2017.12.24⇨2020.6.21更新
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ビートルズの不定調性コード進行研究
ほぼ全曲ビートルズのコード進行不定調性考察「The Beatles」1(2017)
バック・イン・ザ U.S.S.R. - Back in the U.S.S.R.
こうするのは理論的には常識、こうしないのは理論的に常識、いろいろ底の浅い定説はあるものです。それは悪くはないのですが、酒の席以外では通じません。
ビートルズもきっと毎曲毎曲、ジョージ・マーティンにデモを送るたび、それはつまらない、前にやった、と言われ続けたことでしょう。
それが故にアルバムごとに繰り出される新ネタ、マイブームに舌を巻きます。独立後にこの勢いがなくなったのは、やはりビートルズという組織の強さだったと思います。
この曲も「知ってるコードを感覚で並べて作るコード進行」で考えることができます。
Aメロ
A |D |C |D |
A |D |C |D |
サビ
A |C |D |D ||
A |B7 E7 |~
Aメジャーキーの中にCとB7が入ってきます。
メジャーコードで、いたって簡単なのですが作り出す雰囲気が独特です。
しかも、AメロとサビでA,D,Cのコードを順序を入れ替えて使うところなど、なかなかニクいです。ただの入れ替えなのに強烈な変化感です。
コードの利用が似通っていたらダイナミックな曲は作れない、という先入観を吹き飛ばしてくれます。
ディア・プルーデンス - Dear Prudence
これは掛留概念の拡張=クリシェナンバー。
イントロ
Dadd9 D |C/D G/D |A/D C/D |2/4 C/D |
D D/C |D/B D/Bb |
Aメロ
D D/C |D/B D/Bb |×4
D D/C |D/B D/Bb |D |C G |
D D/C |D/B D/Bb |
展開部
D G/D |A/D G/D |D G/D |A/D G/D |F Ab |~
Dが目立ちますね。
不定調性論では、クリシェの拡大手法を「掛留概念の拡張」と呼んでいます。
ギターポジションの関係とベースラインの組み合わせによって生みだされた雰囲気です。
変な例を出してみましょう。
C△を分子にします。
C△/C=C△
C△/C#=??
C△/D=Am7(11)
C△/D#=??
C△/E=C/E
C△/F=FM7(9)
C△/F#=??
C△/G=C/G
C△/G#=G#augM7
C△/A=Am7
C△/A#=C7/Bb
C△/B=CM7/B
と列挙します。
機能和声の範疇を超えた和音が沢山出てきます。
しかしながら、それらの特殊和音にも「雰囲気」があります。「名前がない」からと差別するのはやめましょう。ビートルズもこの"雰囲気の良し悪し"でコード進行を作っていたはずです。
彼らは楽譜はもちろん、コード進行譜面ですら使わないのですから。
次のような進行はどうでしょう。
G |G/D# |G |G/D# |
G |G/C# |G |G/C# |
G |G/F |G/F# |G |
G |G/D |G/G# |G ||
G |G/E |G/B |G/A |
音はこちらで聞けますhttps://rechord.cc/q23CjSzK7T4
協和と不協和のバランスと、二つのライン(和声の停滞性)と低音の陰鬱とした動きが「押しとどめられた感情の、嵐の前の静けさのような雰囲気」を作ります。こういう言葉による印象表現は個人で創造してください。
逆に最後のG|G/E|G/B|G/A|は、憂いはなく、淡々とした情感、例えるなら、昼下がりの海沿いに広がる埋め立て地の駐車場、みたない殺伐さ?
何ともいえない、「空虚感を持った感情」のようなものでしょうか?
皆さんそれぞれ、いろいろと感じると思います。
結局そういう感情を、疑わず、一時解釈し音楽にストレートに活かしていくことで、自分が感じたことの音楽が生まれるわけです。これが不定調性論独自の「音楽的なクオリアの活用法」です。
これはなんとなく人の作ったファッションを着るのではなく、自分で一から服を作る、みたいな感じなので、そういう人は限られるかもしれません。
そういう風に全てを自分の手によって作ることが怖いという人は、どうしても自分以外の場所に信じられる正解を持ちたいと思ってしまうものです。音楽理論的な正当性はよくその対象になりがちです。前例に従うと評価はされますが、それは真の創造ではない、わけです。
しかし、創造の反対語が破壊であるように、創造するというのは容易いことではありません。時に伝統を揺るがす大いなる迷惑に見えるものだったりします。
グラス・オニオン - Glass Onion
ブルージー7thの活用ナンバーですね。
Aメロ
Am |F7 |Am |F7 |
Am |F7 |Gm7 |C7 |
Gm7 |C7 |
サビ
F7 |D7 |F7 |D7 |
F7 |D7 |F7 |G7 |
機能和声的に見たら、Am-F7で調が瓦解します。
でもF7がブルース楽曲でよく使われるものとしてのVIb7を想起させ、私個人にはそれがブルージーに響きます。
ゆえに、一回これを使ってしまうと、全体がブルージーにならざるを得ないんですね。
でもビートルズはこの曲、弦楽を入れています。すごいです。ジェームズ・ボンドテーマみたいな雰囲気になってます。ジョンらしい歌詞の雰囲気もカッコいいです。
これらのF7,D7がFM7,DM7だとまた雰囲気が変わります。jpopになります。
この差を感覚として捉えられればそれが「音楽的なクオリア」です。
もちろんM7の憂いの方が好きだ、という方もおられるでしょう。
なんでもいいんです。自己を打ち出せれば。
ビートルズはそれを20代前半でまるっとやったからすごいんです。