2018.1.8→2019.1.3更新
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ビートルズの不定調性コード進行研究
ほぼ全曲ビートルズのコード進行不定調性考察「Please Please Me」1(2017)
I Saw Her Standing There
1日でレコーディングされたこのアルバムは「ビートルズのある1日のライブアルバムだ」とも言われます。それを象徴するかのごとくのポールのこの曲冒頭「1,2,3,4」の景気の良い掛け声で始まります(この掛け声は"後乗せ"だそうですが)。勢いを与えよう、と言う制作意図を感じますし、このカウントで一挙にビートルズ音世界に入り込めるようになってます。
Aメロ
E7 |% |A7 |E7 |% |% |B7 |% |
E7は「ブルースのトニック」だ、とジャズ理論では表現されます。
ジャズ理論では"ブルージートニック"なんて機能名っぽく呼んだり。
この最初のE7サウンドを聞いて
ロックブルース感がある...
と、もしあなたが感じたのでならば、その印象はビートルズが感じたこの和音に対する印象に近いと言えると思います。
もしこの和音がセブンスコードだからこれはドミナントコードだ、と聞こえるのであれば、あなたの耳は伝統和声論に属しています。
和音の聞こえ方一つで、分析の手法も曲の解釈も印象も変わります。
もし楽曲分析をやっているクラシックの人がいたらこのE7を「ブルース」を使わずにどのように分析するか聞いてみてください。その分析からはこのビートルズの勢いが失われていないでしょうか? ロックのこのエネルギーをその音楽分析は表現できるでしょうか?(もちろん分析方法は人それぞれあっていい)。
その分析結果を使ってその知識を活かして実際に演奏できるか、作品ができるかどうかがとても大切です。
完全に自慢話ですが、不定調性論的思考で分析?すればロックを感じることができます。器用な人は知識がなくてもその分析を演奏に活用できるでしょう。
7thコードの連鎖は不定調性進行とも言えます。
しかし。だからといって、ここでセブンスコードを彼らが用いた理由は、「楽曲をブルース的にしたかった」からではないと思うのです。
彼らはそんなレベルで音楽はやっていませんね。
彼らほどの能力なら、たとえ酔っ払いながらでも、コードをじゃかじゃか弾きながら、あれ?"この響きかっこ良くね?"、"これチャック・ベリーじゃんよ!"と彼らなら思えたはずです。
もしすごい音楽分析の方法があって、彼らが用いた手法を特定して、それを我々が用いて真似できるのであれば、誰でもビートルズのようなアーティストになれなければならない、ということです。
そうでなければ表記だけで音楽を判断するのは、あなたと言う人物を住民票のデータだけ見て判断しようとしているだけです。
音楽分析で大切なのも、その手法が自分にとって
・どういう表現をしたい時に使える手法なのか
が明確に明示されていることです。
この「自分にしか通じないやり方で分析をし、それを自分の音楽制作に活かす」というスタンスが「不定調性論的思考による作曲法」と呼んでいるやり方です。
ブルース/ロックンロールに詳しい人は、E7からA7に流れると、「ブルースのあの感じ」(I7→IV7)を思い浮かべることでしょう。
ここでブルースが思い浮かばない人はひょっとするとモーリス・ラベルのような音楽とかドビュッシーの音楽のように分析を始めるかもしれません。
それでもいいと思います。結局それがその人の音楽を作ります。
この「ああ、ロックっぽい」とか「ちょっとブルースっぽい」とか「ドビュッシーみたいだなぁ」と感じることを不定調性論では「音楽的なクオリア」と言います。
個人がそれぞれの心象を持っていいんです。
その感覚が稚拙でも、頭でっかちでも、自分にしっくりくる感じを掴んでください。
このE7を聴いた時、ガツン!!!と額を殴られたような気がしたら、それがあなたの音楽分析です。それ以上の何ものでもありません。
「どうやったら聴き手の額をぶん殴るような音楽を作れるか?」を考えたとき、この曲の感じを追い求めればいい訳です。その場合楽譜に書けること以外の要素、何よりサウンドですよね。
むしろこのE7を聴いてガツん!とこないなら、ロックやらない方がいいです笑
この曲のサビでそれを考えてみましょう。
E |E7 |A7 |C |
E7 | B7 | E7 |E7 |
私はE→E7がとても効果的だ、と感じました。ここはEだけでもいいですしE7だけでもよかったはずです。
ベースラインが、ここで下がっていくことで、ドライブ感が出ますし、結果的にA7に流れる進行感を高める役割も果たしています。特に機能和声を勉強してる人にはうってつけです。ビートルズがロック好き以外の人も取り込むきっかけになってるのが、この音楽内容の繊細さです。ポールは凝り性ですし。
彼らがどうやったかよりも、それがあなたにとってそのサウンドがどういうものであるのかを汲み取れれば、先人の手法は自分の中に新しい言語として入ってきます。
A7からCに行くこの流れもスリリングです。この流れがこの曲にあるから、私はこの曲は成立していると考えるほど重要なコード進行だと思っています。
"高揚感が欲しければ短3度あげればいいんだ"と毎回思うほどです。
こうした「核を感じる」感覚が似ている人と音楽をやると意気投合しますし、全く違う人とやると異次元の音楽ができます。
彼らは難しいコードは使っていません。彼らが知っているコードを並べただけです。
この曲のサビは、
Eメジャーキー
E-F#m-G#m-A-B-C#m-D#dim
と
Eマイナーキー
Em-F#dim-G-Am-Bm-C-D
の中からメジャートライアドをピックアップして
E,G,A,B,C,D
これらを自由につなげてコード進行を作る、という発想なら、伝統技法に即して、彼らのコード進行のテイストをうまく作ることもできるでしょう。
例;
E |C |D |A |C |D |B |B :|
はいかがでしょうか。ビートルズ的ですね。
まず、自分の感覚、自分の感じたことを、自分に真っ先に認めてください。
自分の感じるままを方法論に昇華して自分の作品を作るのは結構快感です。同意される方には不定調性論的作曲方法をオススメします。
そしてどんな"感じ"であったとしても、感じたことこそがあなたの「音楽分析」です。その気持ちがどんな恥ずかしいことでも、その感覚を演奏する時、作曲する時、創出するにはどうすれば良いか作業を進めていけば、作業の過程で必ず「音楽的なクオリア」に相当する感覚を得ることができます。求めることがわかっているからです。