音楽教室運営奮闘記

音楽と教育と経営の雑記ブログ~不定調性論からの展開

27, ひこうき雲(和音がもつ言語性と作曲への活用)

ユーミン楽曲の不定調性進行分析

27, ひこうき雲 / 松任谷由実(荒井由美)

シンガーソングライターの真骨頂は、自分の言葉に意味を与えるメロディ、メロディを表現する語感、メロディにはない真意と歌詞には書いていない真意を表した音楽を自分で自在に配置でき、表現できることなのではないかと思います。

   

M-Bankのユーミン楽曲レポート(ご希望の方はM-Bankまでご連絡ください、無償で提供しています)でも、その辺りを書いたのですが、ユーミン楽曲が教えてくれる沢山の作曲の手法は、曲を表現したい人にとってのまさに宝の山であると思います。かつ作詞もああいう感じですから作詞作曲の至宝な訳です。
できれば自分の音楽を模索したい方は、ぜひ一度好きなアーティスト(シンガーソングライター)を全曲分析してみてください。10曲程度ではなく、全曲です(出来れば全部アーティスト自身が作った曲を持つアーティストを→それから名だたる作曲家別とか、ヒット曲別に楽曲を見ていかれると少なくとも良い勉強になります。そこからヒット曲が書けるかとか、自分の音楽が見つけられるかは、勉強というよりも人との出会いがあるかどうかのほうが大きいと思いますので、外にいこう!)。
できれば100曲以上あるアーティストが良いと思います。

「楽曲をこのやり方、この発想で自分も作ってみたい」と思わせてくれるのがシンガーソングライターの素晴らしいところです。そこにはヒントがたくさんあります。理論書の中に作曲のヒントを見つけられるのは、こうした楽曲研究をした人だけでしょう。


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作者の意図が、聴き手一人一人にいつも完全に当てはまるとは限りません。
なぜなら、人間一人一人、感じ方も感性も異なるからです。
ゆえに「自分がどう聴くか、どう解釈するか」が大切だと思います(先生が、こうだ、と言ってもまずは信じないこと)。作曲家が「これは黒だ」といっても、あなたがもし「白だ」と感じたら、それはあなたにとっては白なのです。そしてその印象は、明日変わってるかもしれません。だから音楽で議論することは時間がもったいないです。感じて得たエネルギーを「生きる力」にすればよいのです。やがて量子力学が音楽の本質を見つけるまで、音楽は未知の存在であり続けると思います。誰もその答えを知らないのだから、あなたはあなたの信念を力強く形成すればよいのです(音楽についての『守破離』)。

 

下記はあくまで私個人の感じた観点です。
皆さんも、ご自身の感覚で聴き込んでイメージを作られてください。

なお、同曲が作られた時代の諸先輩の苦労は私共は計りかねるので、それを書くことはできません。ただその苦労のお陰で、この曲を何十年も聴くことができ、ただただもう手の届かない音楽であることはどんなに分析をしても変わらない、ということを注記させていただきます。

Aメロ
Eb--EbM7--Gm7--
Ab--AbM7--Fm7--
Bb--Bb7--Gm7--
AbM7--Bb7


ここでのキー(調)はEbメジャーです。
それぞれのはじまりは、

Eb=トニック
Ab=サブドミナント
Bb=ドミナント

の主要三和音です。これを節目節目において確実に前に進んでいきます。Fm7で区切られています。面白いです。普通はFm7-Bb7というセットで一気に進んでしまうところを、ためてためてゆっくり進んでいきます。

そのせいか歌詞のメッセージをじっくり聴かせるような効果を感じました(影響されている曲があるかどうか、とかいう知識は後回し、にして)。
このゆっくりとした流れが「懐かしさ」のような感覚を演出している、みたいに感じるのです。たたーたーという下がるリズムのつぶやきのような旋律も影響しているでしょう。


これをヨーロッパ臭への憧れ、みたいにただ外観だけで捉えてしまうと、それだけで分析は終わりですし、自分の曲に生かす時の思考法には繋がらないと思います。そういう理解ではなくて、自分の感覚として、それは音楽的にどのような表現の方法に納められるのか、を考える、というのがこれからの音楽学習になるんじゃないかと思います。もしこの曲を聴いて、納豆が食べたくなった、と思ったら(極端な比喩です)、それでいいのです。そこから理解は転回していきます。そこで止めず、展開していくべきです。持論を展開し過去たる信念まで仕上げていきましょう。

