パット・メセニーの不定調性コード進行分析
(2013-06-09→2016→2017→2019.9.19更新)
G#m7(9) |DM7 |EM7(9,#11) |D#m7 |
C#m7 EM7(9) |F#sus4(9) EM7(9) |
C#m7 G#m7(9) |F#/A Aadd9|
E/G# BbM7(#11)/F |E BbM7(#11)/D |
E BbM7(#11) |E |
これが前半です。
sirabhornもそうでしたが、この曲でも二つのコードを繰り返すシークエンスがありますね。スティーリー・ダンの時もそうでしたが、これは「流れの脈絡を作る一つの方法」です。どんな不可思議な進行でも、繰り返すことで「意味ができてしまう」という発見、慣習です。専門用語では「パターン認識」というのでしょうか。
最初の和声を機能和声的にあえて考えてみましょう。
G#m7--DM7というコード進行、G#m7=Iとした場合、DM7はIV#M7です。
ノンダイアトニックコードです。
調性から意図的に外すようなコードの流れを頭に持ってきています。
これがDM7(9)になったらG#のvibを持つのでサブドミナントマイナーということは出来ます。
構成音だけ見て従来の機能に分類する方法は、不定調性論でモードマトリックスという考え方から導き出すこともできます。
たとえば、
DM7はG#m7から見たiv(c#)を持つ(SD)、9thを入れると、ivとvi♭(e)を持つ(SDm)、という理由からです。
G#m7(9)--G#,B,D#,F#,A#
↓
DM7---D,F#,A,C#
また、変化音の多い進行なので、動進行(不定調性論)となります。
C#m7 EM7(9) |F#sus4(9) EM7(9) |C#m7 G#m7(9) |F# Aadd9|
続くこの辺りは、微妙にG#mのキーを感じます。
これは、
IVm VIbM7 |VIIbsus4 VIbM7 |IVm7 Im7 |VIIb IIbadd9|
となり、最後のIIbだけノンダイアトニックコードであるがゆえに「調性的進行の名残」を感じるわけです。
前半最後のE---BbM7(#11)の流れも絶妙です。
それまでの空気感を均すかのようなシークエンスで一息をつく、という『sirabhorn』でもあった流れです。それでもここも増四度の移動です。
E△=E,G,B
BbM7(#11)=Bb,D,F,A,E
という流れで「静和音から動和音への動進行」です。
軸がEに置かれているようにも思えます。
こういう進行は、一点を軸にしてがらりと風景が変わる現代的な映像効果を感じます。
add9和音や7sus4(9)という和音も個々の印象を把握し、使い慣れないととっさには出てきません。
また、この曲には7thコードがないのも特徴です。7thコードは外部音に流れようとします(動きへの欲求を感じさせる和音として慣習に染み込んでいる)。つまりそれがない、ということは音楽は良い意味での停滞感で統一されるからです。
不思議な感じのする静的な曲です。想い出の一点を見るともなく見つめるような雰囲気がしませんか?
この曲からインスパイアされた次のような進行でメロディを作ってみる、というのも良いトレーニングになります。
音源はこちらで聞けます→
「In Her Family」にインスパイヤされた進行 | rechord
まずXm、XM7、Xsus4、Xadd9の響きに慣れ、ランダムに一つ一つ連鎖させながら、何らかのイメージや脈絡があることを感じながら完成させます。
そして抽象的なメロディを作る癖を付けます。
膨大な実習を行うなら、響きを聞いてメロディがある程度浮かんで来ればOKです。