Unrequited / Brad Mehldau
この曲、和音もえぐいけど、何より曲がなんとも言えない香しい情愛のかんじ。
Pat Metheny & Brad Mehldau - Unrequited - YouTube
「Unrequited」"報われない愛"についての曲?です。
ダークで憂いを持った進行です。
不定調性論的な感想を言いますと、
愛、信頼、裏切り、迸り、瞬く間、殺意、憐憫、強欲、嫉妬、だから愛。
みたいなこの曲の持つクオリアを感じます。
どことなく、見えそうで見えない主人公の真意。みたいな。
曲の方法論や理論的な意味合いとかは分からなくても、何かこういう情念的なものを感じる時ありませんか?
それを感じるのが「音楽的なクオリア」であり、作曲や音楽鑑賞、演奏もこれを動機にして作っていく、というのが不定調性論です。
少しでも何かを感じる、という人はそれは「音楽的な素養がある人」と言えます。
冒頭、ピアノがつぶやくように入ると、その意味をとらえられぬうちにベースソロが始まります。スパイク・リーの社会派映画の導入を観ているようです。
音楽を聴くと、映像的情景を感じる人もいるでしょう。
カット割りまで見える人もいるかもしれません。それもまた「共感覚」的な脳の反応だと思います。
Em7(11) |C |Am6 |B7(b9) |
Cm |Bb6 |A7 |D7(b5) |
Bb |EbM7 |Am7(11) |D7(b9) |
EbmM7 |Bb/F |D7(b9) |Gm |
BM7aug |BM7 |B(b5) |F7(#11) |
Bbm |F#m6 |A(b5) |E |
A(b5) |Eb7(b5) |G#7sus4(b9) |G#7(b9) |
C#m7 |Am7(9) |F#7sus4(b9) F#7(b9) |B7sus4(#5) B7(#5) |~
(別途参考)
何となく「憂い」を演出している進行があるように思います。例えば
Am7(11)-D7(b9)
だったり、
D7(b9)-Gm
だったり、
F7(#11)-Bbm
だったり、
G#7(b9)-C#m7
というケーデンスが醸し出す雰囲気です。
コードサウンドにaug、altを用いることでサウンドが翳りを持ちます。
ショパンの和声のような感じもします。
こうした翳りの印象を連鎖させるだけでも楽曲の印象が出来上がると思います。
短調という概念に対して、変化和音のサウンドが作る、近代音楽的な翳りです。
たとえば、
C△ |Eb△ |F△ |Ab△ |
のときと、
CM7 |EbM7 |FM7 |AbM7 |
のときと、
CM7(b5) |EbM7(#5) |FM7(b5) |AbM7(9,#5) |
とでは、最初のロックな印象はどんどん無くなります。
どっちがいいか、ではなく、どっちがあなたが好きか、で選んでそういう音楽を楽しめばOKです。好きな音楽は、そのクリエイターとあなたの脳の嗜好が似ている、というだけです。人は関係ありません。
クライアント仕事の場合は、クライアントが好きなのはどれか、を選べるスキルが求められます。
このブログ初登場のサウンドがあります。後半最後の
B7sus4(#5) B7(#5)
というものです。こうしたサウンドはまず一つ一つ響きを聴いてみて自分の心象や情感を明確に当てはめる作業を行うことで、楽曲の中に現れてもなんとなく色々感じられるようになります。
これは覚えるのではなくて、普段から感じるようにしておく、ということです。
脳は覚えていますから、似たようなサウンドが聞こえたとき「あ、葛藤だ」となんとなく意味を感じるようになります。それが脳の喜びだからです。あなたの喜びではなく、脳という機能が持っている「文脈と現象と情感をつなげることの快楽癖」があるからです。
この和音と同様のコンセプトの和音を、Cをルートにすると、
C7sus4(b5)-C7(b5)
や
Csus4M7-CM7
というサウンドが作り得ます。どちらもよく使われます。
雰囲気の違い、意味の違いを感じ取って、音楽鑑賞や作曲、演奏に活かしてください。
こうしたサウンドを、「学校で習わなかったから聞けない」と決めないようにしてください。そして、そこから興味が湧いたこと、気になること、にトライしてみて下さい。
学校が教えてくれなかったあなたの生来の欲望の窓が開きます笑。
またこうした和音の心象を体系化したのが不定調性論です。お見知りおきいただければ幸いです。