セロニアス・モンクの不定調性進行分析
Off Minor / Thelonious Monk
Off Minor/Thelonious Monk - YouTube
この人の楽曲は、楽しみ方があると思うんです。
そして、この音楽を聴いて楽しむために「モンク専用の耳とモンク専用の音楽鑑賞観」を起動させなければならない、そのことを楽しみにできるか、ではないかと思うのです。
音楽の良し悪しではなく、あなたの許容量の問題。そもそもアーティストがつまらなければ歴史には残りません。モンクは面白いアーティストなんです。とにかく衣食住全て面白い人だったから、それが反映された音楽に説得力というか、モンクってなんなん?
をその音楽が説明してくれているから、彼の音楽は面白いんです。
誰もが会いたい人だけど一日付き合ったらしばらく会わなくてもいいかな、というタイプの人。それが音楽にも如意つに現れていてるところが面白くてつい再生しちゃうんです。クラシックとは違うジャズならではの奇想文学的面白さを持っています。
これは1947の作品。
コルトレーンがプロになったのは46年。
これを47年の音楽として聴くと違和感がありますね。即興パートはどうしても時代の音楽(バップ進行的様相)が反映されてしまいます。
モンクのコード進行には、「いびつな脱落感」や「カクカク動く壊れたようなフレーム感」というか、"物置の奥にしまってあったものだけを使って自動車作ってみました"みたいな、どこか異様で物珍しい創造物感があって、時々聴くとたまらないものがありませんか?美女とスチームパンク的なおどろおどろしした感じがあります。
とりあえずこんな音楽作る友人に居たら、とりあえず一緒に何かやって録音して残したくなりません?そう思わせるすごい吸引力。外野にいると興味ないけど、友人にいたら色々面白そうじゃないですか?
これは個人的な意見ですが、即興に向かないと思うのです。この人の曲は。周囲が正規のジャズジャイアントばかりだから、普通に音楽できちゃってますが。中途半端なジャズ学生とかを寄せ付けない感じがあります。
この人の音楽は劇伴そのものだったり、テーマだけでいろいろな映像シーンで使えるサウンドトラックの走りだったと感じます。
だからこれほど模様的に強烈な印象を残し、音楽ファンの理解に時間がかかり、年月を追うごとに評価が高まったのではないでしょうか?
メディア文化がやっとモンクに追いついたんです。
20世紀後半の「シーンミュージック」が運悪くバップの時代にできてしまったので、こんな形で残されているのかもしれません。
この曲のコードを見てみましょう。
Gm7 |C#7 F#7 |Bm7 Bb7|EbM7 D7 |Gm7 |
Bb7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |
DbM7 D7 |Bbm7 Eb7(b5) |Bm7 |E7(b9,13) |
Em7 |Em7 A7 |D7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |
Gm7 |C#7 F#7 |Bm7 Bb7|EbM7 D7 |Gm7 |
Bb7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |
最初のセクションはGm7でくくったような不定調性進行です。EbM7-D7がGマイナーキーのVIb-V7の感じを微細に放っていてかっこいいです。
それぞれの連鎖はV7-IやIIb7-Iというバップ語で連鎖しています。
きっとGm7--C#7というバップには無いチェンジ感が斬新であることをモンクもわかっていたのではないでしょうか。コルトレーンに理論教えた人だし。
またBb7(b9,b5,13) やD7(b9,b5,13)ですが、スクリャービンの神秘和音のようにも聴こえます。あれは1908年ごろです。神秘和音をコード表記すると、G7(9,b5,13)です。ちょっと似ています。
短三度上がって同じサウンドに進む、というのもなかなかえぐいです。確信犯。この理知的テロリストみたいな音楽性もモンクの魅力です。無表情で銃を撃ちまくれる人。
油断すると危ない人です。
不定調性ではこうしたテンションサウンドも和声単位の結合、または「反応領域の拡大」という考え方で作ることができます。
この二つのコードをCに置き換えると、
C7(b9,b5,13) やEb7(b9,b5,13)となり、十二音連関表の上方と基音領域の音を網羅することになります。
<連関表の音をピックアップ>
上方G-Bb-C#-E
基音C- Eb-F#-A
下方(F -Ab -B -D)
これらの音が下方の音へ移行すれば移動感があります。つまり、f,a♭,b,dを持つ和音ですね。
こうした変なサウンドは、前の和音で用いられていない音に移行すれば移動感を与えます。
たとえば12音を全て用いるようなコード連鎖を作ることもできます。
和声1を
上方G-
基音C- Eb
下方 F-A♭-B
と階段下半分を取り、
和声2を
上方Bb-C#-E
基音F#-A
下方D
と上半分を取ります。すると、
最初の和音は、
CmM7(9,11,b13)で和声2は、
BbaugM7(#9,#11)となります。モンクに負けない変なコード、
CmM7(9,11,b13)-BbaugM7(#9,#11)
というコード進行は12音を全て使って作られています。だから移動感は大変激しい進行になります。
DbM7 D7 |Bbm7 Eb7(b5) |Bm7 |E7(b9,13) |
Em7 |Em7 A7 |D7(b9,b5,13) |D7(b9,b5,13) |
ここはまさに不定調性ですね。これって逆から進むと、
Em7 A7 D7
Bm7 E7
Bbm7 Eb7
D7 DbM7
みたいになるわけで、II-Vの動きをさかのぼったような進行になっています。
ビバップをさかのぼってやる・・なんてこの人も考えそう。
それでもこのテーマにはストーリーを感じます。異様さを物語るストーリーがしっかり作られています。
この「モンクの神秘和音」D7(b9,b5,13)は金属の壁が崩れ落ちるような印象、off minor...まさに「マイナーからの離脱」「II-Vという約束からの離脱」というニュアンスが感じられます。
不定調性教材でも逆循環逆進行について触れています。
Dm7-G7-CM7などを
Dm7-G7-CM7-G7-Dm7 ||
として終わすようなメロディを考えてみたり、
Dm7-Em7-FM7-CM7-G7||
というドミナントで終了させるような、メロディ感覚を考えてみます。
慣れ親しんだ進行を覆す意識をもってみる。
ぬるま湯から抜け出るような冒険心、ハンターのようなミュージシャンシップをモンクの音楽から感じるから、クリエイティブを奮い立たせてくれるからモンクの音楽が好きなのかもしれません。