音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

モーダルインターチェンジで考える「Flamenco Sketches」

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以下の解説は、ある程度モードを理解をされている人向けになります。

 

Miles Davis - Flamenco Sketches - YouTube

102,Flamenco Sketches

Kind of blueはso whatを「初級編」としてまるでモードジャズの教科書のように、展開していきます。

 

この曲の進行は、
CM7 |% |% |% |
Ab7sus4 |% |% |% |
BbM7 |% |% |% |
D7(b9,b13) |% |% |% |
D7(b9,b13) |% |% |% |
Gm7 |% |% |% |

と進行します(曲の頭にCM7が4barあります)。

(テイクによって違う可能性があるので、だいたいでご理解を)

 

不定調性進行といえますが、まずはコードだけを弾いてみてください。

 

最後のD7→Gm7という「Gmへの解決感がもたらす調の印象」が、曲の1コーラスを安定させています。うまくまとまった感があると思います。

 

ではこのコード進行のアナライズをしてみてください。なかなかこじつけないと一つのキーに収まらないでしょう。別にいいんです。

定調性進行ですから、それぞれの和音の連鎖にあなた自身が音楽的な印象や文脈のような進行感をつかめれば、それがあなたにとっての最初の曲の理解感です。

モードの勉強をしてみると、また違う美しさを感じます。

 

======

それでは各コードに使用モードを割り当ててみましょう。

いきなりジャズ理論ですが。

<表1>

CM7→Cアイオニアン
Ab7sus4→Abミクソリディアン
BbM7→Bbアイオニアン
D7(b9,b13)→DフリジアンM3
D7(b9,b13)→同上(8小節あるので途中でモードを変えても良い=モーダルインターチェンジ笑)
Gm7→Gドリアン

 

(注;アイオニアンは全てリディアンでも良い)

(注;DフリジアンM3=DハーモニックマイナーP5thビロウ=Dフリジアン#3)

 

としましょう。キーがないわけですから、本当はもっと自在にモードを割り当てることができますが。

モードの割り当ては自由です。レコードから聞き取って、ここはアイオニアンにすべきだ、というだけで別に従う必要があるわけではありません。従うのは協調、もしくは権威におもねってやろう、という気持ちからです。

 

で、これらをCから始まるスケールに置き直すことはできますか?

<表2>

CM7→Cアイオニアン


Ab7sus4→Abミクソリディアン→Cロクリアン


BbM7→Bbアイオニアン→Cドリアン


D7(b9,b13)→DフリジアンM3→Cドリアン#4


Gm7→Gドリアン→Cミクソリディアン

 

または全部アイオニアン系に置き換えてみましょう。

<表3>

CM7→Cアイオニアン


Ab7sus4→Abミクソリディアン→Dbアイオニアン

 

BbM7→Bbアイオニアン→Bbアイオニアン

 

D7(b9,b13)→DフリジアンM3→Bbアイオニアン#5


Gm7→Gドリアン→Fアイオニアン

 

またはエオリアン系だったら、

Aエオリアン → Bbエオリアン → Gエオリアン → GエオリアンM7(Gハーモニックマイナースケール) → Gドリアン
です。

 

これらのモードのポジショニングがすぐできる人は、動画と合わせて弾いてみてください。

 

たとえば、これが、
CM7 |Ab7sus4 |BbM7 |D7 |
というように、一小節毎で変化になると、モード音楽独特の「停滞感」はなくなってしまいます。

こうなるとただの難解なフュージョンですね。

モーダルなクールな感じを出すために1コードのスパンが長いんです。

 

また、
C△ |Ab△ |Bb△ |D△ |
このようにしてしまうと、ビートルズ的な連鎖になります。

 

====

 

この曲は、
C → Ab=長三度
Bb → D7=長三度
という変化が変化感を出しています。

 

<表2>でみていくと、

CM7→Cアイオニアン


Ab7sus4→Cロクリアン

この流れでちょっと暗めになり、ロクリアンなのでちょっとフラメンコっぽくもなります。


BbM7→Cドリアン


D7(b9,b13)→Cドリアン#4

この辺の流れはジリジリとマイナー系のモードが微細に変化していきます。

まさに"Kind of Blue"、ブルーの微細な変化ですね。


Gm7→Cミクソリディアン

そしてCミクソで陽転します。

 

