Bb - - - |Bb6 ||
俗っぽい、と書きましたが、人の温かみは、慈しみ、と表現すればよいでしょうか。
それを音楽の響きからも、展開からも強くイメージさせるゆえに、世界中で称賛される奇跡の曲になっているのではないか、そんな風に感じました。
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読んで頂いて分かる通り、歴史の事や、当時の音楽理論など知らずに、今の自分の思うままを書きました。
こういうようなことを感じて自分は「この曲を良いと思っている」のは間違い、かもしれません。
でもこの出会いと衝撃は、もはや誰かに否定されても消せるものではありません。
バーバラ・ボニーさんの声が何よりすごい表現力。よりポップな感じもあり、自分のようなものにも分かりやすく染みとおってきます。
何故、知識がないのに、自分は歌えないのに、良く知らないのに
「いいなぁ」
って感じるのか、考えたことがありますか?これが分からないと「自分にとって良い」ものが選べませんよね。
きっと脳科学的な答えがあるのだと思います。
ただその仕組みを理解できないと思います。
そこで、自分の感覚に自分を委ねてみよう、って言うわけです。
これ勇気がいりますよね。
でも、そこからじゃないですかね。本当の人生って!!