2017.9.20-→2019.9.15更新
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ほぼ全曲ビートルズのコード進行不定調性考察 アルバム「Help!」1
ヘルプ! - Help!
不思議なコードの接続部分のある曲です。
イントロ
Bm | Bm | G | G |E7 |E7 |A7 | A7 |
(<key=Bm>Bm<I> →G<VIIb> →E7<IV7> →A7<II7>)
Aメロ
A | A | C#m | C#m |F#m | F#m |D G |A |
A | A | C#m | C#m |F#m | F#m |D G |A |
サビ
Bm | Bm |Bm |Bm A| G | G | G | G D/F# |
E7 | E7 | E7 | E7 |A7 | A7 | A7 | A7 |
上記は1コーラスです。
イントロ終わりA7から→Aコードでメロディに入る様子が面白いです。
A7が浮遊させDメジャートライアドに解決しそうなドミナント感も持っています。
そしてなんと躊躇なく曲はAで始まります。
この場所でAメジャーに転調してるんです。
イントロE7→A7ですでにAのI7として転調済みだ、という解釈もできますが。
ブレイクでギターのアルペジオが急進力を持ってくだル、でもコードは解決せず、そのままAのまま行く、っていうのが音楽を一回勉強してから戻ってくるとズッコケるところです。
例えていうなら、音楽の授業で"起立礼"を
C-G7-C
が普通のところ。
C-G7-G
ですよね笑。。おい!っ( ̄▽ ̄;)ってなります。
「あ、コイツ理論知らねーな」ってぜったいに当時言われたでしょう。
ギターのアルペジオが緊張感を出し、すぐに曲が入る安易さを避けています。
同時にこのアルペジオがあることでA始まりもどこかスマートに聞こえます。初心者にはこのアルペジオがまたむずい。
散々失礼を申しあげましたが、これには理由があり、このアルペジオの最後の構成音がEm7(b5)になっていて、正確には曲の頭はEm7(b5)→Aがメロディ入りで発生しているので若干の解決感は起こっています。
これをアルペジオを入れないで弾き語り等で弾く時は、冒頭を、
イントロ
Bm | Bm | G | G |E7 |E7 |A7 | A7 A7(9) |
Aメロ
A | A |
とするか
イントロ
Bm | Bm | G | G |E7 |E7 |A7 | A7 E7(#9,#11)omit3 |
Aメロ
A | A |
とするか
イントロ
Bm | Bm | G | G |E7 |E7 |A7 |A7 Em7(b5) |
Aメロ
A | A |
とするとアルペジオの最後からAにつながるニュアンスをコードで再現できます。
これを、
イントロ
Bm | Bm | G | G |E7 |E7 |A7 |A7 E7 |
Aメロ
A | A |
とすると、カントリーの雰囲気を作り、どちらかというとイーグルス的です。
これらは音楽的雰囲気が全然違います。
言うなればHelp!は、理論的に正しいことをやるとビートルズでは無くなってしまうわけです(そのくらいこの不思議な進行に意識が慣れてしまっている)。
とわかりやすく表現してもいいと思います。
また、冒頭のBmも本来のAメジャーキーのIImではなく、BマイナーキーのIm的に感じさせられるのも特徴です。ジョンのヘルプ!っていう感じが切実で、ちょっとダークでマイナーの匂いがしませんか?これをIImと解釈して諸々一緒くたにするのはコードアナライズ教育の弊害と言ってもいいです。
和音はその状況でもっと情緒豊かに解釈は変化しています。その機微も一緒に捉えて欲しいです。「これはIImです」でわかった気になると「正しい音を弾けばちゃんと機能する」と考える音楽家になってしまいます。
ステージ衣装なんて別に普段着でいいじゃん、いい演奏すれば。という人間になってしまいます。これはビートルズがマシュルームカットする前のドイツ酒場でやってた頃の精神です。彼らの場合ロカビリーに寄せて不良気取りでやってたわけですが言っているのことは同じです。退行です。
不定調性論的にいう「コードの多解釈性」が和音には常々あります。
サビは、
Bm-Bm/A-Gと流れます。
メロディはBmの11thの音から入ります。
これをBm7にしていくのが「ニューミュージック」。
ユーミン氏らのサウンドはそうして巧みにビートルズを避けながら、ビートルズがやったテクニックを活用していくわけです。
サビに入った時の印象=多解釈性は、このBmがBmのキーのImとAのキーのIImでpivot(蝶番、ドアのヒンジの意≒複数の調で共有されたコード)になってることでこの曲想が作られています。
ゆえにサビの後半のE7はBmのIV7のようになり、微妙な「ドリアンのIV感」を出していると思いませんか?Bドリアンですね。
これ機能感に任せすぎて歌ってると2番にうまくつながらないはずです。
そしてサビではBmに転調してる、という二重構造です。
転調ぽくない転調。意識していない転調(行っちゃった転調)。
ビートルズを音楽理論的文節で語ろうとするとおかしくなる理由は
「転調...?知らんがな」
と思って作っている人の曲を「転調です」って解釈することの違和感です。分類欲求を満たして喜んでいるのは分析者だけ。他人の赤ちゃんを指摘して「顔つきがアジア系によくあるタイプですね」っていうようなものです。怒られるで。
彼らと同じ目線に立つには、そう音が流れることで曲に生まれる興奮を共有することだと思います。それだけで現場の仕事はうまく回ります。理論的知識は哲学同様、内に秘めるものです(コード進行記事なんて書いてる自分への戒めで)。
だから変に勉強していると、サビの最後のA7まで行った時、Bmの平行長調であるDに行きたくなる人もいるでしょう。でもDに行っちゃうと、おかしくなります。
下記を弾いてみてください。
イントロ
Bm | Bm | G | G |E7 |E7 |A7 |A7 |
Aメロ
D | D | F#m | F#m |Bm | Bm |G C |D |
D | D | F#m | F#m |Bm | Bm |G C |D |
サビ
Bm | Bm |Bm |Bm A|G | G | G | G D/F# |
E7 | E7 | E7 | E7 |A7 | A7 | A7 | A7 |
これうまく弾いて歌えますか?理論的にはバッチリあってるのに、「Help!」になりませんね。音楽にはなりますが。
ドミナントをトニックに向かわせず、
解決させないまま曲を始めて良い。
と例示した曲としてロック界に君臨しています。
痛快です。これを「この曲は例外」と言わないと、音楽理論ビジネス、初等音楽教育産業は成り立ちません。そうしてビートルズをいつまでも例外にしているから「音楽理論要らねー病」が生まれてしまうわけです。
「まず思うように作って、売れなかったらやり方を見直せばいいじゃないか。まぁ僕らは売れたけどねwww」
とジョンが言ったかどうか笑・・。
(すみません、売れるとか売れないとかはわかりやすい目安として述べただけです。ジョンに最高の愛を込めて。)
こうした彼らチームの思いきりの良さで、覚えたコードをひたすら自分の聴感覚を信じて作っていった音楽的クオリア=音楽的印象、自主的な印象の構築方法はどんどん強化されて行きます。
不定調性論はそのための具体的な学習の一つとして「どのコードもどこにも向かえるように、印象感覚を鍛える」というアプローチがあります。 先に述べた、その音に流れることで興奮する感覚を鍛える、ことで現場的音楽感覚はより研ぎ澄まされます。