<表3>をみますと、

CM7→Cアイオニアン

Ab7sus4→Dbアイオニアン

ここで半音上のアイオニアンを弾きます。グッと緊張感が高まる感じですね。

BbM7→Bbアイオニアン

ここで短三度下がりますから、がくんと激しい転調感を作ります。

D7(b9,b13)→Bbアイオニアン#5

でここは微細な変化ですが、#5音が強烈なフラメンコ感を出してきます。使いすぎるとジャズっぽさが薄れますが、民族音楽的なモーダルになる、とも言えます。


Gm7→Fアイオニアン

 

 

これらをC系で考えると、

CM7 |CM7 |CM7 |CM7 |

Cm7(b5) |Cm7(b5) |Cm7(b5) |Cm7(b5) |

Cm7 |Cm7 |Cm7 |Cm7 |

Cm7 |Cm7 |Cm7 |Cm7 |

C7 |C7 |C7 |C7 |

という進行の曲、とも言えます。

 

 

またアイオニアン系で考えますと、

Cアイオニアン → D♭アイオニアン → B♭アイオニアン → Bbアイオニアン#5 → Fアイオニアンとすると、


CM7 |DbM7 |BbM7 |BbM7 |FM7 |
という進行に還元もできますね。

(即興パート時の変化として。テーマメロディに合うかとはここでは考えません。)

 

エオリアンやリディアンなど好きなモードを中心に分析してみても良いでしょう。

でもフラメンコという言葉の意味をどの程度封入するか、という意味であなたがどう考えるかです。

結局モード云々よりもあなたの意思が大切かと思います。

 

<ここでさらにモーダルインターチェンジ!!!>

上記はあくまでコードに適切にモードを当てはめているだけです。

Cアイオニアン |% |Cリディアン |% |

Abミクソリディアン |% |Abミクソリディアンb6 |% |
Bbリディアン |% |Bbアイオニアン |% |
DフリジアンM3 |% |%|% |
Dコンビネーション オブ ディミニッシュ |% |% |% |
Gドリアン |% |Gエオリアン |% |

というように、同じコード内でモードを変えて、かつ音楽的に演奏する!!

ということで表現できるなら、あなたはモーダルインターチェンジができたことになります。

そうです、とてもそこまでやって音楽的に自分が意図した方向を作り出す、なんてとてつもなく難しい話なのだ、ということがわかります。

せっかくカレーを食べるのだから、おでんもいれてさ、お好み焼きも入れてさ、たこ焼きも入れて、グラタンも入れようぜ、みたいになってしまう感を感じるのです。何事もほどほどに。

だからといって一つぐらい入れたぐらいで、俺はモーダルインターチェンジを使った!というとさすがにコルトレーン神が、もっと精進するように天から諭されます。

英語版wikiも参考に。

Flamenco Sketches - Wikipedia

 

<マイルス達は何をやってる?>

実際の演奏はどうなっているのでしょう。

Miles Davis - Flamenco Sketches - YouTube

冒頭の0-19までのイントロは、ビル・エヴァンスのCM7のコードが印象的です。

CM7sus4のようなサウンドや、後半はG△/CM7のようなサウンドが浮遊感を持って響きます。チェンバースのベースはgとcを呟くように弾くだけです。

 

マイルスのテーマもGメジャートライアドを中心に弾きます。G△/Cが一つのサウンドコンセプトになっているようです。

D7ではM3rdは弾かれていません。フリジアンのb9thが強調されているように感じます。これだけで十分フラメンコ的なサウンドがする、というわけですね。それにm3rdが弾かれているのでDフリジアンM3ではなく、Dフリジアンそのものと言えます。

最後のGm7ではドリアンの6thや11thを強調し、マイナーモード的な色彩が出ないように意図されていると感じました。

 

