2-18.4.5→2020.2.13更新
アントニオ・カルロス/ジョビンの不定調性進行分析
77, The Girl From Ipanema / Antonio Carlos Jobim
<A>
FM7 |FM7 |G7 |G7 |
Gm7 |C7 |FM7 |Gb7 |
FM7 |FM7 |G7 |G7 |
Gm7 |C7 |FM7 |FM7 |
<B>
GbM7 |GbM7 |B7 |B7 |
F#m7(9) |F#m7 |D7 |D7 |
Gm7(9) |Gm7 |Eb7 |Eb7 |
Am7 |D7(#11) |Gm7 |C7(#11) |
手間味噌ですが、機能分析と不定調性論の合体がいかに楽曲の理解の導くか考えてみたいと思います。
まず下記のコードアナライズをご覧ください。
====
<A>
Key=F
IM7 |IM7 |II7 |II7 |
IIm7 | V7 | IM7 | IIb7 |
IM7 |IM7 |II7 |II7 |
IIm7 | V7 | IM7 | IM7 |
IM7=トニック
II7=ドッペルドミナント
IIm7=サブドミナント(IVの代理)
V7=ドミナント
IIb7=裏ドミナント(V7の代理)
<B>
■Key=Gb
IM7 |IM7 |IV7 |IV7 |
GbM7は<A>の最後のFM7のIIbM7にあたり、機能はサブドミナントマイナーとなり、pivotコード(蝶番コード)になって広がっていきます。
■Key=F#m
Im7(9) |Im7 |VIb7 |VIb7 |→Gを想起
■Key=Gm
Im7(9) |Im7 |VIb7 |VIb7 |
■Key=G
IIm7 |V7(#11) |→Gを想起
■Key=F
IIm7 |V7(#11) |
<B>におけるキーの変化
Gb--F#m(同主転調)
Gm--G(同主転調)
IV7=IVM7の変化和音、機能はサブドミナント
VIb7=VIbM7の変化和音、機能はサブドミナントマイナー
====
等と書けます。
専門学校行ったらこのくらいは書けるようになります。
これで楽曲の全てが理解できれば良いのですが、はたしてあなたはこのアナライズで曲のどんなことが分かりますでしょうか?全体像はつかめますか?
実際に弾く時、ライブをやるとき、鑑賞するとき、上記のアナライズはどのくらい役に立つ予感しますか?
私は、上記のような科学的分析のほかに、合わせて、下記のようなことが自主的な意見として述べられれば、音楽のイメージがつきやすいのではないか、と提案し続けています。
<A>
FM7 |FM7 |G7 |G7 |
Gm7 |C7 |FM7 |Gb7 |
FM7からスタートして、同じフレーズでコードが変わります。
このI→IIへの流れは「アクティブさ」「ワクワク感」、粋な感じ、を私は覚えます。
波の上をふわふわ揺れてキラキラ陽の光に照らされているビーチボールが浮かんでます。同じフレーズでコードが変わる、という雰囲気に対する私なりの解釈を書き込みます。
これは個人差があるので、I-IIへの移動であなたがどう感じるか、を率直に、すぐ述べられるようになれば、あなたは不定調性論マスターです!
