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音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

ユーミンコード進行記事の再掲~ユーミン歌詞・コード考1

ユーミンの不定調性コード進行研究

ユーミン歌詞・コード考1 アルバム「ひこうき雲」1

 

以前まとめたブログ記事を現在の不定調性考を用いて簡略化してリライトいきます。レポートの語調が"である調"なので一部引用部分の表現はご容赦くださいませ。

 

各種レポートはM-Bankにお問い合わせいただければPDF似て無償で配布しております。宜しくお願い致します(日本音楽理論研究会にて発表も行いました)。

 

まず1973.11発売の「ひこうき雲」より。前半

1.ひこうき雲
このブログでも以前この曲はチェックしていました。

www.terrax.site

 

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M-Banにて制作した「ユーミン楽曲レポート」(主にコード進行についての考察)空の抜粋です。

 

事例1;ひこうき雲
サビ(アルバム収録楽曲タイム0:56~)
E♭ Gm7 |Cm7 |Gm7 B♭m7 |A♭M7 |
Gm7 |A♭M7 |B♭7sus4 B♭7 |B♭7sus4 B♭7 |
=degree=
(key=E♭)
I IIIm7 |VIm7 |IIIm7 Vm7 |IVM7 |
IIIm7 |IVM7 |V7sus4 V7 |V7sus4 V7 |

同曲の三小節目|Gm7 B♭m7 |A♭M7 |のB♭m7の使用は有名であろう。

 

通例は、この曲のキーE♭のVに該当するB♭7(V7)が来てメロディを構成する。
|Gm7 B♭7 |A♭M7 |
また、ジャズでは、A♭M7に結びつけるコードとして下記のように用いる。
|E♭M7 B♭m7 E♭7|A♭M7|
B♭m7での跳躍するような変化感がドラマチックである。ゆえにダイナミックにIVへの展開を作りたいとき、この進行感を活用しなさい、と私は学んだ(II-Vの挿入技法として)が、この曲のB♭m7は、その考え方そのものを結果的に発展させた利用法となっている。

 

これはコード進行形態という概念そのものが変化しているのであり、同時にビートルズが行ったように、それまでジャズが構築してきたコードの細分化、コード進行のセオリーを根本から変えてしまっている、と言える。


|Gm7 B♭m7 |A♭M7 |
(そら)|を-かけてゆく| |
「空をかけてゆく」の跳躍感が、実際に「跳躍する意思」として添えられ、歌詞の語感と一緒になり、それまでただのの一時転調コードであったVm7がたしかに「跳躍」という意味を持っているのである。

これはそのコードが「ストーリー的な意味を持って配置されている」わけである。通常であれば、和声感が持つ既存の使用感に囚われ、B♭m7-E♭7としてしまいそうであるが、ここではE♭7は用いられていない。つまり従来のII-Vという概念を越えてしまっているのだ。


用例1
CM7 |CM7 |FM7 |FM7 |→CM7 |CM7 Gm7 |FM7 |FM7 |

 

このときGm7を置くことが本当に意味があるかどうか、と考える時、作者がこのGm7にどんな印象を感じられるかがポイントだと思う。調的に自然、不自然ではなく、自分がどう感じるかに対して鋭敏な判断力を持つことで既存の進行形態や慣習的進行に囚われない状態を制作時の脳のどこかにセットしておくことができるのではないだろうか。

 

用例2
Cm7 |Cm7 |Fm7 |Fm7 |→Cm7 |Cm7 E♭m7 |Fm7 |Fm7 A♭m7 |
同曲ではGm7-B♭m7という短三度のm7への変化の変化感も「跳躍」感を出しているという認識に立ってみる。
Cm7  →  E♭m7
二音同音、二音反行というバランスの取れたヴォイシングになるため、ジャズハーモニーではダイナミックな移動とされる。

これらの「進行感」の連鎖については、日本リズム協会(Japan Institute of Rhythm)第32回大会(2014年11月24日)『不定調性論の和声理解に基づく、音楽空間のリズム的変化とそのストーリー』にても述べている。従来の和声の進行感に囚われず「その曲が今持っている方向性と必要とされる音」を感じ取れる訓練が、そうした「理論に囚われない進行感を作り出す」という解説を施してきた。

 

本レポートでも度々出てくるが、ある和音Xはあらゆる和音X'に変化することができる、そしてあらゆる印象を与え、それをキャッチする感覚を重視する拙論「不定調性論」を活用していくことで、自由な和声進行の創造に努めていきたい。

 

余談であるが、この曲の最後はフェードアウトで終わる。
|A♭M7 |B♭m7  |
=degree=
|IVM7 |Vm7  |
これは先ほど注目すべきコードとしたVm7である。サブドミナント→ドミナントマイナーというトニックに戻らない和声進行の浮遊感が「ひこうき雲に乗ってどこまでも」という印象を与えるとともに、「空をかけていくシーン」がずっと連続しているようでもあり、この二つの和声の中にいくつもの歌詞になっていないメッセージを感じ、「シンガーソングライターという文化」の進化を感じる。


