2018.2.20⇨2020.2.25更新
ユーミンの不定調性コード進行研究
ユーミン歌詞・コード考7 / アルバム「COBALT HOUR」
アルバム目次はこちら。
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歌詞については掲載しておりませんので
https://www.uta-net.com/artist/2750/
こちら等にて確認ください。
何もきかないで
"あなたはあなたの 私は私の淋しさ"
"心の隙間を埋め和えれば それでいいのよ"
浮気の歌。
アイドルソングにはなかなかないジャンルの歌詞ですね笑。
この曲はクリシェと、半音進行が織り込まれています。
FM7 |% |Gm7 GmM7 |Gm7 |
Am7 Abm7 |Gm7 |Bb/C |% |
これがまたふんわり。
こういうの真似すると、作曲って凄く楽しくなると思います。
半音で下降する流れがもたらすクオリアをうまくぽろぽろとこぼれる思い出のように、想いのように使っているように感じます。
ルージュの伝言
そういえば、卒業写真にも「あなたはときどき 遠くでしかって」
という歌詞がありました。
しかってもらう、というのはユーミンワールドでは、ある種のリセット、喚起、という意味でつかわれているのかもしれません。
このユーミンレポートでは、このポイント解明しようと試みています。
航海日誌
「星に願いを」的なI-VI7が印象的です。同じように夜の星空のクオリアを感じる曲なので、そうした楽曲の持つイメージがリンクしているところが不思議です。
これはつまり、I-VI7という流れを「夜空」とリンクさせることのできる音楽語法だ、という構図が作曲家のどこかしら、心の片隅にはある、ということをさしているのかもしれません。
有名曲が作るニュアンスを曲のコードから想定できるようになる、ってなかなか興味深くないですか?
良く聴くとこの「後悔」の音程とアクセントの表現は、たしかに「後悔」のほうなんですよね。
これがまた行きあたりばったりでないところがいいなぁ。
こういうのもテクニックというのかな。
CHINES SOUP
「煮込んでしまえば 形もなくなる もうすぐ出来上がり」
微妙にけだるい感じがなんともいえません。
この曲のサビの最後に、上記歌詞の部分で、
C#7(9) |C7(9) |B7(9) |→E
という部分があります。
これは、Eというトニックに向かう、セカンダリードミナントによる進行、と言えなくもありませんが、この歌詞で、この進行って、なんか変な感じしませんか?
だって愛する人のために料理を作る割には、変に退廃的な落ちていく進行だと思いませんか?
けだるい、というか、あ~あ、的な印象を与えます。
きっとそういう(怪しい)意図を持った詞なのだと思います。怖い話、の曲とされています。
少しだけ片想い
Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:09~)
G |Am7/G | Em7 A7 |D |
Cm7 |B♭M7 |Am7 |D7sus4 D7 |
=degree=
(key=G)
I |IIm7/I | VIm7 II7 |V |
IVm7 |III♭M7 |IIm7 |V7sus4 V7 |
ここではIVmを用いてCメジャーキーとCマイナーキーを行き来しています。
Cm7を挿入することによって同じキーのB♭M7ヘの移行が可能となり、そこからII-Vへの戻りを用いて元のキーに戻れます。
一曲の中で活用する和音を、同主調に拡張すると、
IM7、Im7
IIm7(♭5)、IIm7
III♭M7
IIIm
IVM7、IVm7
V7、Vm7
VI♭M7
VIm7
VII♭7
VIIm7(♭5)
というグループに拡張でき、さらに短調のV7にあたるIII7、ドッペルドミナントII7、ユーミンが用いるVIIm7やVII7的利用、各種分数コードもここに加わるので、これだけでかなりコード利用の幅を広げられます。
あとは繋げて練習するだけ!
IM7 |VIbM7 |IVM7 |IIm7(b5) |
とか、やり放題だよ!自分のクオリアが反応するところを使ってみて!
またコード進行の最初の二つの連鎖には、誰しも苦労するものです。
この曲のI-IIm7/Iの停滞感、並行感も活用できると思います!
雨のステイション
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Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:29~)
DM7 |C#m7 |Em7/A |DM7 |
DM7 |C#m7 |Em7/A |DM7 |
Bメロ
Bm7 |C#m7 |C#7 |F#m7 F#m7/E |
DM7 |C#m7 |Bm7 |E7 |
=degree=
Aメロ(Key=A)
IVM7 |IIIm7 |Vm7/I |IVM7 |
IVM7 |IIIm7 |Vm7/I |IVM7 |
Bメロ
IIm7 |IIIm7 |III7 |VIm7 VIm7/V |
IVM7 |IIIm7 |IIm7 |V7 |
Aメジャー。DM7をIVと捉えると、Em7はVm7。この空気感は「ひこうき雲」のVm7と同じ。またEm7/A→DM7はDメジャーキーのIIm7/Vと感じ取ることもでき、DM7がIM7のようにも響きます。グラデーション。
DM7→DM7と二行目に流れる雰囲気は、IM7→IVM7へという同じコードであるにも関わらず色合いが変化しているようにも感じられる不思議な雰囲気をこのEm7/Aは作っています。なんだ天才か。
この二つのDM7は同じコードなのに違う機能な感じ。
アフリカへ行きたい
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Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:14~)
Gm7 |Am7 |B♭M7 |E♭/F |
Gm7 |Am7 |B♭M7 |Fm7 |
Bメロ
E♭M7 Dm7 |E♭M7 |E♭M7 Dm7 |E♭M7 |
=degree=
Aメロ(key=F)
IIm7 |IIIm7 |IVM7 |VII♭/I |
IIm7 |IIIm7 |IVM7 |Im7 |
Bメロ(key=Gm)
VI♭M7 Vm7 |VI♭M7 |VI♭M7 Vm7 |VI♭M7 |
これは様々なキー解釈が可能。
たとえば、E♭/FをIV/Vと解釈すれば、B♭メジャーキー。
ポピュラーミュージックのコード進行の慣例では、全音で連鎖するm7コードはIIm7-IIIm7という発想となるので、必然的にkey=Fと想定できます。
その感覚を巧みに活用し、その中間色が表現されています。
またFm7はkey=FではIm7ですが、聴感上はkey=B♭のVm7にも感じ、「ひこうき雲」のVm7の感覚で展開されている印象もあります。
また、E♭M7→Dm7はIVM7→IIIm7の慣習的流れ感を持っています。
これらの調的進行の断片の連鎖では、同アルバムの冒頭曲「COBALT HOUR」の手法がさらに発展させられている、といえます。
このテクニックを用いるには、まず、
"どんな和声の上でも、歌いやすいメロディを乗せることが出来る"
というスキルが必要とされます。
普段から、全く意味不明な和音の連鎖でも何かメロディを添えたり、聴いた感じに何らかの印象を与えるなどの習慣をしていくと良いでしょう。
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