2018.1.6→2019.11.22更新
スティービー・ワンダーの不定調性進行
Don't You Worry 'Bout A Thing / Stevie Wonder
<スティービー・ワンダーレポートを参照>
事例71;Don't You Worry 'Bout a Thing (CDタイム 0:38-)
スティービーのクリシェ発想の真骨頂とも言える和声進行がでてきます。
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Aメロ
E♭m B♭7(♭13) |E♭m7 A♭7 |
D♭m7(9) G♭7(13) |BM7 E7(9,♭5) |
E♭m B♭7(♭13) |E♭m7 A♭7 |
D♭m7(9) G♭7(13) |BM7 E7(9,♭5) | E7(9,♭5) |
Bメロ
G♭ |E/G♭ /A♭ /A|B♭m7 |BM7 B7 B♭7 A7 |
A♭7 |D♭7sus4 |G♭(9) |B♭7(♭13)~Aメロ
Bメロ'
G♭ |E/G♭ /A♭ /A||
B♭m7 |BM7 B7 B♭7 A7 |A♭7 |D♭7sus4 |
G♭sus4 G♭ Fsus4 F | Esus4 E E♭sus4 E♭ |
Dsus4 D D♭sus4 D♭ | G♭M7(9) |
G♭sus4 G♭ Fsus4 F | Esus4 E E♭sus4 E♭ |
Dsus4 D D♭sus4 D♭ | G♭M7(9) |
Cメロ
E♭m B♭7(♭13) |E♭m7 E♭m6/B♭ | EM7(9) |EM7(9) |
E♭m B♭7(♭13) |E♭m7 E♭m6/B♭ | EM7(9) |EM7(9) |
Bメロ'のsus4ラインの解明がスティービー研究の骨子でした。
レポートには、その謎解きの過程を詳しく書いていますが、ここでは結論だけ書いておきます。
スティービーは自分が盲目であることを理解し、かつ活用しています。
彼と共に過ごした三浦憲氏の著作が大変参考になりました。
そこから、彼の自在な音楽的アイディアが盲目の体感からきているのではないか、と感じるに至りました。sus4の半音移動に限らず、半音の変化は、鍵盤を一つとなりに全ての指をずらすだけですから、目が見えてしまうと「全部sus4のつまらない移動」かもしれませんが、スティービーにとっては、黒鍵を挟むことで指の動きは微妙に違います。だから「全部同じコード」というイメージは記号でコードを判断する人とは違い、整合性の取れたバランスのいい進行、と理解しているかもしれません。
ましてやCsus4→Cなんて、指一本動かすだけなのに、劇的な音楽的サウンドを繰り出します。これを楽曲に使わない手はなかったことでしょう。目の見えない彼にとって、
Csus4→C
と
Bbsus4→Bb
は指使いといい、全く違う概念である可能性もあります。私たちが勝手に「同じタイプのコード変化だ」と思ってしまっているだけかもしれません。
これが答えではないでしょうが、音楽的アイディアを生かすには、自分の音楽的クオリア=イメージと動機を最大限に生かすことが一番大事、ということが分かって頂けると思います。
なんでこんな進行を彼は作ることができたのか。
この答えを、彼が盲目だったから、と考えることもできるはずです。
差別的な意味ではもちろんありません。私はスティービー・ワンダーのレポートで数多くの盲目の音楽家の言葉を集めました。そしてスティービー自身の言葉を集めてレポートを書きました。
そこには真に自分という存在のオリジナリティを把握している人の強さがありました。レポートでは「非視覚的な音楽思考」としてまとめました。
普段感じている五感の感じ方を変えないと、このような進行感を創り出せない、と考えて頂ければ宜しいかと思います。
また逆を言えば、世界が言うこと、他人が言うこと、先人が言う事に頼らず、自分自身はどうなのか、自分が求めるものは何かを明確にできれば「何でスティービーはこうやったのか」何て考える必要などないし、あなた自身が持っている願望や感じ方を最初から示していけばよいと思います。彼らがそうしているように。
脳科学によれば、直感は前頭葉からもたらされる情報が選別されて一瞬でそれに対応する答えを導き出す、といいます。
そのためにはこの訓練を積み続けなければならない、そうです。
5×5の盤面の戦局を1秒だけ眺め、最高の手を2秒以内に答える、というテストで将棋の達人達はその答えを全問正解でなくてもある程度導き出した、といいますから、その直観力は経験によって十分鍛えられるわけです(個人差あり)。
たくさんのヒット曲の手法に触れ、情報を蓄えておくことで作曲時にそれらの情報が選別され、曲の流れで必要な情報を瞬時に導き出せる、という活用もできます。
その際、伝統技法とされる既存理論の他に、不定調性論のような自在に動き回れる音楽手法を皆さんそれぞれの方法で確立することで、皆さんが持って生まれた脳の特長、性格的特長を楽曲制作に活かせるのではないでしょうか。