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音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

ほぼ全曲ビートルズのコード進行不定調性考察(2017) アルバム「Help!」4

ほぼ全曲ビートルズのコード進行不定調性考察 アルバム「Help!」4
この記事は2013-10-31に作られた記事を2017版にリニューアルしたものです。

9、夢の人 -


I've Just Seen A Face


この曲は、V→IV→Iを持つ曲です。

   

 

A | A/G# |F#m | F#m/E |
D |D E |A |
A | A/G# |F#m | F#m/E |
D |D E |A |
E |D |A D |A |

 

カントリー調の曲想から、自然に生まれたのかもしれません。
サビの部分「E-D-A-D-A」において、IV-Iの終止がみられます(D-A)。
アーメン終止だからといってサブドミナント終止、という感じ、あんまりしないと思います。つまり「これはサブドミナント終止です」と分析される他の進行とはちょっと違う感じがしませんか?
という意味です。でも、通常、これはIV-Iに向かっている、と分析するでしょう?

よく考えてください。それで何が分かりましたか?

其れで分かるのは、「昨日見た女性はね、顔の部分に目と鼻があって、やはりその下に口があったのだよ。まあこの辺は無難だな。しかし多分髪の毛が赤みを帯びていた、が、まあ黒と言っていいだろう。セオリー通りだ。いやあ、他の人と同じような感じだが一部は変化があって素晴らしい。」

こんな感想言う人いませんよね。でもコード進行分析の現状は、こういうことです。

最近はだいぶ不定調性的な「自己の感覚に照らし音楽の展開を自分なりに理解し、主張する」方法論がいろいろなブログで見られるようになったと思います。全てとは言いませんが、M-Bank関連の方や、SNS関係者、理論研究会関連からの展開であったりします。あれは不定調性的思想からの各位の自在な展開なのです。それまでにはなかった手法です。

でもそれって、本来普通じゃね?

レストランでカレー食べて、誰かの分析を引用して語る奴なんていない。

セオリーは進化すべきなんです。でも勝手に自分の感想を言うだけでは普遍性がないから、セオリーと不定調性的思想をミックスしてちゃんと自分が納得する形で分析できれば、よいのです。問題はその後「分析できたからってそのレベルの曲が作れるわけではない」という問題です。これは逆に言えば、

「分析できてしまうと『ああ、こんなすごい曲自分は無理だな』と潜在意識が思ってしまうので出来ない」ということへの理解が大切です。

潜在意識との関連については、このブログでも相当抉っていきたいと思っています。

 =====

話が飛びました。

つまり、ここでのIV→Iはあなたにとって何か?を生まれて初めて考えなければならない問題にぶつかっている、と気が付かなければなりません。

あなたの中にある感覚、思想、経験、知識に基づいて判断すればよいわけです。だからその判断はこれからも進化しますし、一回分析して「はい次」と行くのではなく、またこの曲に戻って聴くことで、音楽はさらにいろいろなことを教えてくれます。難しい知識や背伸びもいらず、かつ謙虚になれます笑。

 

わたしにはこのDが、EのVIIbに感じます。つまりサブドミナントマイナーで強烈な乾燥した移動感をともなう「ぎゅいん!」といったコード連鎖に感じるのです。だからこれを見ると、

「なるほど、必要ない、と思えたところでも一瞬だけコードを挟むことで、こんなに曲がダイナミックになるのか」なんて学べてしまうわけです。

もちろん「機能和声をやっていたらそれは学べない」とは申しません。通例の学習でこれがちゃんとできる人は、もともと不定調性的感覚をお持ちか、先生が良かったか、です。

 

「あなたの知り合いのU子さんてどんな女性ですか?」

と聞かれたら、なんて答えますか?また

「夢の人、ってビートルズの曲、どんな曲?」

って聞かれた時、コードアナライズの結果を話してもしょうがないでしょう?

