音楽教室運営奮闘記

不定調性論からの展開紀行~音楽と教育と経営と健康と

『チャーリー・パーカーの技法』コード解釈覚え書き

同書を読まれた方にとっては、発想のまとめになるのではないでしょうか?

必ず原書をご覧になって熟読ください。

 

チャーリー・パーカーの技法――インプロヴィゼーションの構造分析 

 

■アルペジオパターン
あるコードのアルペジオを演奏する時は、

R-3-5-7と主音から上行するか、

7-5-3-Rと7度音から下行することによって、

1,3拍という強拍にコード構成音を置くことができるので、流れにコード的にも安定したリズムができる。

これをパーカーアルペジオの基本とする。

前打音、複前打音、ターン、半音階的フレーズもこの強拍に置かれるコードトーンをベースに考える。

 

■リニアラインの生成
※コード分解を伴うもの
同書で名付けているわけではないが、パーカーが参考にした、と同書が指摘するアーティストの名を覚えてもらうために、仮に"チュー・ベリーチェンジ"としよう。
~コード分解の方法~
Am7→CM7-Am7
Dm7→FM7-Dm7
G7→Bm7(b5)-G7
CM7→Em7-C
CM7→Cm7-Am7
FM7→FM7-Dm7
Bm7(b5)→Bm7(b5)-G7
Em7→Em7-C
という代理関係のある分解を想定し、それらのコードトーンを音階上に並べ、リニアライン(二度音型の線的旋律)を作る、という発想で、ラインを作る。


コードスケールの考え方と違い、一つの原曲コード=同書では「ベースラインコード」において、二つ以上のコードの連なりから生まれるライン、という発想になるため、時に線形であり、時に分割された和音のようにアルペジオされる。

~リニアラインからの線的展開~
さらに、この「コード連鎖」という発想を拡張し、
IIIm7-IIIbm7-IIm7
IV-IVm-IIIm
IIm7-IIb7(あるいはIIbM7)-I
という半音での連鎖にも発想が及ぶ。

■Relative Major
レナード・フェザー(ジャズ・ピアニスト/作曲家/音楽評論家)のインタヴュー記事等をベースに、パーカーのドミナント7thに対する旋律アプローチの発想を解説。
たとえば、


Dm7 |G7 |CM7 |


という流れにおける、G7において、このG7をG7(9,11,13)と解釈し、この構成音を並べる。
g-b-d-f-a-c-e
ここから、4和音を抽出する。


g-b-d-f=G7
 b-d-f-a=Bm7(b5)=F6(b5)
  d-f-a-c=Dm7=F6
f-a-c-e=FM7


こうすることで、リニアラインの発想(どちらが先かは分からない)にもつながるコード分割ができることになる。
つまりG7上で、FM7やDm7=F6、Bm7(b5)=F6(b5)などが使用できることになり、このF△系統和音を「Relative Major」と同書は意義付け、拡張している。

さらにDm7 |G7 |というII-V全体をVで解釈し、上記のRelative Majorコードを連鎖させ、旋律を作る、という発想である。このとき、11thであるcが旋律に出てくることから、G7の三度音bを避けることで、sus4的サウンドを構成することができる、としている。

 

■Relative Majorのb5th
~手法1~
これも同インタビューからの展開である。上記のrelative MajorのVII♭コードの5thがb5thする場合がある、としている。GであればF△がこれに該当する。
g-b-d-f=G7
 b-d-f-a=Bm7(b5)
  d-f-a-c=Dm7
f-a-c-e=FM7→f-a-c♭-e=FM7(b5)とする
→これは結果的にDm7-G7をG7解釈して、sus4を解除した通例のV7での解釈となる。

~手法2~
次に、VII♭の5th、つまりG7ならF△の5thがフラットされ、これがRelatibve Major全体に影響を及ぼす場合である。
g-b-d-f=G7
 b-d-f-a=Bm7(b5)
  d-f-a-c=Dm7→d-f-a-c♭=Dm6=F6(b5)
f-a-c-e=FM7→f-a-c♭-e=FM7(b5)とする
→これも結果的にV7化されることを意味する。手法Ⅰとの区分けはFM7(b5)を単独で用いているか、そうでないか、の違いと私は判断した。

~手法3~
G7自体をDb7化する、という手法だ。これによりRelative Majorも減五度変換されることになる。
d♭-f-a♭-b=Db7
  f-a♭-b-e♭=Fm7(b5)
a♭-b-e♭-g♭=Abm7
b-e♭-g♭-b♭=BM7
→このとき、g♭はM7である。ゆえに、これがさらにフラット5thされ、BM7(b5)となることで、ドミナント7th化されて使える、という発想になる。

こうした「コード分解」によって旋律を構築している、としている。これは、さらに一人一人が譜例と音源を確認し、各位の運指の問題や、聴こえ方の解釈にも基づく独自解釈を重ねる必要がある。同書によるコード分解は、コードスケールでバップを解釈していた学習者にとって天啓のような発想の泉になるのではないか。これらの内容に「なぜコードスケールの発想ではバップフレーズにならないか」のヒントが隠されているので、ぜひ同書で各位確認頂きたい。