コードはそれがつながった瞬間、例えどんな和音であっても人の心に意味を確立できる、それが発信者の意図に叶って聴き手に届くこともあれば、それ以上に感じ取ってくれることもあれば、まったく違う解釈を施される場合もある。

 

近代音楽以降難解な音楽への理解の手法が曖昧になってしまった部分を、ポピュラーミュージックの作曲者が自分の意思を貫き取り組んだ作品が多義的な風景を相手に与えることを臆せずに発信することで、新しい音楽=ニューミュージックは、大きな表現方法とその立ち位置を得たのではないだろうか。

 

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2.曇り空
Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:08~)
Gm7 |Gm7 |Cm7/F |Cm7/F |
Cm7 |Gm7 |Cm7 |Dm7 |

=degree=
(key=Gm)
Im7 |Im7 |IVm7/VII♭ |IVm7/VII♭ |
IVm7 |Im7 |IVm7 |Vm7 |


この曲はgmoll(G minor)のキーとユーミンのくぐもった声で表現される「曇り空」的印象が象徴的である。

V7すなわちD7が用いられないことで強烈な短調の空気を持たない、清楚な美しさを感じる。どうしてもV7を用いたい誘惑に駆られる時もあるが、こうした「曖昧な気分を表現したいとき」「どんよりとした事象を表現するとき」「さりげなさ、弱々しさ」といった雰囲気を出したいときに、V7を用いない短調の雰囲気で作曲してみるのはどうだろうか。


またこの曲では、Cm7/F→Cm7という微細な変化を用いている。これは「微妙な色彩の変化」であり、本来「コード進行が停滞している」と云える部分であるが、停滞であれ、微妙な変化であれ、「その変化に何らかの感情や意味が創出される」という発想では、その活用の可能性が広がるはずである。この曲での「どんよりとした雰囲気」を表現するのにこうした変化感の乏しい進行は逆に効果的でなのではないだろうか?

 

3.恋のスーパーパラシューター
Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:14~)
C |C |Gm7 |F |
Am7 |Gm7 |F |G7sus4 |
=degree=
(key=C)
I |I |Vm7 |IV |
VIm7 |Vm7 |IV |V7sus4 |

サビ(アルバム収録楽曲タイム0:39~)
B♭ |F |E♭ |F |
A♭ |E♭ |D7 |Dm7/G~
=degree=
(key=F)IV |I |VII♭ |I |
(key=E♭)IV |I |VII7 |(key=C)IIm7/V~


一聴すると、ロックンロールのような曲調だが、内部では激しい転調が発生している。C7というブルースコードを基調にしたCミクソリディアンの下記モーダルハーモニーで楽曲のAメロが構成されていると解釈もできる。

 

Cミクソリディアンモードのダイアトニックハーモニー
C7-Dm7-Em7(♭5)-FM7-Gm7-Am7-B♭M7
ミクソリディアン(mixo-lydyan)とは教会旋法から派生してジャズ理論にまで用いられた音階概念(モード)で、通常のドレミファソラシドをこのモード名で述べるとアイオニアン(Ionian=またはイオニアン)となる。ミクソリディアンはこのうち「ソ」の音から始めたモードであり、ソラシドレミファソという音階に付いたモード名である。
ジャズ、フュージョン、ポピュラーミュージックでは、時折、このように中心が「ド」でない音楽がある。この曲の例では、Aメロは聴感上Cが中心になる。しかしコードを見ると、Gm7が特徴的に響いている。「ひこうき雲」でも使われたVm7だ。これはg,b♭,d,fという音構成である。本来Cのキーであれば、このコードはGm7ではなくG7となるはずである。メロディのほうはb音が出てくるわけでも、b♭が出てくるわけではなく、Gm7の部分では、c音が響いているのでGsus4を鳴らせば弾けてしまうが、サビで出てくるB♭などに印象を呼応させるために、またVm7のほうがしっくりくる作風だった為に使用されたのかもしれない。

(中略)

例;
CM7 |Bm7 E7 |Am7 |
という進行は、Cメジャーキー/Aマイナーキーに聴こえるかもしれないが、Gメジャーキーの中でVII7が用いられIIIm7に帰着した進行ということもできるし、Cリディアンのダイアトニックコードを用いた進行ということもできる。


これらも別にモードを意識したのではなく、CM7-Bm7がもつ進行感に既視感がある為、その連鎖感を挿入しただけ、と捉えてみてほしい。

(中略)

同曲の解説に戻ると、サビではB♭に展開し、これがFのキーのIVになっている。これは意図的な転調というよりも、G7sus4からルート(根音)が短三度上行した展開感を用いて、その進行感を活用して展開を作られている、と考えてみてほしい。

