2018.2.17⇨2020.3.22更新
ユーミンの不定調性コード進行研究
ユーミン歌詞・コード考1 アルバム「ひこうき雲」1
1973.11発売の「ひこうき雲」より。前半
前の記事
145.曇り空
open.spotify.com
Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:08~)
Gm7 |Gm7 |Cm7/F |Cm7/F |
Cm7 |Gm7 |Cm7 |Dm7 |
=degree=
(key=Gm)
Im7 |Im7 |IVm7/VII♭ |IVm7/VII♭ |
IVm7 |Im7 |IVm7 |Vm7 |
この曲は短調とユーミンのくぐもった声で表現される「曇り空」感が印象的です。
V7和音が用いられないことで強烈な短調の空気を持たず、清楚な美しさを感じます。
まさにユーミンのパステルカラー。
またCm7/F→Cm7という微妙な色彩変化の停滞さが「どんよりとした雰囲気」を表現していると思いませんか?
146.恋のスーパーパラシューター
Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:14~)
C |C |Gm7 |F |
Am7 |Gm7 |F |G7sus4 |
=degree=
(key=C)
I |I |Vm7 |IV |
VIm7 |Vm7 |IV |V7sus4 |
サビ(アルバム収録楽曲タイム0:39~)
B♭ |F |E♭ |F |
A♭ |E♭ |D7 |Dm7/G~
=degree=
(key=F)IV |I |VII♭ |I |
(key=E♭)IV |I |VII7 |(key=C)IIm7/V~
一聴すると、ロックンロール調ですが激しい転調が起きています。
C7というブルースコードを基調にしたCミクソリディアンの下記モーダルハーモニー的です。
Cミクソリディアンモードのダイアトニックハーモニー
C7-Dm7-Em7(♭5)-FM7-Gm7-Am7-B♭M7
Aメロは聴感上Cが中心ですが、コードにはGm7が特徴的に響きます。
本来CのキーならGm7ではなくG7となるはずです。Fメジャーのキー的でありながら、Cミクソリディアンに重心を置いた楽曲に仕上がっています。
通常のCメジャーキーのダイアトニックコード、
CM7-Dm7-Em7-FM7-G7-Am7-Bm7(♭5)
の中のb音を全てb♭にすることになり、
C7-Dm7-Em7(♭5)-FM7-Gm7-Am7-B♭M7
となります。Fメジャーキーのダイアトニックコードです。
Fメジャーキーのなかのcを中心にした音階がベースになった曲調、と解釈することができます。
もちろんユーミンがミクソリディアンモードを意識していた、という指摘ではありません。結果的にそう分析可能というだけです。
「今回はミクソリディアンをベースに曲を考えよう!」
などと考えて曲を作るのは慣れないと難しいです。奔放に作るからこそ、結果的にこうしたモーダルな曲ができる、ということがほとんどです。
例;
CM7 |Bm7 E7 |Am7 |
という進行は、Cメジャーキー/Aマイナーキーに聴こえるかもしれませんが、Gメジャーキーの中でVII7が用いられIIIm7に帰着した進行ということもできるし、Cリディアンのダイアトニックコードを用いた進行ということもできます。
これも別にモードを意識したのではなく、CM7-Bm7がもつ進行感に既視感がある為、その連鎖感を挿入しただけです。これが結果としてどう分析されるかは、分析者の裁量です。つまり「それってあなたの感想」なんです。
またここではメジャーコード系の短三度上行のテクニックが用いられています。
これらは「ひこうき雲」の技法から自身が発展させたものとも見えます。
C |F G |B♭ |G |
=degree=
I |IV V |VII♭ |V |
と、短三度の移行を挟むと転調感より「高揚感」や「もっと云うとね」的な楽曲のメッセージも持たせられます。
この手法はサビへと向かう瞬間や、Bメロでガラリと雰囲気を一新したい時などには有効です。
E.Clapton「Tears in Heaven」
サビからCメロ
F#m7 |C# |Em7 |F#7 |Bm7 |Bm7/E |A |A |
C Bm7 |Am7 D |G |~
このA→Cにダイナミックな短三度転調が使われています。
楽曲を聴くと「時間の経過がお前を打ちのめすだろう」というような歌詞。
この変化が「時間が流れ去っていくと~」というような雰囲気を確かに後押ししてます。
<メジャーコードの短三度の移動>
147.きっと言える
Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:08~)
B♭7 |E♭M7 |A♭m7 |G♭M7 |
D♭7 |G♭M7 |Bm7 |AM7 |
サビ
Bm7 |AM7 |Bm7 |AM7 |
Bm7 |AM7 |Bm7 |E7 |
A'メロ
E7 |AM7 |Dm7 |CM7 |
G7 |CM7 |Fm7 |E♭M7 |
サビ'
Fm7 |E♭M7 |Fm7 |E♭M7 |
Fm7 |E♭M7 |Fm7 |B♭7 |
=degree=
(Key=E♭)V7 |IM7 |IVm7 |III♭M7 |
(Key=G♭)V7 |IM7 |IVm7 |III♭M7 |
サビ
(Key=A)IIm7 |IM7 |IIm7 |IM7 |
IIm7 |IM7 |IIm7 |V7 |
A'メロ
(Key=A)V7 |IM7 |IVm7 |III♭M7 |
(Key=C)V7 |IM7 |IVm7 |III♭M7 |
サビ'
(Key=E♭)IIm7 |IM7 |IIm7 |IM7 |
IIm7 |IM7 |IIm7 |V7 |
シークエンスを連鎖楽曲。
スティービー・ワンダーの「Summer Soft」も転調を繰り返し、サビがどんどん上がっていくという作曲技法でした。しかしこれは76年であり、ユーミンの方が先です。
(67年に「someday at christmas」という上昇転調作品もあります)。
この曲では、コード進行が自動的に調を移行させるために、サビで転調が起き、かつそれを元に戻さず、そのまま活用している作品です。
結果的に歌詞が「あなたが好き きっといえる どんな場所で 出会ったとしても」というメッセージが高音でのフレーズになり「切々と歌う」感が増しています。
1コーラス目と2コーラス目でキーが違うなど、画期的ですね。
この手法も「和声の連鎖は必ず何らかの感情的な表現の印象を持ち得る=自由解釈=一時的な納得情報するようにしてこの行為を積み重ね深化させてください。」という理解のもとトレーニングしていくことで把握できるようになります。
次の記事