そして次の2:02コルトレーンのソロも綺麗なアイオニアンから始まります。

Ab7sus4の解釈はマイルスと同じように6th、11thで色彩感が統一されています。

2:36ではf音をそのまま残してBbM7に流してます。この辺の色彩感がわかる人はモードもハーモニーも楽しめます。同じ構成音をひきずるわけです。

D7の3:14ごろのM3-P5th-m3rdラインがキュン死ですね。

マイルスがM3rdを使わずに落ち着いてジリジリと攻めたことで、コルトレーンの若々しいM3rdを含んだソロが生きてきますよね。

そして最後のGm7でコルトレーンがやってくれます!一番最後の3;39頃!b6thからp5thにいってます!!これGエオリアンだ!!マイルスがGドリアンだったから、ここでトレーンはGエオリアンにモーダルインターチェンジしてる!!、、、やっと使えた笑、

そして次は3:47アダレイ。いつも通りもう安定の「モードって何?旨いの?」笑。クロマチックなアプローチノートからバップリックを繰り出してきます。

モードとか、俺関係ねーから、っていうソロがどこか懐かしくて、それまでの静に対して動、という感じが出ています。5:06からのDフリジアンのところでもなんかすごい感じ、。ミストーンぽいM6thやクロマチックアプローチ的なM7をバンバン入れてきます。5:33にはフリジアンなのに9th!!!この人よく分かっている。アダレイ巨匠最高だ。

この人が3番目にソロを取るのはとても納得。この人が二番手だったら、あんまりモードだぁ!ってアルバム作ってる意味がないですもんね。起承転結の転です。さすがマイルス。3番バッターで塁を埋めました。アダレイが5:36でGm7でM3のb音をトライアドで綺麗に出してくるあたりもなかなかのスパイスです。強烈ですね。こういうのを真似したいところです。

D7→Gm7で君はb音とe音を使えるか。

です。かっこいい。特にフリジアンのモードの時に9thを使うと、b9thの緊張感から解き放たれて気持ちいい、っていうのを感じませんか?

フリジアンだからb9thばかりじゃギスギスするから、そのギスギスを一瞬9thを使ってリリースすることで、b9thが次に出てきた時にまた緊張感を増す、というやり方。

こんな感じで、モードの特性音を生かすには、わざとモード外の音を外すことに意義がある、と気がつかされます。そうなると必然的にモードの約束を守ればモーダルな音楽ができる、というルールに反して、ルールを破ることでもっと素晴らしいモードの効果が生まれる、ということになるのです。

モード音楽はこの瞬間進化(変容)していたわけですね。

きっとマイルスは、ぁあそうなっちまうのか、、と思ったはず。純粋なモードジャズはこの一枚で終わります。

 

そしてエバンスのソロはマイルスのコンセプトをしっかり掴んでます。

最後のマイルスもD7ではM3rdは使ってきません。赤くなるような感じを抑えています。

そして

Miles Davis - Flamenco Sketches (Alternate Take) - YouTube

マイルスはこっちのバージョン、2;06でDフリジアンで9thのラインを使ってきます。

ぐっと抜けてきますよね。またフリジアンの緊張感に戻りやすくなります。

 

また2:54ではコルトレーンがCM7でfを伸ばします。これはアイオニアンである、ということを示している、という点で、モードのルールに則っています。アヴォイドノートに響きがあることも教えてくれます。基本的に、この曲はb9thのギスギス感が特徴なので3rdと4thのぶつかりも色彩感が類似していて、そんなに気にならない、ということがわかると思います。この辺も理屈ではなく、不定調性的な感性で音楽に入り込んでもらうことでわかるようになってくるのではないか、と信じています。

Gmではやはりエオリアンを選択しています。きっとコルトレーンはここはエオリアンにしたんでしょうね。エオリアンだとD7b9に近いサウンドになるのでそちらを選択した、という感じでしょうか。

 

という感じで、ちょっと分析ちっくに聴いてみましたが、モードジャズの本質は、バップが「旋律で音楽を作った」のとは正反対の、「鳴らす音自体が音楽」ということを示した手法です。マイルスは「出さない音」が重要だ、と言っています。つまりバップのように「リック」を使うのは、無駄だ、と言わんばかりに。

だからこのページで述べたスケールをやたらめったら弾きまくることがマイルスのジャズではなかったわけです。

しかし同時にスケールを弾きまくる音楽があっても良いと思います。

あとは個人の好みです。先人の葛藤から自分が目指す音楽を見つけてください。

 

 音源です。

 スコアです。