「ああ、ぼくにとっては画期的だったね。ぼくは作曲が趣味だから、カントリー風な曲作りたいときは、もろカントリーにいくんじゃなくて、『夢の人』を一回弾くんだ。それから作曲に取り組むと結構イメージに近いものができるんだ。」

とか、そういうプライベートな答えでいいじゃないですか。なぜなら、

「何年の作品で、どんなアルバムに入っていて、世間的評価はどんな感じで、偉い人は何て言ってて、ポール自身は何て言ってる」みたいなことはwikipediaに書かれているからです。そのくらい調べてください。それ以上のことは自分で考えればいいんです。

 

     

10、イエスタデイ - Yesterday
オリジナルキーはFです、、曲を聴くと分析するのがいつも馬鹿らしくなる普遍的なポップソング。


The Beatles Yesterday (Original)

この曲のポイントは、なんといっても歌い出しのI-VIIm7のリディアン的進行とメロディックマイナー、そしてエンディングラインです。


通常はVIIはVIIm7ではなく、VIIm7(b5)にならないといけないからですね。

G |F#m7 B7 |Em Em/D |C D7 |
G |Em7 A7 |C G |

最初のF#mですね。これを、
例;G |F#m7(b5) B7 |Em~
が"正しい機能和声解釈"です。でもこれだとメロディと合わないんですね。
ポールは完全にF#m7で合うメロディを作っています。

 

もう少し難しい話をすれば、メロディラインも「メロディックマイナースケール」で最初の部分ができています。通常の短音階ではないんですね。
"yesterday all my trouble seemed so~"
のmyとtroubleの音に#がついて、c#とd#になっているんです。そうすることによって母体となる音階が、
e-f#-g#-a-b-c#-d#
となります。これがEメロディックマイナースケールです。


この曲はGメジャー/Eマイナーですから、本来なら
(Gメジャースケール)g-a-b-c-d-e-f#-g
(Eマイナースケール)e-f#-g-a-b-c-d-e
となっていないといけないところが、上記のように変化しています。


でも別にメロディックマイナースケールを使おうとしたのではなかったかもしれません。まあたくさん音楽を聴いている人は、作ったコードの流れでメモリーされている感覚がふっと甦ってフレーズが出る、という感覚で作曲できますからね。

 

m7を使っても、これは理論的にヘン、なんていう感覚ではなく、ふっと出てきた流れで、なんかイイカンジだな、ナンカコレ使えないかな、というクリエイティビティですね。

すみません、本当の経緯は分からないのですが。不定調性論が「作曲時の思考学」を結構重視しますので、その時作曲家が何を考えてどう判断しているのか、を探る必要があります。そんな学問無いでしょ??

 

また「リディアン進行」と言われる所以ですが、リディアンモードの七つのコードは、
IM7-II7-IIIm7-IV#m7(b5)-VM7-VIIm7-VIIm7
となり、IM7とVIIm7がでてきます。これがI-VIIm7とリンクするわけです。他のモードも調べてみて頂くと分かりますが、IM7とVIIm7を持つのは汎用的なチャーチモードではリディアンだけです。

これによって、IM7→VIIm7はリディアンの特性進行だ!、と考えるんです。
結果使用できるモードもリディアンになります。
Gリディアンは、
g-a-b-c#-d-e-f#-g
です。
G=g,b,d
F#m7=f#,a,c#,e
これでGリディアンが成立してしまうんですね。

もちろんリディアンがどうこう、とか分かってもなんの足しにもなりません、ビートルズが使った手法だ、と自慢する以外特に役に立ちません。作曲時にこのことをいくら知っていてもあまり役に立たないでしょう。大事なのはそういうことではなく、

「こうした手法がある、と普段知っておくことで、作曲時に脳がフル回転できる」

つまりエネルギーになるんです。もし古典和声が絶対だ!と10年間それだけを教わった作曲家と数百のアーティストの作品を聴いたことがある作曲家では、作曲しているときの脳は、どう違うでしょう。

