音楽教室運営奮闘記

音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

思い出さなきゃ苦しくはないなんて 誰も教えてくれはしなかった~ユーミン歌詞・コード考61

ユーミンの不定調性コード進行研究

ユーミン歌詞・コード考 / アルバム「acacia」2

 

 

Summer Junction
「明日は人ごみに戻って 読みかえす余裕もない1ページにいるのね」
「家までの信号機 どこかで寄り道したいね なんてことない場所でいいから あと少し」
「今のあなたと 今の私と 今のふたりが 消えてゆくの気づかないで見送っていた」
(ユーミンレポートより)

サビ(アルバム収録タイム 1:25-)
B♭ B♭/D |E♭ C |F D |Gm C |
E♭/F |E♭M7(9) ~
前アルバムあたりから、各曲の技法的方向性が明確になってきているように感じる。この曲の手法的な色彩は、ビートルズの「A Day In The Life」やイーグルスの「Hotel California」等の四度移動のコードコンセプトを思わせる(一般的手法なので別に曲で指定できるほどではない)が、明らかに「発明品」といえるようなコード展開である。調はB♭から流れていくが、メロディがモチーフを組み、和声に合わせて半音の経過音を持ちながら展開していく。この、
用例;
C |G |D |A |E |B |~
という流れによってメロディを紡ぐトレーニングをすることで、パターンにも応用できるだろう。
またこの手法が、同曲の次に収録されている『TWINS』でも用いられている。


TWINS
「こんなに広い地球上の中から どうしてふたりが出会ったんだろう
気づいてみれば あなたはとなりにいて 私はなんにも見えなくなった」
「幸せすぎるとなんで涙が出るの 幸せの次に何が見えるの
いつか伝えたかったわけもない哀しさ 胸の奥にしまったまま言葉にできず」

「出会いと別れは TWINになった運命(さだめ) わかったときから 心をきめた」

Bメロ
Gm7 F |C G |Bb F |C G |
Gm7はほぼ=Bbですので、このセクションは、
Bb F |C G |
的な雰囲気の連鎖が二回連なっていると考えても良いです。
これはビートルズの「Help!」あたりから出てきた例の「ビートル進行」です。サージェントペパーズの「A day in the life」などが挙げられます。
抽象的な意味の積み上がりをイメージするときなどに使えるコード進行です。


Lundi
「窓たたく雨の音 突然のモーニングコール
それ以外 何もかも同じ 月曜の朝
いつもより目がはれて 疲れているわけは きのう二人が別れたせい」
「読みかけの小説を少しだけ読みましょ コーヒーが入るまで 何も思わぬように
テーブルのあちこちに 散らかった残骸が 今度こそ終わりと言っている」
「止まる時間と流れる時間が まるであやとりしているみたいね」
「いかなくちゃ いかなくちゃ そろそろいかなくちゃ 私を待ってる私がいる」
「恋は去り雨は止み 後に残ったのは 意外にも平気な私と 変わらぬくらし
あなただけあなただけ そう思った頃が なんだか自分じゃないみたい」
「思い出さなきゃ苦しくはないなんて 誰も教えてくれはしなかった」

こうしたエレクトロのなんともいえないオートマチックなサウンドが、「日常」のごちゃごちゃした感じに失恋した自分が「自分に追いつかなきゃ」って思う印象と重なって凄いな、と感じました。

Em |B/D# |G/D |A/C# |
Am/C |G/B |F#/A# |Bsus4 |

これも使えるんじゃないでしょうか。
"落ちていく感じ"を落とすまいとするビートが心と日常の葛藤を再現しているようで、本当に怖い感じも受けます。

"いかなくちゃ いかなくちゃ そろそろいかなくちゃ 私を待ってる私がいる"
のとこですが、
Em |Am7 |D7 |G |
CM7 |Bm/D |Em7 |% |
となっていますが、このBm/Dはコード部分よりもベースラインが活きていると思います。
つまり、CM7→Bm/D→Em7は、
CM7→D→Em7
の感覚で作られていると思います。
もちろんBm/D=D6のような感じになり、まったく違う雰囲気を持っています。以下の三つの雰囲気を聴き比べてください。
<パターン1>
Em |Am7 |D7 |G |
CM7 |D |Em7 |% |
<パターン2>
Em |Am7 |D7 |G |
CM7 |B7 |Em7 |% |
<パターン3>
Em |Am7 |D7 |G |
CM7 |D6 |Em7 |% |
唯一パターン2だけが「暗い解決感」を持っていると思います。
で、パターン1は失恋した翌日にしては、ちょっと力強過ぎで前向き過ぎ、パターン3はこれは後半トップノートをb音に設定すると、CM7(b)-D6(b)-Em7(b)で統一感が出て、「引きずられながらも前向きになる」というこの曲の趣旨にぴったりになります。
もうひとパターン見てみましょう。
<パターン4>
Em |Am7 |D7 |G |
CM7 |Bm7 |Em7 |% |
これもいい感じですが「前向きさ」がないように感じませんか?
やはりベース音がC-D-Eと上がっていく高揚感を活用しない手はないと思います。 