このI-IIのメジャーコードの連続って、スリーコードにおける、IV-Vに似ています。サブドミナント→ドミナント的な究極の進行感の一つなので明確に前進感に似た何かを感じる方をおられましょう。
作曲においてもこういう雰囲気が自分の中に作られる、と分かっていれば、それを活用できると思います。
そしていきなり飛び出したII7の浮遊感を、IIm7にすることで見事押さえつけて「耳障りの良い」流れができました。ワクワクなんだけどぼんやり座って遠くを見ていられるぐらいの高揚感、と言いますか。温帯な気候を感じさせます。
この進行自体はスタンダードジャズではよく使われているので決して不可思議な進行ではありません。
IV→IVm的な流れに感じる方もあるでしょう。
そしてGb7=IIb7ですが、これもべつにC7で良いのですが、この曲の浮遊感を出すために、このIIb7がふんわりとした導入を醸し出しています。このIIb7が<B>でのGbM7を上手に導き出しています。この半音上行の感覚がアクセントになって、ふわぁぁああ感の統一のバランスが見事です。
理論的思考でここまでの統一感を作ることは難しいと思います。こういった雰囲気の完成こそジョビンの優れた作曲能力の一端が溢れ出ていると思います。
裏コードは時にふんわり感を出す。
とこの曲で覚えました。こうやって曲の特徴からドラクエの呪文を覚えていくように、一つ一つコードの使い方を学べばよいわけです(音楽的なクオリアの訓練)。200曲ぐらい往年のヒット曲をまんべんなく見たら、だいたいコード進行の知識、イントロやエンディングの技術、アレンジの表現力、とかは聞き慣れてくると思います。
後はそれらを真似して作りながらいつかやってくるだろうオリジナリティを求める道に行けばいいわけです。
「コード進行」だけ見ていても実は覚えないんです。曲の背景が入ってこないから、印象に残りづらいからですね。やっぱりメロディと歌詞があると、自分の引き出しになった感が凄いですし、その曲の価値を鮮やかに記憶することができます。自分の価値観や自分の経験と音楽の意味をリンクさせることによって自動的に個性的表現として定着されます。あとはそれを実際に用いてみるだけです。
作者がどう考えたかは、不定調性論では考えません(それを考えるのが伝統的アナリーゼ)。拙論ではあなた自身がどう感じ、どう考え、どう表現したいかを決めます。
もちろん 自分の感覚だけでは最初は乏しいかもしれませんので、一般学習と並行してこうした音楽的なクオリアを用いた 自主感覚の記録を行い、その音楽の価値を自分が理解できるレベルに噛み砕いて把握し続けるわけです。
<B>
まず下記のコード進行でBメロを歌ってみてください。
GbM7 |GbM7 |Ab7 |Ab7 |
F#m7(9) |F#m7 |G#7 |G#7 |
Gm7(9) |Gm7 |A7 |A7 |
Am7 |D7(#11) |Gm7 |C7(#11) |
コードの流れが対称性を保っていると思います。
この流れでも歌えるのですが、<A>でせっかく創り出したふわぁあああ感がなくなって、少し陰を持っているように感じます。
それでは次の流れはどうですか??
GbM7 |GbM7 |BM7 |BM7 |
EM7 |EM7 |AM7(13) |Ab7 |
Gm7(9) |Gm7 |EbM7 |BbM7(13) |
Am7 |D7(#11) |Gm7 |C7(#11) |
M7の四度の流れや、ジャズの流れを意識したスムーズな進行感があります。
でも原曲の印象とはどこかちょっと違います。暖かさが消え、少し冷たい感じがあり温帯感が無くなります。でもこれは一つのコードがそうさせているのではなく、あなた自身がなんとなく相対的にそれを感じているだけです。
これを女性のボーカルで、全く別の曲調で歌ったらそれなりの暖かさは出るかもしれません。
つまり毎回一期一会すべて違うんです。しかしこれでは統一的なアナライズはできません。
でもご安心ください。統一的なアナライズをやりたければ機能和声論があるんです。
GbM7 |GbM7 |B7 |B7 |
この流れでのB7の「小首をかしげる少女」感がいいですね。
F#m7(9) |F#m7 |D7 |D7 |
ここでの9thを頭のメロディにした浮遊感の清潔さ。VIb7のD7が前のB7の印象を受け継いで何かを語っているように感じます。
こういった感覚もテンションをメロディーにしよう、など意図しなくても普段自分の感じ方を肥大、訓練していれば、そういう音楽制作が自動的にできるというのが 音楽的なクオリアの拡張を行う利点です。
Gm7(9) |Gm7 |Eb7 |Eb7 |
同じ形ですが、半音上げるという行為が、さらに何処までもふわぁぁぁっていきますよね。石鹸の香り。的な。
後は必要なだけ石鹸の香りがする響きを追い求めて配置していけばいいわけです。ここのコードはトニックだ、ドミナントだ的感覚で音楽を作っていては石鹸の香りで統一することができません。
Am7 |D7(#11) |Gm7 |C7(#11) |
#11thの音が、少女の思春期の無垢な疑問、興味というような印象を感じました。
なぜ人は悲しむの?
なぜ人は苦しむの?
なのになぜ海はこんなに美しいの?
