音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

コードアナライズの意味と心象分析について〜不定調性論的思考の必要性

2018.4.2⇨2020.3.20更新

ここでは「コードアナライズの学習にはどのような問題が隠れており、どのように学習時に対処すべきか」について考えてみましょう。

不定調性論的なアナライズの解釈は下記にて。

 

お題はAll The Things You Areです。

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Bud Powell - All the things you are

アナライズ記号については下記をご参照ください。

www.terrax.site

しかしこれらの記号を不定調性論を考える時には滅多に用いません。

 

コードアナライズとは...

音楽理論の確認のために行う学校的な行為です。学んだ知識を楽曲内に探し、当て込み、構成して理解を深める行為であり、それができても曲を書くことはできませんし、その音楽の何たるかを理解できるわけではありません。

アナライズは構造把握です。車を外側からみて、エンジンは何。タイヤは何。シートは何製、ハンドルは何タイプ、ってわかることです。でもこれがわかってもF1レースであなたが運転席に乗れるわけではありません。

構造が分かってもあなたが運転手になれない理由は何ですか?

 

コードアナライズで何を行えるか、をきちんと把握しましょう。

・キーは何か

・和音の機能は何か、ディグリー(ローマ数字当て)は何か

・使われている理論的常套句は何か

・転調、変異コード、独自の技法の指定。

これらは教科書に書かれている知識ですから、あくまで教科書の読解ができているかどうかの確認なんです。

 

ここから、

・楽曲の歴史、作られた経緯、使用された楽曲史

・作曲家、作詞家、カバーしたミュージシャン、その演奏の変遷

・歌詞の分析、社会性の分析、

などを学校で行う場合もあるでしょう。

 

特に今チャートを登っている音楽を無理に既存の音楽理論で解説しようとすると、急に尖った部分を摩滅させてしまうことがあります。レコーディング時に「ただのIVのサブドミです」とか思って演奏したら何も創造できません。綺麗な女性を見て「彼女はただのヒト科の女です」だけでは恋もできません。

それならば不定調性論的な進行感分析で、

「ここのIVは思いっきり今の時代への不満をぶつけてください!!」

とか言った方がミュージシャンには伝わります。それが感情だし、人間が進化の先に得た特殊な技術です。

人の聴覚は大変優れているので、そういった口調に詰まった感情を読み取れる生き物です。そういう感情と意識の仕組みは、まだ現代科学では解明されておらず、その仕組みを理解するために人は感情や直感や感覚といった、解明されていない能力を用いるしかないんです。

勉強すると、そういうことが恥ずかしくなってしまうのは学校教育で破廉恥なことが教えられない、という社会的常識の中で生きてきただけで、本当は世の中はもっと破廉恥です。お金がなければ店に押し入っても物を奪う、という人がいるのが世の中です。そういうルール無視の人と共存しとんでもない 天才と肩を並べていかなければいけないのが世の中ですから、学校的な小さな価値観では実は創造的なことはほとんどできないわけです。

 

 

音楽教育ビジネスの中でのアナライズ

早速ですが、

All The Things You Areのメロディを弾いてみてください。この曲、明るいですか?暗いですか?

意見が分かれるかもしれません。私は程よく暗いと思います。

私の言い分と差異を感じる人もいるでしょう。

アナライズ記号は巧みに、全員が同じような指摘のできる内容に限って記号が作られています。明らかなII-VはII-Vである、というような内容のみをアナライズします。

なんと音楽に「正解」を作っちゃったんですね。これは笑うとこです。基礎教育ですから、仕方ありませんが、卒業の日に先生はいいます。

"これから君たちは自由だ"

怖い笑。在学中に自由になる方法を教えてください。

 

