ビートルズの不定調性コード進行研究
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Michelle / The Beatles
主観
まず、この作品の暗めの雰囲気が好きです。
暗くどんよりとしたポールの声が乗った、どこか怪しい雰囲気。
この曲を聴くと「曇り空のパリ・・・車も通らない小さな建物と建物の間の路地にて。」みたいな映像感が子供の頃からありました。
Bb7(#9)
最初の話題。
F |Bb7(#9)|Eb |Ddim |C Ddim |C C7 |
歌い回しふた回し目部分です。
最初だけFで全体がFmの雰囲気で展開してゆきます。
海外のガチ(?)スコアなども二番目のコードはBbm7になっています。自分も最初はスコアの通りBbm7を気持ちよく弾いてましたし、そう信じてこれまでアナライズしてました。
しかしyoutube時代になり2番目のコードがジミヘンコードであることを知りました。
Paul McCartney "Michelle" - Live @ AccorHotels Arena, Paris - 30/05/2016 [HD] - YouTube
Michelle - Paul McCartney - Live Olympia - DVD Quality - YouTube
後年のライブもしっかりこのサウンドが響いています。
5カポでTABにすると、
9
9
7
6
8
6
です。音でいえば、
Bb,F,Ab,D,Ab,Db
音はこちらで確認。
一弦の9がmy belleの「my」、この二弦の9がメロディのmy belleの「belle」に当たっています。
Michelle - Paul McCartney Live From Quebec City En español - YouTube
↑これがくっきり見えますね。
この方も
この方もくっきりパートで解説してくれているので分かります。
これが確かにポールの響きですね。
音楽理論的にはちょい発想として思いつかないけど、そう思うのはきっちり西洋音楽概念で書物が統一されている日本人だけじゃないかな、、なんて感じたり。
書いている方がおられました。出典もあるようですね。
http://www.ncn-t.net/yonemura/B4Research/06/MICHELLE.html
カバーバンド「The Fab Four」のmichelleも当然7(#9)。
これは完コピするか、音楽理論に合わせてBbm7を弾くか、の違いですので、どっちが正しいとか間違っている、という話ではありません。観点の問題です。
このコードについては、ドキュメンタリーでポールが述べています。
「マッカートニー3,2,1」という動画でポールは語ります。
ヘシーズという店でポールとジョージはジム・グレティというプレイヤーが弾いていたコードを聞いて"なんだ!!あのコードは!"と叫んだそうです。
そのあとで「Fなんとかさ 今でもよくわからない」という衝撃の一言を発しています。いまだ知らんのかよ!!!笑 2021年の対談です。
人生でコードネーム覚える必要がない天才になりたかった。
動画では1弦から弾いてくれます。たしかにg#-d#-a-d#-c-fです。
そうか、コードネームもわからないし、コードの機能とかもよくわからないまま使ったから。こんなエモい曲でこんなエグいコードを使ったのか。と納得です。
動画では「変なF」とポールが笑います。
ジョージと覚えて、ジョンに教えたんだとか。そりゃビートルコードができるわけです。
ちなみにこのベースラインも即席でその場で考えたそうです。即席だからこそ生まれたフレーズ、と言えるかもしれません。
Michelleは九十分で録音が完成。もともと昔フランス語っぽくでかっこつけようと歌った曲があり、それをジョンが覚えていて、「完成させなよ」の一言で生まれた名曲。半分子供のお遊びのようなところから始まったグラミー賞受賞曲です。
出典はディズニー+でみられるドキュメントをご参考ください。
Ddim
Ddimは次のCに結びつくG7(b9)の部分的コードです。
ディミニッシュコードにはどんな使い方があるか、を教えてくれます。
G7(b9)=Abdim=Bdim=Ddim=Fdimと解釈して良い、という慣習がジャズにもあります。
最初のFは本来Fmになるべきですが、そうなっていません。
これも不思議な感じです。「不可思議」という単語のイメージをそのまま音楽にしたような感じです。
このメジャーのFコードの雰囲気は「曇天の中の日差し」というクオリアが自分にはぴったりです。
ちなみに同曲の発想は下記の二つのキーのダイアトニックコードを混ぜ合わせて用いていくことで様々なバリエーションが生まれます。
CメジャーキーとCマイナーキーという同主調のダイアトニックコードを列挙してみます。
<Cメジャーキーのダイアトニックコード>
CM7-Dm7-Em7-FM7-G7-Am7-Bm7(b5)
<Cマイナーキーのダイアトニックコード>
Cm7-Dm7(b5)-EbM7-Fm7-Gm7-AbM7-B7
※島岡譲先生によれば、このCメジャーとCマイナーを一緒にした「ハ調」の概念を用いるべき、とおっしゃっている、日本音楽理論研究会2016.3.27(東京例会)で楠瀬敏則先生が述べておられました。近著を書かれている、と言うことで楽しみです。(2016談)
これらを自由に組み合わせて曲を作る練習をします。ちょっと極端に混ぜてみます。
|:Dm7(b5) |Bm7(b5) |Dm7(b5) |Bm7(b5) |
EbM7 |CM7 |EbM7 |CM7 |
Fm7 | Dm7 |Gm7 |Em7 |
Am7 |Fm7 |Am7 |AbM7 G7 :|
演奏してみてください。下記でサウンドも聴けます。
https://rechord.cc/dcB4J3JvQmY
ビートルズの"面白いポピュラー音楽の作り方"の一つが、この二つの調の和音の混合をぶっきらぼうにやる方法です。これをキーを混合させる、という発想で作るのではありません。
知ってるコードを探りながら脈絡を繋げる(音楽的脈絡)という発想でやってみてください。そういう時に使うのは"感覚感"です。
現代っ子は音楽理論の学習と並行してこの"感覚感"も同時に鍛えられます。
十分に勉強して実際に作曲するときは考えないで作ってみましょう。それがコツであり、不定調性論で推してる音楽へのアプローチです。
なお、音楽理論研究会での発表では参考文献に基づく資料として市販スコアを参照して引用する必要があったため、例の和音をB♭m7で表記していますのでご了承ください。
ビートルズにスコアを使うべきではない、とつくづく思いました。