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音楽のクオリアを自覚する~『なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか』;読書感想文

2017-07-02→2019-7-26(更新)

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なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか―サウンド・マーケティング戦略 

 凄腕のテレビプロデューサーとPRコンサルティングマンが書いた一冊(2016)。

 

子供のころに聞いたアイスクリーム移動販売車の音楽。懐かしい音色を久しぶりに聞くと、脳の中では感情、自意識、運動などをコントロールする部分が活性化し、子どもの頃の記憶がよみがえる。(カリフォルニア大学デービス校神経科学者ペートル・ジャナタ教授) 

 

馴染みのある歌ほど、脳の前頭前野が活発になるそうです。

脳の前頭前野は脳の中で特に重要な場所で「記憶や学習などをコントロールしているところ」なんだそうです。

参考;新聞の音読(子ども)

 

聴覚がもっとも早く反応する

人は聴覚が五感の内で最も敏感なんだそうです。

情報処理の能力が発達しているという意味でも、音に対する情報処理能力の進化は音楽文化の発展そのものなんでしょうね。

聴覚→0.146秒

触覚→0.149秒

視覚→0.189秒

味覚→0.5秒

嗅覚→0.5秒

ちなみに陸上選手は0.06秒で足の筋肉が反応し、視覚反応は0.189秒後に反応するそうです。

 

イヤーワーム現象→思い出や郷愁を買う行動につながる

何千回も聞かされた曲や音が耳に残る、という現象を「イヤーワーム現象」というそうです。

アイスクリーム屋さんの音を聞いて、アイスクリームを買う、のは、そうした脳の反応によって起きた情動を満たすために、アイスクリームとともに、自分の郷愁感も買っている、というわけです。

聴覚が味覚を支配する、と言う実験結果がいくつも書かれています。

ハンバーグが出来立てでジュージュー言っているのは、出来立てを食べてもらうという臨場感を「音」が後押しし、また人は音によってその臨場感を確かなものにしている、という意味で、出来立てである、という事よりも「ジュージュー」のほうが強行テロのように脳に刺激を与えている、ということです。

 

こういう効果を「ブームムーブメント」というそうですが、これはこのブログでも紹介している「共感覚」につながることで、音楽家はこの音に対するイメージを音楽に抽象化する能力に長けているわけです。

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ロックミュージックが有効なとき

若者向けの自動車のCMやちょっとおしゃれな文房具でも、高校生をターゲットにするなら、やっぱりロックの躍動感のあるサウンドが効果的であることはもう誰でも感づいていることでしょう(若者がかならずしも重低音を好むわけではない、という結果も出ています=要はターゲットを絞る際の顧客の性格設定においてロックをどう使うかを議論すべきです)。

一時期、植物に聴かせるのはモーツァルトが良くて、ヘビーメタルだと枯れる、みたいな話でロックを否定しようとするマーケティングがありましたが、それは根拠がなく、そうした否定的観点よりも、

「ロックをどう使うか」

を考えていくほうがやはり真のビジネスマンの才覚なのではないでしょうか。

 

同書に書かれている例は面白いのがたくさんあるのですが、

「機内食がおいしいと感じられないのはエンジン音が原因、エンジン音は塩分・砂糖・スパイスにたいする味覚を鈍らせる、またカリっとしたものを食べたくなる効果」という研究

「微妙で繊細な風味を味わってほしいときはロック音楽のビートとメロディが有効」という研究などなど。

また自分が好きなBGMを流すと料理がおいしく感じる、というような研究、など、いろいろな場面でこうした研究結果を用いることができれば、仕事のやり方も方向性もいろいろ見えてきますね。

ひとは食べ物がおいしい時に子供のころから聴いている周りの音と一緒に「おいしい」を覚えているんですね。だから家庭的な音、台所の音に「おいしさ」を見出すのでしょう。

逆を云えば、子供のころから飛行機で食事していたら、ジェット機の音で「おいしさ」を感じられる子供になるのかもしれませんし、「おいしい」という概念を食事に抱かない子供になるのかもしれません。性格が人を作るのですが、やはり環境がその性格形成に影響を及ぼしている、と感じざるを得ません。