的な思いに物憂げに浸っているような雰囲気です、
#11というのには私は時に「不可思議感」「自然の造形」というような印象も持ちます。もっと鋭い印象になる気もありますが。
それぞれの和音が持ってる空気感から、歌い方、メロディの感じ、「Girl」の付いた題名、など聴きながらどんどんフラッシュバックして、自分の意識の中に一つのストーリーを作ります。
・浜辺のシーン
・南米の少女の笑顔
・あっけらかんとして穏やかな青空
・昼下がりののんびり感
こういったことは映画を観たり、自分で経験したりして必ずイメージが湧くはずです。
で、こういったことを楽譜に自由にメモっていくんです。
楽譜がなければ、白い紙でも良いですし、歌詞があるなら歌詞に吹き出しを作って書いてもいいです。
聴きながら感じたことを一時停止しながら書いていきます。
そしてもう一回通して聴く。二回目は印象が変わります。
何度も聴くと強烈な部分だけがフォーカスされてきて他が薄まったりします。
そういった鑑賞感を覚え、体験し、自分が曲を作るとき、ジョビンの音楽を聴く時、ジョビンに影響を受けた人の音楽を聴く時、等の参考にすればよいんです。
これが不定調性論的な音楽鑑賞法です。
こうして独自な音楽力ができます付いていきます。
ちょっと下記の動画でやってみます?
0:16
ああ、タキシードなんだぁ。。なんか豪華だなぁ?これは『イパネマの娘』の素朴さを昇華してジャズスタンダードとして豪華にしっとり歌うんだろうなぁ。
0:23
シナトラだぁぁああああ!!
0:37
わ!ジョビンさん緊張してるんじゃないのおお!!!!
0:55
うわぁ、、緊張感のあるイパネマだなぁ!
1:09
あ、これシナトラが男で、ジョビンが女なんだなぁ
1:33
やばいやばい!どんどんエンターテインメントになってく!!
1:55
あ。。これは達人同士の居合いだ・・・。疲れたぁ。。
シナトラのたばこエグイ!!!
=====
みたいに感じません?これ、視覚情報があるからですね。
これレコードでも感じる時があると思います。また逆にこういった視覚情報が入っていると、レコードでのシナトラとかのセッションとか聞いても「たばこ蒸かしてるんだろなぁ」とかって思いながら聴けます。
今書いた中にコード進行のこととか、演奏技術のこととか、アレンジのこととか一切出てこないですよね。これ普通に地味なオッサンがうたってるだけではアレンジが気になったり、コードが気になったりします。
でもそこはシナトラとジョビン、そんなこと凌駕するがごとく、二人の居合いがさく裂しています。この頃のエンターテインメント、エグい。
これを、ギターアレンジにだけ注目していると、シナトラのすごさを感じません。
また逆に自分がこれをライブでやるなら、この動画は全く参考にならないこともわかります。
こうやって自分の目的、自分が今求めていることを誰でも探しているはずです。
その時にあなたはフル稼働で脳をつかっています。
その状態で音楽を考え、表現し、扱うのが不定調性論的思考です。
これと伝統的機能和声やジャズ理論の学習を組み合わせたら、とりあえず音楽の不思議、とか無くなります。
「なんでシナトラがやるとこうなるんだろうなぁ。おんなじ曲なのに」
というような疑問は、音楽構造しか見ていないからです。なんでこうなるかって、シナトラを見ていればわかります。彼はこうしたいんです。そう願ってこのステージを作っているんです。ジョビンがそのカリスマに譲った形とも見えます。
という具合に、コード分析では得られない情報を、不定調性論的思考で言う「音楽的なクオリア」をフル稼働していくことで、音楽の構造以外のことが補えるんです。
ポイントは「批判しないこと」「マイナス要素は差し引くこと」です。
別に批判ポイントを意識してもどうにもなりませんし、逆にあなたがこれから音楽を行う際に邪魔にしかなりません。そうやって完璧を目指して100点になった瞬間、それを見た新しい時代の子が5秒であなたの100点の欠陥を指摘するのが現代です。
まずは良いところだけを盗めばいいんです。
こういった価値観が、音楽を理解・演奏するときだけなく、人を評価するとき、自分の行動を考える時、とかなり広範囲の人間性に影響を及ぼすと思います。
あなたが音楽が得意なら、「道徳」「社会学」「心理学」も音楽を通して学べるかもしれませんよ?だからこそ得意分野、というのはあるのだと思います。
他の動画でもクリエイティブにやってみて、好きな音楽を見つけてください!