 AD

   

   

 

So long long ago
(ユーミンレポートより)

Aメロ(アルバム収録タイム 0:27-)
Cm7 E♭/F |G7sus4 Gm7 |E♭M7 Dm7 |Cm7 E♭/F |
Gm7 Dm7 |B♭7 E♭M7 |A♭M7 |
E♭M7 Dm7 Cm7 |
=degree=
(key=Gm)
IVm7 VI♭/VII♭ |I7sus4 Im7 |VI♭M7 Vm7 |IVm7 VI♭/VII♭ |
Im7 Vm7 |III♭7 VI♭M7 |II♭M7 |
VI♭M7 Vm7 IVm7 |
Gマイナーの曲調の中で、II♭M7がリリースされる和音としてセクションの最後に登場する。

 

Cメジャーキーで考えれば、
通例、
CM7 Dm7 Em7 FM7 G7 Am7 Bm7(♭5)


というダイアトニックコードに対して、
CM7-D♭M7
Dm7-E♭M7
Em7-FM7
FM7-F#M7
G7-A♭M7
Am7-B♭M7
Bm7(♭5)-CM7


という変化が可能であることを意味し、また時にこれらのM7はm7、または7thコードになる場合もある。
またこの逆の進行も起こりえるといえる。

 

幸せになるために
コード進行を勉強し始めると、最初は、小節一つか二つのコードを置くだけですが、やがてII-Vを覚えます。

II-Vというのは、言い換えれば「セカンダリードミナントを配置すること」です。

たとえば、
CM7 |Dm7 |Em7 |FM7 |
というコード進行を作ったときに、「無駄なコード」を挟みます。
たとえば、
CM7  A7 |Dm7 |Em7 |FM7 |
とか、
CM7 A7 |Dm7 B7 |Em7 |FM7 |
とか
CM7 A7 |Dm7 B7 |Em7 C7|FM7 |
とかです。
さらに、これをII-Vに分けるんですね。
CM7  Em7(b5) A7 |Dm7 F#m7(b5) B7 |Em7 Gm7 C7|FM7 |


ややこしいですね。

これは決して配置しなければならないコードでは無く、「置いてみたら音楽の流れがしっくりきた」という時に活用するべきものです。

この曲も「こうなって、そしてこうなってね」という問いかけを促すような、II-Vが見事に楽曲の流れに穏やかなストーリー展開や回想の展開を感じることができると思います。

II-Vの理屈は音楽理論ですが、II-Vをどう置くかは、印象論の強化、なわけです。

 

7TRUTHS 7LIES~ヴァージンロードの彼方で
「天使のようにやさしく近づき 悪魔のように ハートを盗んだ」
「だって私はあなたに会って 運命を感じてしまったから
どんな卑劣な手を使ってでも 手に入れなきゃいけないと思った」
「天使がよそ見しているあいだに 悪魔がそっと 耳打ちしてった」

 

PARTNERSHIP
「あなたの目に 明日の空が映るなら
私はきっと どしゃ降りの中ついてゆこう ふりかえらず」


Aメロは、
Bb F/A |Gm |EbM7 |F7sus4 |
Bb Bb/Ab |Gm |Cm7 Eb/F |
GM7 |Cm7 |D7 |
~となっていきます。
BbからGへという平行長調への転調が起きます

サビ、
EbM7 |EbM7(b5) EbM7 |Dm7(11) Dm7 |Dm7(9) Dm7 |
Cm7(11) Cm7 |BM7 |BbM7~
という回遊コードがコードの陰りを演出しています。

 

考え方をまとめると、Aメロの終わりがD7ですから、そこからどこへ行くか、です。
EbM7はいわばVIbM7的なので、最もオーソドックスな展開感があります。そこではEbM7はリディアンになるので、「リディアンのb5」が音楽の流れに光と影を作り出します。
そしてDm7は今度はVm7やIIIm7の印象があります。そこで本来はVm7やIIIm7はフリジアンなので、9thはないはずなのですが、ここではそれを使って「不可思議感」を出しています。これはわざと出さないと出ません。
「違和感に気が付いたけど、ここでは合うなぁ」
という印象を作曲時に持てるかどうかです。

 

そこで使われたBM7は続くtonic BbM7のIIbM7です。
これがドミナントの変わりになって、着物の女性がふわりと腰掛けるがごとくのケーデンス
を作り出しています。

歌詞の印象を上品に包み込む、重厚なサビだと思いませんか?

acacia