もちろんアナライズの利点があるからこそそれはレッスンで用いられます。利点と不利益をちゃんと把握しておくと良いと思います。

アナライズの知識があれば、同曲の構造を下記のようにすぐ把握できます。

<section1>

Fm7 |Bbm7 |Eb7 |AbM7 |DbM7 |

Dm7 G7 |CM7 | |

<section2>

Cm7 |Fm7 |Bb7 |EbM7 |AbM7 |

Am7 D7 |GM7 | |

<section3>

Am7 |D7 |GM7 | |

<section4>

F#m7(b5) |B7 |EM7 | |

<section5>

Fm7 |Bbm7 |Eb7 |AbM7 |DbM7 |

Gb7 |Cm7 |Bdim7 |

Bbm7 |Eb7 |AbM7 | |

5セクションあり、1,2セクションは転調した同じ形であり、3,4セクションはメジャーとマイナーのII-Vがきれいに展開しています。II-Vが半音関係にあったり、同じものが出てきたり、構造が一瞬で把握できます。

同曲は結果としてアドリブの良い練習曲になっています(中級者向け)。

セクション5の最後は、

Bbm7 |Eb7 |AbM7 | |

とすると、さらにII-V構造が分かりやすくなるかと思います。

Bdim7=F7(b9)のコンビネーション・オブ・ディミニッシュに含まれる和音だからですね。 

 

瞬時に構造把握できるのがアナライズシステムの画期的な点です。

 

こうした知識の利得は大規模音楽教育ビジネスと相性が良かったです。

集団レッスンで利益を上げ、教科書が売れます。同じ価値を社会に共有することで、ヒット曲を生み出しやすくなったという"副作用"もあったかもしれません。

独自性を育てる危険性より、ヒット曲が作れる実利性を。

 

<楽曲上のその他の特徴を把握する>

曲の中では目立つのが"ピカルディの三度"と解釈できる主調転調です。

m7に行くと思わせてM7にいくところです。

明るくすると、軽くなるので曲が抽象的になります。

ピカルディの三度は、さっきまで沈んでいた人がいきなり笑顔になる、みたいなサイコ感や、山の天気のように自然のダイナミックさが人智を越えた現象を私には感じさせます。

この曲はそれが激しいので、強い抽象性を感じます。 

他ではセクション1,2、の最後のII-V、最後のIIb7、パッシング・ディミニッシュなども特徴的なので指摘できますね。

 

<Dm7 G7?>

これも気が付けばそれでいいのですが、6小節目にa♭音が出てきて、コードはDm7です。Dm7におけるb5音とp5音が同居する響きになりますから、Dm7-G7ではなく、Dm7(b5) G7とするのが適切ではないのか、などと思ったりするのもアナライズ行為のポイントです。Dm7(b5) の方がCM7に向かった時のピカルディ終止がより印象的になるのではないか?とか、それとも作者はそういうのに飽きてわざとこうしたか、とか、印刷のミスかな?とか、自分で色々想像するんです。

最初はそういうことをメモしていきます。

"青本(『The Handbook of JAZZ STANDARDS 』)"などはDm7(b5)になっていますね。

これ実は、DbM7--Dm7(b5)は1音しか変わりません。DbM7--Dm7のほうがスリリングに変わります。ソロを取るときはメロディは関係ないですから、音楽的な印象でいうと、Dm7のほうがダイナミックで気持ちいいです。自分は。

だからテーマではDm7(b5)、ソロではDm7みたいに分けても良いと思います。

最初は自分のバンドで演奏するときにどうするか、みたいなことを一曲一曲決めていかないといけません。そして数をこなすと曲名を聞くだけで、メンバーを見るだけで「今日はBパターンで行こう」と瞬時に考えられるようになります。これはたとえアナライズ、という行為を行わなくても10000曲毎年感覚で弾いていれば勝手に身につきます。

それを300曲ぐらいでやろうと試みるのがアナライズかもしれません。それが合理的なのか、姑息なのか、どう感じるかは個人の性格によるでしょう。

 

 