     


===同曲の三小節目

|Gm7 B♭m7 |A♭M7 |のB♭m7について===

普通に作ると、
|Gm7 B♭7 |A♭M7 |
こうなりますよね、

ジャズでは、A♭M7に結びつけるコードとして下記のように用います。
|E♭M7 B♭m7 E♭7|A♭M7|
B♭m7での跳躍するような変化感がドラマチックですね。この曲のB♭m7は、その考え方そのものを結果的に発展させた利用法となっています。
|Gm7 B♭m7 |A♭M7 |
(そら)|を-かけてゆく| |


「空をかけてゆく」の跳躍感が、実際にB♭m7「跳躍する意思」を訴えるような音楽的クオリアとして添えられ、歌詞の語感と一緒になり、それまでただの一時転調コードであったVm7がたしかに「跳躍」という“意味”を持っているコードに進化したように感じます。これが衝撃の翻訳になっているかどうかはともかく、そういう当時の音楽理解の中にはない言語感覚がこの和音にあったのでは?などと考えておきます。


歌詞のメッセージを表現するコードを探す、という手法から出てくるコードというものもあるのではないか、ということをこの曲は教えてくれますし、そういうことを技法化して若い方が学習期に身につければ、ポピュラー和声もどんどん進化するのではないか、と思います。

もちろんユーミン氏は、単純に短三度上げたら気持ち良かった、というだけかもしれなません。それでもあなたが「良い」と思える感覚があるならそちらの方があなたにとっての真実で、そこからあなたはもっと新しい解釈や技法を生み出せるかもしれません。大事なことはあなたにとってのこれからのことだと思います。


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またこの曲の最後、フェードアウト部分で、
|A♭M7 |B♭m7  |
=degree=
|IVM7 |Vm7  |
このB♭m7は、このサブドミナント→ドミナントマイナーというトニックに戻らない和声進行の浮遊感が「ひこうき雲に乗ってどこまでも」という印象を与えるとともに、「空をかけていくシーン」「残った雲がたなびいているシーン」がずっと連続している映像的、アニメーションの印象を残しているのを感じます(単にアニメで使われたから、そう思う、というだけかもしれません。しかしこの辺りが、人のイメージを構成する曖昧なものだと思います。だから他人の発想や価値観も決してすぐには否定せず、そのまま受け入れて自分の中から発展させてみましょう)。

この二つの和声の中にいくつもの、歌詞になっていないメッセージを感じます

エンディング、フェードアウトに意味がある曲って他にもあるけど、ああ、こういうことだったんだ、みたいな理解に進めば、自分が曲を作る時、「今回はエンディングを象徴的にしたい」みたいな発想ができるし、そうなって初めて楽曲分析というのは現代的になるのではないか、と思います。

ひこうき雲 


ジャズ理論による、記号化とコードアナライズ、スケールアナライズによる楽曲の理解は形態分析に終わってしまう、という場合があります。

つまりコードを分析し、機能を書き、転調を楽譜に書き込んでも、作曲の際にはそれが柔軟なインスピレーションの起爆剤にはなりにくい、

ということを感じておられないでしょうか。
それでは、どのような意識を持てば、この曲に使われた技法を自分なりに実践的に用いることができるのか、という点ですが、そうした考え方を中心にまとめて個人個人の「音楽的創造力」を以下に刺激して、作品制作につなげるか、ということを考えているのが不定調性論です。


「作曲された作品から受ける価値観」「作曲者の心情を想像した時に感じる価値観」「その音楽的進行と展開から自分が得る心情的意味」をまず自分なりに読解し、そこから自分の作品や編曲、ミックス等に生かす創造力の源にする、ということが自分できるようになるための学習フォーマットです。これを体系的にやるのは三ヶ月とか半年とか一時期でいいと思います。講師によるサポートが必要な段階です。これが自分でとっとことっとこできる人は天才なのでむしろお任せします笑。

"イメージ、創作力を維持してもらい、やる気を提供・維持できる"のが音楽スクールができる音楽を創造する人への一番の支えになるのではないでしょうか。そのためには「あなた自身が、自在に考えて欲求して良いのだ」ということを改めて発見することがとても大切であると考えています。

 

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