ここまででV7で用いられる分割コードを一般化してみよう。


=表1========================
V7で分割される際に使用できるコード(主和音をIとする)
V7
=族1(V7として)=
IVM7-IVM7(b5)
VIIm7(b5)
IIm7-IIm6
=族2(II♭7 裏コードとして)=
IIb7
IVm7(b5)
VIdim7=7th音がV7のM7のため半音下げdim7化(※この和音はブログ主が解釈)
VIIM7(b5)==5th音がV7のM7のため半音下げ
===========================

 

■Relative Majorの変形
さらに表1の和音の5th,7thが順次変形されて利用される。詳細は同書p100から参考のこと。ここではそれらの変化和音を追加した表2を掲示する。
=表2========================
V7で分割される際に使用できるコード(主和音をIとする)
V7
=族1=
IVM7-IVM7(b5)-IVM7(#5)-IV6(IIm7と同)
IV7(b5)
VIIm7(b5)
IIm7-IIm6
=族2=
IIb7
IVm7(b5)
VIdim7=7th音がV7のM7のため半音下げdim7化(※この和音はブログ主が解釈)
VIIM7(b5)==5th音がV7のM7のため半音下げ
===========================

■Tonic Major
Dm7 |G7 |CM7 |
というとき、CM7は先ほどまでのRelative Majorの発想だと、D7に属するものであり、考え方としては、Dm7 |G7 |D7 |と解釈して演奏する状態と、脳内の状態を同じように演奏することができることを意味する。こうすれば、同じ考え方で様々なコードにアプローチできるわけであるから、慣れていれば"楽"かもしれない。
=表1→Tonic Major化========================
Iで分割される際に使用できるコード
IM7→II7のRelativer Majorの列挙
=族1=
II7→使用しない
IV#m7(b5)→使用しない
VIm7-VIm7(9,11)
IM7-IM7(9)
===========================

 

■Relative Minor
G7(9,13)の9th,13thをフラットし、G7(b9,b13)と解釈した場合のコード分割がRelative Minorとなる。
Dm7 |G7 |CM7 |
g-b-d-f-a♭-c-e♭
ここから、4和音を抽出する。
g-b-d-f=G7
 b-d-f-a♭=Bdim7=Fm6(b5)
  d-f-a♭-c=Dm7(b5)=Fm6
f-a♭-c-e♭=Fm7
これらにあわせて、同書で特に紹介されているその他の特例もまとめて表3とする。


=表3========================
V7で分割される際に使用できるコード(主和音をIとする)
V7
=族1=
IVM7-IVM7(b5)-IVM7(#5)-IV6(IIm7と同)
IV7(b5)
IVm7
VIIm7(b5)
VIIdim7=IVm6(b5)
IIm7-IIm6
IIm7(b5)=IVm6
=族2(裏コード)=
IIb7
IVm7(b5)
VIdim7=7th音がV7のM7のため半音下げdim7化(※この和音はブログ主が解釈)
VIIM7(b5)==5th音がV7のM7のため半音下げ
=進行特例1=
IVM7→IV7(b5)→IVm7(b5)→IIb7(※構成音をフラットさせることによって生まれるクリシェライン的旋律)
=進行特例2=
Dm7 |G7 |CM7のとき、G7時に短三度上のBb7に該当する7thコードを利用する。
これはG7sus4とBb7が類似しているという発想から。
===========================
これらが、交換されたり、混合されたりして使用される例もある。詳細事例はP135から同書を参考。

この表3が、V7における使用スケール表、とこれまでされてきたものに対して、今回同書で提案された、「V7における旋律展開のための和声表」である。

※なお、このあとにtonic minorにおける和音解釈もあるが、ここでは割愛する。

 

===================

この発想で、分析者自身が一曲アナライズしたとき、かならず「分析者の視点が入り込んだが故の齟齬」が発生します。しかしそのときこそ、自分なりのbe-bopが生まれると思います。

パーカーは人の技術を盗んだ、という人がいますが、事実はどうあれ、本人はそのスタイルを自身のものとして歴史の中に名を遺しました。技術は盗め、と言いますが、美化する必要はありませんが、批判してもしようがないと思います。

Dm7-G7-CM7上でソロをとる時、同書によれば、パーカーは、G7sus4(またはG7alt)-D7(relative Major)またはCM7の和音との関連性のみで解釈して演奏した、という解釈になります。スケールや調ではない、という発想です。しかし誰もがその考えでパーカーバップができるわけではないですし、もうすでに自分なりのバップフレーズの制作方法を持っている方もいらっしゃるかもしれません。

いかにマンネリ化しないII-V-Iを産み出そうとしたか、という動機はいつの時代も同じでしょう。
コードスケールで考えたほうが良い場合もあるでしょうし、ギターなら、フレット構造に則したやり方を思いついた方もいらっしゃるでしょう。

「誰かのマネではなく、自分が、自分の楽器で、今やってる音楽のジャンルの中で、考えうる最も簡単な発想」を「発明する」ことが求められていることを同書は教えてくれています。

こんなオリジナルな分析と方法論は他にありません。
ぜひ、同書からビバップを学ぶ以上に、皆さんなりの全く未整備の方法論を開拓して自分のものにしていく楽しさを見つけてください!

チャーリー・パーカーの技法――インプロヴィゼーションの構造分析

www.terrax.site

 

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