また、m7の短三度上行による展開テクニックは先に紹介したが、ここではメジャーコード系の短三度上行のテクニックが用いられている。

用例1
C |F G |B♭ |G |
=degree=
I |IV V |VII♭ |V |


というように、短三度の移行を挟むことによって、その進行感は転調感のようなものも伴うが、曲のメロディや歌詞によって「高揚感」や「もっと云うとね」と云う前置きから続くような「進行感」を用いることで、「転調する」のではなく、楽曲のメッセージに沿った展開を生み出すことができるのが、器楽曲とは違う、歌うためのメロディを持つポピュラーミュージックの可能性となっているのではないだろうか。
この手法はサビへと向かう瞬間や、Bメロでガラリと雰囲気を一新したい時などには有効である。

 

用例2 E.Clapton「Tears in Heaven」  
サビからCメロ
F#m7 |C# |Em7 |F#7 |Bm7 |Bm7/E |A |A |
C Bm7 |Am7 D |G |~
このA→Cにダイナミックな短三度転調が起きている。楽曲を聴くと「時間の経過がお前を打ちのめすだろう」というような歌詞になっており、この変化が「時間が流れ去っていくと~」というような雰囲気を確かに後押ししており、その変化に音楽的にも自然と共感できる構造が印象的である。歌詞が和声の進行感を説明し、聴き手に新しい印象感を与えていく。これがジャズや近現代音楽とは違う「新しい響きを一般大衆が獲得する」という事象をなし得たのではないだろうか。

 

5.きっと言える
Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:08~)
B♭7 |E♭M7 |A♭m7 |G♭M7 |
D♭7 |G♭M7 |Bm7 |AM7 |
サビ
Bm7 |AM7 |Bm7 |AM7 |
Bm7 |AM7 |Bm7 |E7 |
A'メロ
E7 |AM7 |Dm7 |CM7 |
G7 |CM7 |Fm7 |E♭M7 |
サビ'
Fm7 |E♭M7 |Fm7 |E♭M7 |
Fm7 |E♭M7 |Fm7 |B♭7 |
=degree=
(Key=E♭)V7 |IM7 |IVm7 |III♭M7 |
(Key=G♭)V7 |IM7 |IVm7 |III♭M7 |
サビ
(Key=A)IIm7 |IM7 |IIm7 |IM7 |
IIm7 |IM7 |IIm7 |V7 |
A'メロ
(Key=A)V7 |IM7 |IVm7 |III♭M7 |
(Key=C)V7 |IM7 |IVm7 |III♭M7 |
サビ'
(Key=E♭)IIm7 |IM7 |IIm7 |IM7 |
IIm7 |IM7 |IIm7 |V7 |


同型進行のシークエンスを連鎖を拡大させ、発生する転調にメロディとストーリー感を乗せた作品。これはスティービー・ワンダーなどの有名曲「Summer Soft」という曲で転調を繰り返しながら、サビがどんどん上がっていくという作曲技法を用いられている。しかしこれは76年であり、ユーミンの方が先となる。

 

さらに前でいえば67年に「someday at christmas」という作品もあるが、この「きっと言える」ほど複雑ではない(詳しくはスティービー・レポートまで)。

この曲では、コード進行が自動的に調を移行させるために、サビで転調が起き、かつそれを元に戻さず、そのまま活用している作品である。結果的に歌詞が「あなたが好き きっといえる どんな場所で 出会ったとしても」というメッセージが高音でのフレーズになり「切々と歌う」感が増し、歌詞のメッセージとリンクしているのも聴き手を引きつけて止まない。

 

用例;
CM7 |D7 |を一つのパターンとすると、
CM7 |D7 |E♭M7 |F7 |
G♭M7 |A♭7 |AM7 |B7 |
というシークエンスを作り、それが作り出す雰囲気を感じ取り、それに沿った歌詞を作っていくと言うこともできるだろう。

 

事例5;ベルベット・イースター
Aメロ(アルバム収録楽曲タイム0:09~)
Cm |G7 |Gm |F |
A♭ |E♭ |D7 |G7 |
=degree=
(key=Cm)
Im |V7 |Vm |IV |
VI♭ |III♭ |II7 |V7 |


ここでは短調のV7に向かったあとで、Vm7に戻り、そのまま長調のIVに流れるという光と影が行き来する雲間の大地のような動きをする。これも楽曲のどんよりとした空を言い表しているようで興味深い。

これもV7は必ずIやIVに進む、と云う考えを発展させて用いるものであると同時に、ジャズ理論的には「メジャーコードはマイナーコードに変化して色合いを付ける(逆も可)」という抽象的進行に歌詞の意味合いがしっかりのっていることで、斬新な進行感と色彩感が聴き手に不思議な色合いを感じさせるだろう。これを元に用例を作ると、
C |Cm |F |Fm |
G |Gm |A♭ |A♭m |
というような流れの中でメロディを入れられるか、トレーニングしてみると良いだろう。

 ひこうき雲

 

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