<アナライズ学習のその後>

問題はその後です。

実際に一人一人弾いてみたら、きっとテンポが違うと思います。

弾き方も、もちろんアドリブも。

学校では「共通な知識を背景に自分の演奏を組み立てる」という暗黙のルールの中で個人の実力を伸ばす"学習競技"です。

100メートル走で、"バイク使った方が速くね?"という人は学校にはいない、という前提に洗脳されているわけです。

でも実際外の世界に出たら、そんなことは言っていられません。何十年も先輩のアブナイ天才と同じ土俵で競走しながら表現していかないといけません。



<H.P. >〜ハーモナイズポイント

この小節がいくつか出てきます。

V7やセカンダリードミナントII-Vを自由に入れられるところです。こういうポイントは不定調性論では「ハーモナイズポイント」という考え方で書きました。

ビバップを抜け出た人は、トリッキーな和音を置いても構いません。セクション1の終わりなら、

CM7 |( ) |Cm7 |

ですから、例えばの例えばですが

CM7 |C7(#9) |Cm7 |

として、微妙に構成音がかぶるコードで逸脱しやすい7thにしてCのコンディミを使う、みたいなアイディアをどんどん出してください。この位置にくる和音は、100%ドミナント的要素をもち、人は「ドミナント感」をここで聴きたがる(進行感分析)ので、その錯覚を活用してちょっとトリッキーなコードを置くこともできます。こういった選択肢もあなた自身の音楽性に左右されるので、勇気を持って自分の志向を把握しましょう。

 

そこはもう少し優しく弾いてくれ〜不定調性論の誕生

「そこはもう少し優しく弾いてくれ」と言われたとしましょう(例えばです)。

それは譜面には指示されていません。当然事前のアナライズではできませんね。

そこで拙論的発想が必要になってきます。心象(進行感)分析です。

直感や音楽的なクオリアを用いて、音楽を感性と脳と経験で聞きます。

この和音は赤い、このフレーズは風のようだ、この最後の和音は疑問符だ、とか、そういうことをあなたは経験で察知するようになります。

そういうことができると、「そこはもう少し優しく弾いてくれ」という意味が、その人の言い方から、ああ、この人はこう感じたんだな、と相手の音楽的なクオリアを察することもできます。そしてあなたはその意味を汲み取って、「きっとこういう感じにっていう意味での優しく、だな」とか意図して弾くことができます(相手の気持ちを考える)。

「優しさ」にも色々あるし、ただピアニッシモで弾けば良いというものでもありません。相手の述べたことをどう解釈するか、感覚的なもののスキルを磨いておく必要があります。相手の言い方やその時の表情、その前後の気分などもその発言に関わっていると感じられるようになってきます。

それによって、あなたの演奏が彼が思っている「優しく」以上の素晴らしい表現になるかもしれません。

これらの感覚は普段、いかにあなたが音楽的なクオリアを鍛えているか、またはたくさん音楽業に携わってきたか、にかかっています。 あとお互いの相性もあります。

いえ、相性が全てかもしれません。仕事現場は学校ではありません。

(私が完璧にできるとは言っていない、否出来なさすぎるからこの概念がうまれたのだろう)

www.terrax.site

 

All the things you areの原曲

最後にAll the things you areの原曲を聴いてみましょう。

Very Warm for May - All the Things You Are

元はミュージカルのために書かれた曲の後半の美しいコード進行の部分がスタンダード音楽になっていった作品です。スタンダードジャズのほとんどはこうした「かっこいい流れの曲の一節」を使ったものが多いです。もともとビバップはダンスホールなどでミュージシャンが営業演奏を終えた後、楽器陣だけで集まって流行りの曲の"バトルしやすいところ"をピックアップして演奏して繰り返して各自のソロ演奏スキルを競い合ったことからスタートしています。

ジャズスクールのなかった時代に、彼らは自分たちの「好き」を自分たちなりに夜が明けるまで追求していったんですね。 今 スクールに通っている人たちはそのくらいの意気込みがありますか?宿題や課題に追われて本来自分が何を探求すればいいのか 見失ってしまうのではないでしょうか。

 

そんなこんなで自分でも作ってみました。これ、不定調性論的思考ですから一般統一アナライズはできないはずです。

www.youtube.com

参考

www.terrax.site