   

1999年の研究ですが、「レストランでスローテンポの曲を聞きながら食事をすると、アップテンポの曲を聞いた場合よりも13分56秒長く店に滞在した。」そうです。

めちゃくちゃ使える話ですよね。

食事をする時間が長い、という事なんですね。

これがスーパーマーケットだと36%の売り上げ増につながる話なんだとか。

 

いつもこれが良いとは限らないのでしょうが、自分の趣味の音楽を流すよりも、購買活動の促進を考えたほうが良い、というわけですよね。

でもスーパーマーケットって独特なイージーリスニングを流していますが、あれも購買意欲を活性化させる、音楽が安易だと店内の商品も「お安く」感じられる、という効果が目的なんでしょう。

十分に吟味してBGMを流す、というのは結構大事なんですね。

 

MP3について

「iphoneやipadで音楽を楽しむのは、mp3の音が好きなのではなくて、美しいデザインで、シンプルな操作性、ポケットに収まるコンパクトさで音楽を自在に楽しめるから」

というようなことが書かれています。

つまり、これでさらにハイレゾのいい音で容量も軽く、曲も何千曲も入るなら、そっちにする、という話ですよね。mp3しか聴かない、とか、いい音で聴こうとしない、というわけではないです。

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本当にいいスピーカーのいい音というのは、比べ物にならないライブ感がありますからこれがiphoneから聞けたらたまりません。

やはりいい音はいい音を聴ける環境に出向いていく必要があります。

 

音への理解は他者への理解

同書ではあまり述べられていないのですが、共感覚は誰でもある程度のものは持っていて、それぞれ違う、という点がポイントです。

だから良い音楽を聴いてもなんとも思わない人は、レストランで美味しい食事をしようと思わないし、スナック菓子で済ませることもできます。

美味しい食事をするためには今より稼がないといけないし、努力しないといけないし、自然とそこに向かって進むわけです。

ホームレスでも生活は十分できる日本社会において、人をわけてしまうのは、そういう良い意味での強い欲望を持って強く生きられる人になれるか、どうかという意識の状態も大きいのでしょう。

今自分が何に対してガムシャラなのか、どうしてそう欲望しているのか、そうかんじているのか?を考えてみると意外と環境が及ぼす効果がという事が分かるのではないか、と思います。

一生懸命練習しているのは、

・ステージでお客さんからのあの大喝采を浴びたいから

・ライブが終わった後の打ち上げのあの音空間にまた戻りたいから

・彼女が拍手してくれてお疲れさま、と言ってくれる声がたまらないから

。。。そういうことがすべて「強い欲求」になって音楽がある、という事のように感じました。「音楽的欲求」というのが必ずしも音楽的素養と関係のないところに帰結している場合があって、それらがなくても音楽ができる人だけが音楽的成長を遂げていくのだと思うし、逆にそれらを上手に活用する、ことで音楽的成長も得られるのではないでしょうか。

 

どういうお音を出せば喜んでもらえるか、利益が上がるか、という事を知るためには来てくれているお客さんのことを考えないと答えは見えないし、相手のこと、他者のこと、社会のことに目を向けられないとその答えは出てこない、という事になります。

自分だけが良ければいいや、という発想では自分の人生すら豊かにできない、という事がわかりますね。

 

芸術やっている人にはやはり良いプロモーターが付くべきであり、良い伴侶がいるべきであり、良いパートナーがいるべき、という観点もある種納得です。

 

音楽を教える立場として、こういったことも含めて音へのイメージの育み方、他者とのかかわり方、自分の欲求、といった面での展開を一緒に考えていければいいな、と気が付くことが出来ました。

   

なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか―サウンド・マーケティング戦略 

 

マーケティングだけでなく、人間が豊かに生きていくためのヒントの書、として、特に音楽を主体的な位置に置いている職業の方に読んで頂きたいですね。