「ああ、こんな方法がある」と脳に覚えさせることで、その手法が脳に定着すると、その後あなたが新曲を作る際、信じられないようなアイディアに結び付く可能性がある、ということです。

そういう可能性が自分にもある、ということを確かめるために、呼び寄せるために、日々勉強するわけです。自分はビートルズみたいになれない、と潜在意識が思ったとたん、そうはなれません。せっかく音楽をやる時間に恵まれたのですから、シンプルに謳歌すればよいと思います。たのしーーーーー!!だけで良いと思うのですが。

 

鍛えるべきは感受性であり、普段音楽を聴いたら、あ、今の良いなぁ〇〇の時のこういうときに使えるな、あ、今のは自分は使わない、とかはっきり“判断”する癖をつければ、自ずと自分がどんな好みかはっきりします。

 

展開部
B7sus4 B7 |Em D C Em |Am6 D7 |G |
B7sus4 B7 |Em D C Em |Am6 D7 |G |

ここではAm6が良く取り上げられます。
演奏はAmでも良いのですが、メロディがナチュラル6thの音を用いています。
ここは不定調性的には、C(#11)でもF#m7(b5)でも良いです。

m6のサウンドって、どう覚えれば良いですか?という時にもyesterdayは活用できますね。
なんとも、取り戻せない昨日感、やるせない明日感がこの6thのサウンド周辺にちゃんと出ていてインスピレーションをえぐられるアヴォイドノートの使用ですね。


このAmにおける六度音は、メロディックマイナーに内在しています。

本来はAmの三度cとトライトーンになり、ドミナントの響きを与えることからAmのトニックとしての響きを本来阻害する音なのでアヴォイドされないといけない、と考えることもできますが、メロディックマイナーは昔から使われていますし、この切ない感じは不協和というよりも切実な傷心というイメージが湧き、アヴォイド感が逆に効果的になっています。

この曲では冒頭にメロディックマイナーの旋律が出てきますので、ここでのm6はとても説得力を持ちます。この辺りのバランスや、繊細な音利用の感じ全体を眺めても、ポール・マッカートニーという人の凄さ、というか、イケイケだったんだろうな、みたいに感じます。

あなただってそこに行けます。あなたが可能性を自分で遮断しなければ。

 

似た例で除外されている例は、IIm7のviです。これは逆にIIm6がトニックマイナー6thの響きを持ちすぎる、として基本アヴォイドです。いろいろ理屈を優先させようとすると、面倒ですよね。理論は創る人の個性やイレギュラーなケースまでを考えていないからです。不定調性論はそこに独自の「余地」をつくることで、100年後どんな音楽手法が来ても、不定調性論で把握ができるように作っています。

「理論を覚えた後全てを忘れろ」といいますが、その忘れ方の教授法の一つが不定調性論です。

 


エンディング
G A7 |C G |
このA7はドッペルドミナントです。II7です。
これを、
例;G Am |C G |
としてみてください。これでも歌えますが、A7にした方がお洒落になりますよね。
これぞドッペルドミナント!という印象です。ちょっとアゲアゲになる雰囲気(Amより躍進感がある)が何とも言えません。
しかしこのA7はドッペルの役割を果たしていません。
VであるDにいかず、IVであるCにいくからです。しかし
例;G A7 |D G |
これでは、「あの美しいエンディング」にはなりません。

なのでII7の使い方、というときの一つの用例としてこの進行を紹介することもできます。つまり

「II7はドッペルドミナントとかそういう汎用的なものだ、なんて先入観を持って使ってはいけない。」

という事例として、です。

潜在意識は怖いですよ。「こうあるべき」と思っていると、そういう曲しかできないですから。ビートルズの曲はどれも自由です。精神が自由、反抗的、だったからこそ生まれた作品群です。心理学の素材にしてもいいくらい。「芸術作品精製心理学」というのが無いのがいたたまれます。そこで少しでも「作曲者の心理状態」を考えた音楽分析も時々ここで書かせて頂ければ幸いです。