スティービー・ワンダーの不定調性進行分析
87, Too Shy To Say / Stevie Wonder
Aメロ
E |Eaug/C |AM7 E/G# | F#m7 B7|
E |Eaug/C |AM7 E/G# | F#m7 B7|
Bメロ
DM7 |C#7 |CM7 |B7 |
B♭M7 | A7 |DM7 |F#m7 B7 |
スティービーのコード進行のバランスが取れた名曲であると思います。
冒頭の二つのコードE |Eaug/Cはクリシェ的。
作曲をする時、こうした“この展開が出来れば、この曲イケる!”という進行感というものは作りながら毎回あるものです。
そしてBメロ頭のDM7からの展開が美しいです。
曲をEメジャーのキーと考えると、VII♭M7というコードへの移行。
そしてシークエンスで作られた展開。
IM7-VII7とII♭7-IM7という連鎖感でDM7という終止和音を作りだしています。
そしてII-VでEのキー感に戻す。II-Vを用いてしまえばいくらでも転調が出来るので、安易な使用過多にならなければ、適度に活用して絶妙な転調や、“戻れない転調時の最終手段”として上手く使いこなすとよいです。
Bメロの進行感を皆さんはどのように感じたでしょう。
先のDon't You Worry 'Bout a Thingのsus4連鎖に似たシンプルなシークエンスの連続。
私は煙がかった波止場の空気が、少しずつ流れ、くすんだ空を映しだすような空気感を感じました。
もちろんスティービーにはそうした景色など分かるはずもないが、彼なりに感じる世界の把握によって生み出されたものででしょう。
けだるくなっていくような流れでありながら、緊張した肩がすこしずつ力を抜かれ、相手のメッセージを受諾したくなる気分にさせてくれるような展開。
またBメロに入る前に、スティービーの展開パターンであるクロマチックで降りてくるベース!
初期の作品でもバラードに見られた表現、自分自身への説得力もある技法なのでしょうか。
また逆にこのように確実に降りてくれば、どの和音のベースへも進展できますから、盲目のピアニストならではの手法と当レポートでは考えていきます。
控えめでしっとりと心にしみる曲。
歌声の印象ってやっぱり大きいですよね。
この進行でよくこのメロディが出てくるなぁ、と驚嘆します。
IM7-VII7というモチーフで、あのメロディが出てきたから、これでいける!となったのか、メロディが先だったのでしょうか。
そういうことは永遠に謎の方がいいですね。創作物の余白。